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【SPARKLE スイーツ法務の事件簿】アイスクリーム屋の店頭で転倒事件(日本)
こんにちは。スパーくまです!本連載は、スイーツに関する古今東西の興味深い事件を取り上げるコラムです。
今回は、「サーティワンの日」にショッピングセンターで起きた転倒事件(岡山地判平成25年3月4日(ワ)第1389号)を紹介します。
当時71歳の女性(原告)は、サーティワンアイスクリームの売場前の通路を歩行していたところ、転倒し、骨折の傷害を負いました。そこで、ショッピングセンターを運営する株式会社天満屋ストア(被告)に対し、不法行為等に基づき、損害賠償金等の支払を求めました。
裁判所は、被告に対し、信義則に基づく安全管理上の義務を認めた上で、被告がその義務を尽くしていないことは明らかであるとして、被告の損害賠償責任を認める一方で、原告にも20%の過失を認めて、過失相殺によって、原告の請求は一部認容という結論となりました。
1.今回のスイーツ
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サーティワンアイスクリームは、1945年アメリカのカリフォルニア州の郊外にBaskin(バスキン)氏、Robbins(ロビンス)氏によって創設された世界最大のアイスクリームチェーンで、現在の社名の正式名称は、「B‐Rサーティワンアイスクリーム株式会社」です。
同社は、2000年以降、ショッピングセンターが多く建設された時代変化に合わせて、以前出店していた駅前や路面店から、ショッピングセンター内への店舗展開に舵を切りました。その結果、現在では、店舗の多くがショッピングセンター内に出店しています。
なお、同社の主要株主の一社は、株式会社不二家で、この株式会社不二家は、2008年より山崎製パン株式会社の子会社となっています。
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2.事件の背景・経緯
当時71歳であった原告は、被告の運営するショッピングセンターに客として訪れ、1階にあるサーティワンアイスクリーム売場前の通路を、買い物袋を載せた大型のショッピングカートを押しながら歩行中に足を滑らせて転倒し、右大腿骨と第二腰椎の圧迫骨折の傷害を負いました。事故前は、日常生活に問題となる膝関節の可動域の制限はなかったものの、事故後は、膝関節の機能に著しい障害を残す後遺障害が生じました。
そこで、原告は被告に対し、不法行為又は民法717条1項に基づき、損害賠償金等の支払を求めました。
民法
(不法行為による損害賠償)
第709条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
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3.法的論点・判示
(1)不法行為責任について
本判決は、不法行為責任を認める否かの判断の前提として、ショッピングセンター一般に課される顧客に対する信義則に基づく安全管理上の義務について、以下のような判断を示しました。
「本件店舗のようなショッピングセンターは、年齢、性別等が異なる不特定多数の顧客に店側の用意した場所を提供し、その場所で顧客に商品を選択、購入させて利益を上げることを目的としているのであるから、不特定多数の者を呼び寄せて社会的接触に入った当事者間の信義則上の義務として、不特定多数の者の日常あり得べき履物、行動等、例えば、買い物袋を載せたショッピングカートを押しながら歩行するなどは当然の前提として、その安全を図る義務があるというべきである。」
そして、本判決は、被告に課される具体的義務については、当日の混雑状況や飲食スペースの状況、商品の特性、予見可能性などを考慮して、以下のような判断を示しました。
「……本件事故当日は、本件売場において、『サーティワンの日』として一部のアイスクリームが値引きされて販売されており……本件事故当時も、約20名の客が行列をつくっていたこと、本件売場の飲食スペースは、机が数個、椅子が数脚存在するだけであったことが認められ、……アイスクリームという商品の特性をも併せ考慮すると、本件売場でアイスクリームを購入した顧客が本件売場付近の通路上でこれを食べ歩くなどし、その際に床面にアイスクリームの一部を落とし、これにより上記通路の床面が滑りやすくなることがあることは容易に予想されるところである。」
「そうすると、本件店舗を運営する被告としては、顧客に対する信義則に基づく安全管理上の義務として、少なくとも多数の顧客が本件売場を訪れることが予想される『サーティワンの日』については、本件売場付近に十分な飲食スペースを設けた上で顧客に対しそこで飲食をするよう誘導したり、外部の清掃業者に対する清掃の委託を閉店時間まで延長したり被告の従業員による本件売場周辺の巡回を強化したりするなどして、本件売場付近の通路の床面にアイスクリームが落下した状況が生じないようにすべき義務を負っていたというべきである。」
そして、本判決は、以下のとおり、被告に不法行為責任を認めました。
「被告が、これらの義務を尽くしていないことは明らかであり、これにより、本件売場付近の通路の床面にアイスクリームが落下した状況を生じさせ、本件事故が発生したのであるから、被告は、不法行為に基づき本件事故により生じた損害を賠償する責任がある。」
(2)過失相殺について
民法
(損害賠償の方法、中間利息の控除及び過失相殺)
第722条
(※1項略)
2 被害者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の額を定めることができる。
不法行為における過失相殺(民法722条2項)とは、被害者に過失がある場合に、加害者が全面的に損害賠償責任を負うことが公平の観念に反するとして、損害賠償額を減額する制度のことをいいます。
本判決は、被告に不法行為責任を認めつつ、以下のとおり、原告にも過失があったとして、20%の限度で過失相殺を認めました。
「原告としても、本件売場においてアイスクリームを販売しており、かつ、本件事故当時も約20名の客が行列をつくっているような状態であったことを認識していたのであるから、本件売場付近の通路上にアイスクリームの一部が落下して滑りやすくなっていることも予測できたというべきであり、原告にも、本件売場前の通路を歩行するに当たり、足元への注意を払うべきであったのにこれを怠った過失があるというべきである。」
「もっとも、前記認定事実によれば、原告は、本件事故当時、買い物袋を載せたショッピングカートを押して歩行しており、前方の床面が見にくい状況であったと考えられるのであり、このことをも考慮すると、原告の過失割合は20%にとどめるのが相当である。」
4.さいごに
今回のような店舗内での転倒事故は、実は珍しいものではありません。消費者庁には、平成21年9月から平成28年10月末までに、買い物中に滑ったことや、つまずいたことなどによって起きた転倒事故が602件が寄せられています。
本判決では、被告についての不法行為責任は肯定されましたが、店舗内での転倒事故において店舗側に不法行為責任が否定された事案もあります。例えば、平日夕方の混み合うスーパーマーケットにおいて、利用客が店舗内のレジ前通路で床に落ちていたかぼちゃの天ぷらを踏んで転倒し、負傷した事例(東京高判令和3年8月4日令和3年(ネ)第263号)では、以下のとおり、被告についての不法行為責任を否定しました(※なお、その後最高裁は、被告の上告受理申立てに対し、不受理決定)。
「レジ内の従業員にとって、レジ前通路の床は、レジ台等の死角となるため視認することができない部分があり……、仮にその視認可能な範囲に落下物があったとしても、店舗内が混み合う時間帯には……レジ内の従業員がレジ打ちの作業に従事しながら当該落下物を速やかに発見してこれを取り除くことは困難であったこと、レジ付近の売場における品出し等の作業は、店舗内が混み合う時間帯は利用客の妨げとなるため通常行われておらず、その担当の従業員もレジ付近にはいなかったことが認められる……ものの、レジ前通路に本件天ぷらのような商品を利用客が落とすことは通常想定し難いこと等から、控訴人において、顧客に対する安全配慮義務として、あらかじめレジ前通路付近において落下物による転倒事故が生じる危険性を想定して、従業員においてレジ前通路の状況を目視により確認させたり、従業員を巡回させたりするなどの安全確認のための特段の措置を講じるべき法的義務があったとは認められない」として、被告についての不法行為責任を否定しました。
本判決と東京高判令和3年8月4日を比較すると、店舗内での客の転倒事故の事例も多種多様であり、転倒事故の発生の具体的危険性の程度や店側の結果予見可能性や結果回避可能性等、事案により店舗側に課される責任の有無や判決の結論は変わるといえます。
さて、今回、ご紹介したサーティワンアイスクリームについてですが、スパークル事務所内では、ひとりひとり違うフレーバーをいただきました。サーティワンアイスクリームの店頭には、たくさんのフレーバーが並んでいるものの、ついつい同じ味を選んでしまう方も多いかと思います。ボックスで買うと、普段、自分では選ばないフレーバーに出会えるきっかけにもなり、楽しめます。皆様も、冬の寒い時期に、今まで召し上がっていなかったフレーバーに挑戦してみるのはいかがでしょうか。
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