舞台『僕はまだ死んでない』 矢田悠祐×上口耕平×ウォーリー木下 SPインタビュー
〝終末期医療〟をテーマに描かれる本作。病に倒れ、意識はあるのに身体が動かず、意思の疎通が取れなくなってしまった主人公・白井直人と、彼を気にかける友人・児玉 碧を交代制Wキャストで演じるのは矢田悠祐と上口耕平。今という時、掛け替えのない命、大切な人との時間……それぞれとどう向き合っていくべきなのかを考えるきっかけを、ウォーリー木下原案・演出で届ける。
コロナ禍により、生活するにおいてあらゆる変化を強いられている時代。人と会って思いを伝えることも簡単に出来ない……それが突然訪れる最期の場面でさえも叶わない時代だからこそ、改めて今までの〝当たり前〟の尊さに気付かせてくれる作品になっている。稽古の最中、現在進行形で人間のいろんな感情と向き合う三人にインタビューを実施した。
【interview】
ウォーリーさんには企画当初からVRでの配信と有観客での上演、両バージョンの構想があったそうですが、この二つの軸の可能性についてどうお考えだったのでしょうか?
ウォーリー:企画当初は1年半前の夏。今もですが、もし37.5℃以上の熱が出たら役者さんは出演できなくなってしまうんですよね。それでこれまでにもいくつもの公演が中止になったり、そもそも「そんな状況だからやらないでおこう」って公演自体が無くなったり、延期になったりしているのを目の当たりにして。でも映像だったら稽古と撮影を入れて2週間くらい……そこさえなんとかなれば、半永久的に上映できるじゃないかと。それでVR版を作ったんですけど、舞台向きな脚本だったしやっぱり舞台もやりたいねという話になって。
そういう経緯だったのですね。矢田さんと上口さんは、2役を交互出演で演じていくというのはとても大変だと思うのですが、稽古していて感じていることは?
上口:率直に、矢田くんの存在にとても救われています。
矢田:僕もです。本当に共有できてよかったなっていうことばかりですね。例えば、主人公の直人はずっと寝っぱなしでピクリとも動けないわけなんですけど、初めて稽古でやったシーンが30分くらい動かず……っていう。それがもう、やばかったです(笑)。
上口:修行みたいな感じだよね(笑)。
ウォーリー:あははは(笑)。
上口:実際にやってみると初めての境地と言いますか。目を瞑っているシーンとはまた別に、意識があって目を開いているというシーンもあって、この状態で居続けるというのはかなり未知の体験でした。それを一人ではなく二人で経験できているから、「こうだったよね」と共有することで「頑張ろうぜ!」って鼓舞し合える感じがする(笑)。
ウォーリー:確かにね、それは分かる。
上口:ものすごく前向きな活力が湧いてくる感覚がありますね。
矢田:だからいろんな場面で助け合うことが出来そうですね(笑)。実際に寝たきりの方にも、床ずれしないように体をずらしてあげたりすることってあるじゃないですか。そういうのが必要なのかなと思ったり。
ウォーリー:そうだね。
矢田:「こういうことしてほしいんやな」とか、両方の役をやっているからこそお互いによく分かると思うんです。
稽古を重ねる中でたくさん発見があるんですね。
矢田:そうですね。
ウォーリー:二人とも、開いた目がどんどん赤くなっていくんだよね。
上口:ははは(笑)。
ウォーリー:誰か、目薬目薬!とか思いながら見ていましたよ(笑)。
矢田:俺もドライアイやから大変でした。
上口:そうなんですよね。コンタクトもつけてるし。本番はコンタクト取った方がいいのかなとか色々考えながら稽古しましたね。苦労というよりは今は本当に一緒にトライしている状況なので、場面場面で救われていますね。
二役を演じる難しさについては?
矢田:物量的に言ったらもちろん、碧の方がセリフ量が多い。直人は独白シーンはありつつ、会話をするシーンが無いわけで。その二つをどちらもやるということに関しては、大変というよりも、直人という人物の過去、彼の人間性、どう思われていたか……そういう全ての背景を周りの人間が作っていかなくてはならないこと、それってとても難しいかもしれないと思っていて。碧を作っていく中で、その答えも見つけられたらと思いますけど。
上口:でもすでに、同じ人物を演じていても違う人のような、そういう〝差〟みたいなものを感じていて。もちろん共通する部分もあるのですが、同時に存在する全然違う部分も発見できているので、面白いなと思っています。
ウォーリーさんも現段階で、すでにお二人の違いを感じていますか?
ウォーリー:もちろん全然違いますよ。そりゃもう、ヤンキーとヤンキーじゃないくらい違います。
矢田:ははは!
上口:どっちがどっちなのかは、後で聞きますね(笑)。
矢田:多分、上口さんがヤンキーの方でしょうね。
ウォーリー:いや、お前やろ!
矢田:ははは(笑)。
上口:くそ~、やっぱりそうか……!
ウォーリー:(笑)。本当にアプローチが全然違うんですよ。まあ、まだ今は二人ともおまかせでやってもらってるので、これからディスカッションしていく中で、芯の部分は似ていくんだろうなと思います。そして外見に関しては、僕もそんなに極端な人物造形をして役作りをしてほしいと思っていないので、それぞれが持っている役と重なる部分をアウトプットして作り上げていくのかなと。二人の持っているものも全く違うから、楽しみですね。
上口:今は本当に色々トライさせてもらっています。
矢田:そうですね。本を読んで考えてきたことを色々「こうかな、どうかな」とやっている段階ですね。でも僕、個人的には……直人と碧がこれまで築いてきた関係を考えると、「うわ、上口さんと会話でお芝居したい!」って思って。
ウォーリー:なるほどね〜。
上口:嬉しい!
矢田:そういう気持ちをなんて表したらいいか分からないんですけど……。
上口:そうか、確かにね。直人が倒れてしまってから劇が始まるから、劇中では二人が会話することは無いもんね。
矢田:碧と直人は本当にめちゃくちゃ仲良かったんです。だからやりたかったなって、ちょっと思っちゃいましたね。
でもだからこそ、その「会話したい」という気持ちもお芝居に出てきそうな気がします。実際に会話が出来ないからこその切なさというか。
上口:確かに、そうですね。
ウォーリー:稽古をしていて、やっぱり直人の存在って大きいなって思ったんですよ。特に今日稽古したシーン……目が開くだけで他は全く動かせない息子の状態というものを体験している父親と、それを見ている人がいるみたいな構図は、本当に切実に胸に迫るものがあったと言うか。だからこそ、直人はこの作品のキーパーソンなんだなとも思いましたね。
お二人は最初にこの脚本を読んで、どういう気持ちが生まれましたか? この作品に触れ、実際にご自身が演じることも含めて考えた時に感じたことを教えてください。
矢田:僕は今31歳で、今までそういうことに触れる機会が少なかったというか……。間近で誰かを見送ることはあんまり無かったのですが、でもいずれはそういう現実に接することがあるわけですよね。
ただ、日常的にそういうことってあんまり考えないじゃないですか。それは観に来てくださるお客さんもきっとそうだと思うし、それを疑似体験できるのって凄いことだなと客観的に思いまして。
〝今の大切さ〟とか、当たり前のことだけど忘れがちなこと、例えば自分が今こうして自由に動けることもそうだし、親や友達と会えることもそうですが、そういう一つ一つが奇跡だと気付けるというか。直人で言えば、普通に首を動かせるだけでも全然違うんだなって思いましたし。
上口:それは僕も思った。
矢田:舞台を通してそれらを体験することで、今後生きていく上での捉え方とか色々なものが変わるのかなって思いました。
上口:僕は最初このお話を頂いてまず、そういうことを家族や身近な人とディスカッションしたくなったんです。母親に電話して、「こういう作品あるんだけど、こうなったらその後どうする? どう思う?」とか聞いたりもしました。それで本当に2時間くらい話し込んで、途中から口論みたいになったりとかもしたんですよ。でもこういう話を母親とする時間、そのきっかけをくださったのは紛れもなくこの作品で。そういう力がある作品なんだなと思ったんです。
そして実際に共演者のみんなと時間を過ごしていく内、今度は徐々にリアルになっていって……いつ何時、自分に何が降りかかるか分からないんだって気付くわけです。こういうことが実際に起こる可能性というものをリアルに考え出しちゃって。一瞬一瞬を大切に、とか……ありきたりなんですけど、思って。「何をどう残していこうか」みたいなことを考える中で、この先自分は一体何を残していけるんだろうなっていうことも考えました。
ウォーリーさん自身は、この作品のメッセージ性をどう捉えていますか。
ウォーリー:二人が話してくれた……そのくらい敏感にこの作品がお客さんに伝わったら最高ですよね。だからそういう作品にまで持っていけたらいいのかなと。どうしてもちょっと難しいし、舞台としては地味じゃないですか(笑)。病室のワンセットだし、歌も踊りも無いですし。でもこういう世界を覗き見ちゃったことで、お客さんとしては一生かけて何か考えなくちゃいけないんだなって思うきっかけになればもちろん嬉しいし、そこまで大げさじゃなくてもいいので少なくとも、舞台を観ている間だけでも大事な人のことを考えたり、それこそ自分が何を残せるかを考えるきっかけになればと。
それこそ本作はVR演劇があってからの有観客演劇を実施する作品ということで、〝演劇を劇場でやる意義〟を皆さんはどう感じていますか?
上口:変わらず厳しい状況ではありますが、だからこそこのやりとりを、同じ空気を共有させていただけるっていうことに大きな意味があるんじゃないかなと思うんですよね。今だからこそ、っていうか。
ウォーリー:あ! 〝Sparkle〟ってそういう意味ですか? 舞台と客席の間でSparkleする(きらめく、輝く)ってことなんじゃないの?
上口:あー!
矢田:きっとそうです(笑)。
上口:ははは(笑)。
話は変わりまして、皆さん今作が初めましてだと思いますので、お互いに気になる事はありますか?
上口:僕、ウォーリーさんの私生活っていうか、趣味が知りたいです。何をしているときが好きなのかなって、ちょっと聞きたいなと思いました。すごくいろんな世界を持っている方というイメージなので。
ウォーリー:僕は旅行が一番好きなんだけど、今は全く旅行できないじゃないですか。だからもう翼を折られた……、
上口:エンジェルですか?
ウォーリー:エンジェルなのよ(笑)。
上口:あははは(笑)。
ウォーリー:いや、エンジェルじゃないな(笑)。基本、僕のストレス発散は旅行でした。
上口:それはちょっと意外だったかもしれないです。
ウォーリー:そう?
上口:家の中で色々作ったりしてそうだなって。
ウォーリー:コロナ禍になってからは部屋の中で色々やってはいたけどね。じゃあ、矢田くんの趣味は?
矢田:僕の場合は、ステイホーム期間に始めたのがピアノでした。元々幼稚園の年中くらいから小学校卒業くらいまでやっていたんですけど、もう一回ちゃんとやろうかなと思って電子ピアノを買って始めました。あとは友達とゲームばっかりしてますね。基本は家の中で出来ることが趣味になっているかな。
上口:かっこいいね。
ウォーリー:耕平は、趣味・落語やんね。
上口:えっ、一言も言ったことないじゃないですか!
ウォーリー:ははは(笑)。
矢田:今勝手に決めたんですか?
ウォーリー:うん。
矢田:ほんまにそうなんかなって思っちゃいました(笑)。
上口:僕がどういうイメージなのか、それを今一番聞きたいです(笑)。
ウォーリー:はっはっは!
上口:嘘だと思われるかもしれないですけど、踊ることが好きなんですよ。別にちゃんとバッチリ踊るってわけじゃなくて、好きな曲とかをかけて……って笑われちゃいますね(笑)。
ウォーリー:あ! 今日すっごい面白い話が一個あって。ラジカセを持ってきた碧が直人に音楽をかけてあげるシーンを稽古していたんですよ。で、その時は碧役が耕平で、こいつ持ってきたそのラジカセを地面に置いたのよ!
上口:はははは!
ウォーリー:そんな人いる!?と思って。普通さ、ラジカセって棚とかそういうところに置くじゃん。だってここ病室だよ? 俺、マジで今から踊り出すのかなと思って。地面にラジカセ置いた時の周りの演者の人のビックリした顔見た?
上口:(思い出した様子で)あ、確かに地面に置いてましたね! イメージはこういうやつで(肩にラジカセを担ぐポーズをして)。
矢田:ストリートだ!
ウォーリー:そんな馬鹿な……地面にラジカセ置くタイプなんだ……と思ってね。
上口:そうなんですよ。だから気分良くなったタイミングで音楽流してしばらく好き勝手踊る……みたいな。たまにその動画を撮ってみようかな、みたいなこともしたり。
矢田:おー。
上口:で、この動き面白い!みたいなものを見つけるのが好きですね。あと、今年から読書をするようにしています。僕、大学では文学部だったんですけど、改めてちゃんと読みたいと思って。そうやっていろんな物語を活字で追うことの楽しさみたいなものを感じています。
ありがとうございます。それでは最後に、この公演を楽しみにされている皆さんへメッセージを。
ウォーリー:ちょっとブラックなコメディとしても観られるし、もちろん演出で不思議な世界を作ったりもします。重いテーマだと身構えるかもしれませんが、いつも通り総合芸術としていろんな見方が出来る作品にしようと思っていますので、ぜひ期待しておいてください。
矢田:ウォーリーさんもおっしゃったように、見てほしいポイントがどこかっていうことではないんですよね。別にこの物語の中で何かしらの答えを出すわけでもないし。でもだからこそ、すごくリアルなのかなって思います。テーマだけを聞くとかなり固い感じなのかなって思うかもしれないですが、面白い掛け合いとかコメディ要素もあるので、一回肩の力を抜いて観ていただけたら。その先で、きっと何かいろんなものが受け取れる作品になっていると思うので、とにかく劇場で観てほしいです。
上口:きっと皆さんそれぞれいろんな体験をされてきている中で、このテーマを話し合えるコミュニティ……みたいなものじゃないですけど、そういう切り口の作品になったら面白いし素敵だなって思うんです。劇場なので、セリフがセリフではないような……〝生の会話〟というものを届けたいなと思っています。せっかくお客さまに来ていただくので、人の呼吸と言いますか、そういうものをぜひ感じていただいて。作品を通して色々な体験をしていただけるといいかなと思います。
あとはもう純粋に、僕らの役が交代して2パターン上演しますので、この作品の醍醐味として味わっていただけたら。それぞれの持つ空気感みたいなものを感じて、知っていただけたら嬉しいです。
【information】
舞台『僕はまだ死んでない』
【present】
矢田さん・上口さんの2shotサイン入りチェキを3名様にプレゼント!
応募方法:
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※当選者にはTwitterのDMにてご連絡を差し上げます
※応募締切:2022年2月28日(月)23:59まで
テキスト:田中莉奈
撮影:田代大樹
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