【植田圭輔×佐々木喜英】舞台『文豪ストレイドッグス STORM BRINGER』 SP対談
『文ステ』シリーズ最新作は、舞台『文豪ストレイドッグス STORM BRINGER』。原作は朝霧カフカ著の同名小説(角川ビーンズ文庫刊)。前作の舞台『文豪ストレイドッグス 太宰、中也、十五歳』に続く物語で、中原中也と、新たに登場するポール・ヴェルレエヌを中心に描かれる。
これまでのシリーズで中原中也を演じ続けている植田圭輔と、シリーズ初参加となるポール・ヴェルレエヌ役の佐々木喜英にインタビュー。2.5次元舞台を中心に、最前線で活躍を続ける二人に、作品やお互いについて、旧知の二人ならではのエピソードや、2.5次元作品の魅力や想いを聞いた。
【interview】
今作『文豪ストレイドッグス STORM BRINGER』を初めてクロスメディア化するということで、その点について感想やお気持ちなどお聞かせください。
植田:舞台『文豪ストレイドッグス 太宰、中也、十五歳』千秋楽に発表された時の反響がとても大きくて、もうすでにたくさんの人に愛されている作品なんだなと思いました。シリーズの今までの流れとは違う、初の試みでもありますし、最初にこの作品をやると聞いた時は、ワクワクでしたね。
佐々木:今まで本当にたくさんの2.5次元の作品を演じてきましたが、自分が最初にそのキャラクターに命を吹き込んで、最初に言葉を発するという経験をなかなかしてきませんでした。『文豪ストレイドッグス STORM BRINGER』はアニメでも描かれていませんし、声優さんもいらっしゃいません。一から手探りの状態で役づくりをしていくことが新鮮でもあり、久しぶりだなという気持ちで、作って壊してを繰り返しながら役づくりをしているところです。
役づくりの部分で伺いたいのですが、植田さんは前作『文豪ストレイドッグス 太宰、中也、十五歳』を経てこの作品に挑むということで、前作からの違いや変化の部分で、今回大事にしているところはありますか?
植田:物語が1年経っているということと、羊という小さな組織の王から、ポートマフィアという大きな組織の一人の構成員、人間になったというところが一番大きいのかなと思います。〝仲間思い〟みたいなことは、言葉以上にそういう人ではあって、仲間を思うこと、誰かを嫌うことなど、とても人間らしい人なので、そこはあまり変わらずにいます。
今回は、〝自分が人間なのか否か〟というところが一番作品の肝にはなってきているんですが、「人間だ」とか「人間じゃない」とか言われながら、一番人間らしい行動ばかりするという、いい意味でめちゃくちゃ矛盾する面白いキャラクターです。今まではあまり意識していなかったですが、今回は完全に〝漂う〟ことを一番意識しようかなと考えながら挑んでいます。
原作を読まれた時から、そういうイメージで挑もうと固まっていらっしゃいましたか?
植田:作品が中原中也を完全に軸に置いた物語なので、自分の考えや思考というものを固めるよりは、ほぼゼロぐらいの状態で来た方が、現場も回りやすいかな、自分も楽でいられるかなと思いました。
佐々木さんは、アニメ化されていない役にご自身で言葉を吹き込んでいくということで、色んなアプローチをされているかと思いますが、現時点では演じられる役をどのように捉えていらっしゃいますか?
佐々木:特に大事にしたいのは、中也に対して「救済したい」という気持ちを強く表現していきたいなと思っています。いつもは原作のイメージをすごく大事にしたくて2.5次元を演じていて、声優さんの喋り方も毎日聞くようなかたちで役に落とし込んでいく作り方をしているのですが、今回はそれができないんですよね。本当に一から作っていて、「こういう感じで喋っていていいのかな」とか、「こういうトーンやスピード感で喋っていていいのかな」という疑問が最初は常にありました。
佐々木さんはシリーズ初参加となりますが、改めて出演する際のお気持ちをお聞かせください。
佐々木:昔から続いている作品に今回初めて参加できるのは嬉しいですし、これまでたくさんのキャストの方たちがこの作品を紡いできたと思うので、そのキャストの皆さん一人一人の想いをしっかりと背負って、ステージの上に立とうと思っています。植ちゃんとも今まで何度も共演したことがありますが、今まで本当に敵対する役ばかりで、いつか味方もやってみたいなと思っていたんですね。
植田:(笑)。
佐々木:今回初めてお話を頂いた時に、中也の兄の役だと知って、これはもしかして仲間になるのかなと思ったら、今回も敵対している役でした。
植田:一番敵対してるよね(笑)。
佐々木:ほんとに(笑)。でも、これだけ植ちゃんとお芝居で絡むのは初めてなので、そこもすごく見どころだと思いますし、二人の絡みをぜひ観ていただきたいと思います。
植田さんは今回座長を務められますが、どのようなカンパニーを作っていきたいか、新しく入る方に対して何かアドバイスがあれば、ぜひ聞かせてください。
植田:別にアドバイスがなくても大丈夫な人たちしかいないので、何もしないでおこうと思っています!
佐々木:(笑)。
植田:でも、どちらかというと中原中也を軸にした物語ですので、そちらに重きを置いて、自分のやることをやっていれば、なるべくして形になっていくんじゃないかと。初参加のドッグスメンバーもいるんですが、基本的にはずっと一緒のメンバーたちがほとんどです。『文豪ストレイドッグス』というか、中屋敷(法仁)さんの演出の、ドッグスチームの色を理解している子たちも本当に多いので、何も言うこともありませんし、信頼しています。僕は僕自身のやることを精いっぱいやっていこうかなと思っています。
植田さんと佐々木さんは長いお付き合いですね。佐々木さんが演じるポール・ヴェルレエヌは、中也のことを「弟」と呼んでいますが、植田さんのことを弟のように感じられたことがありますでしょうか。
佐々木:弟のように……? 見た目はすごく弟だなと(笑)。
植田:あははは! じゃあ中身は違うな?
佐々木:中身は弟というよりも、同い年くらいの感覚ですね。植ちゃんは僕なんかより堂々としているので。楽屋でも結構話しかけてきてくれたりもしますし、見た目は弟だけど中身は同級生みたいな感じですね。
植田さんはいかがですか?
植田:ヒデ君はめちゃくちゃ大人です。佇まい、立ち居振る舞い、思考がすごく大人の人なので、それはもう「お兄さん」だなと思いますね。
そんなエピソードがあればお聞かせください。
植田:ヒデ君は基本的に自分の中で納得いくことがほとんどなく、高いところに目標を置いている人です。その高いところを目指していると、下準備も他の人よりベースが最初から上なんです。でも、準備をしてきていることが、ヒデ君の中での最低ラインだということがめちゃくちゃ見えるんです。演出家さんや俳優仲間から信頼されることを、行動で示しているタイプの俳優さんだなと思います。
実際に共演するまでのイメージと、共演してみてギャップを感じたり、発見した意外な一面はありますか?
植田:ヒデ君には全然裏切られたことがありません。美しくて、クオリティが高い印象がずっと強くて。僕は共演する前に、テレビなどでヒデ君のアーティスト活動を追っかけている番組を観たりしていたんです。
佐々木:ええ!? めちゃめちゃ昔のやつだ!
植田:そうだよ、知ってるんだから! 共演する前の話ですが、そういう時から知っていて、指をくわえながら、バイトしながら、テレビを観ていました。
佐々木:ええ〜!
植田:いざ、ご一緒するとなった時に、期待を裏切らなかったですね。自分が想像していたよりも、もっと謙虚で努力家なんだなと感じたのを覚えていますね。
佐々木:コロナ前になりますが、例えば地方公演に行った時、みんなを率先してご飯に連れていってくれたりして、そういうことをたくさんやってくれた覚えがあって。
植田:懐かしい! 神戸だよね?
佐々木:そうそう神戸! それがあったから、キャストの仲が深まったりして。みんなをまとめてくれる存在ですね。
共演を重ねた中で、時間が経って見えてきた部分はありますか?
植田:最初から役者としても、人柄も好きで、それがひっくり返るようなことが何も無かったですね。欠点が見つからないというか。自分と真逆の作り方をする人で、近くで見ているとすごく刺激的ですね。僕に無いものをヒデ君はいっぱい持っていますので。
佐々木:楽屋が一緒になることが多かったんです。楽屋の中に化粧机があって、その下に空間があるんですが、その空間でいつも小さくなって寝ていることが多くて、可愛いなと思いました(笑)。
植田:(笑)。
ぜひ、「僕だけが知っている植ちゃんの秘密、ヒデ様の秘密」を教えていただけないでしょうか。
植田・佐々木:えーーーー!?
植田:僕だけが知っている……? でも、ヒデ君のいいところは、みんなが知っているところばかりだからな……ああ、意外とゲラ! 僕も人のこと全然言えないけど(笑)。
佐々木:(笑)。
何か具体的なエピソードはありますか?
植田:普通に楽屋などで話していたりしたときとかですね。高木トモユキというおじさんがいるんですが、変なエピソードなどをよく持っていて。そういう話をしていると、結構一番最初に率先して笑っているのは、ヒデ君のイメージがあります。
佐々木:(笑)。確かにそれはあるかもしれない。何気ないことでもすぐに笑っちゃうんです。
逆に「植ちゃんの秘密」はありますか?
佐々木:やっぱりすごく堂々としていてうらやましいところ。
植田さんは「堂々としている」自覚はありますか?
植田:あります!
佐々木:かっこいい!!
意図的にそうしているんですか?
植田:そうです。そういうマインドコントロールをしていないと、弱い人間なので。ポジティブなふりをしているだけです。俳優業というか、この世界に身を投じてから、仕事のプレッシャーや評判などに押しつぶされそうになる自分が嫌いなので、それならば気にしていないふりをしている方がいいかなと思って、堂々と見える素振りを見せています。そうでないと、自分を保てなくなってくるので。
佐々木さんは、今回中屋敷さんの演出を受けられる中で、演出の魅力や感じたことなどお聞かせいただけますか?
佐々木:本当に斬新だなと思います。元々原作では重力の戦いが描かれていたり、本当に難しいことをやろうとしているんですが。それをどう表現するんだろうと見ていた時に、自分には無い発想ばかり出てきたので、毎回の稽古がすごく楽しみです。
あとは、振り付けのスズキ拓朗さんという方がいらっしゃるんですが、短大時代に通っていた演劇の学校の先輩だったんです。当時、自分たちの好きなメンバーで集まって、ダンスを一緒にやって、僕や拓郎さんが振りを考えたりして、一緒に作っていたりしたのですが、それ以来の再会なので、本当に素敵なご縁だと思います。
植田さんは何度も演出を受けられていますが、改めて中屋敷さんの演出の魅力は、どうお感じですか?
植田:僕なんかが言うのも恐縮なんですが、いい意味でずっと〝裏切り続ける〟ことですね。とにかく斬新ですし、想像もつかないような感じです。初めて「こういう方法の演出でいきます!」「これはフラフープで表現します!」とか言われた時は「え、本当かよ!?」と思うんです。でも、やってみるとそれしかないんですよね。劇場に入って映像と光と相まった時や、通し稽古をしていく中で、動画の確認などをしていると。
基本的に4手先を見据えてものを言っていて、俺らの思考なんて遠く及ばない方で、信頼もしています。そのくせ意外と役者にダメ出しはしない、塩梅が絶妙な演出家さんだなと思いますね。「何も言われないから大丈夫だ」と思っていると、本当に置いていかれます。シリーズ立ち上げの頃はみんなで早めにそう気付いて、「どう思う?」みたいなことを鳥越裕貴や橋本祥平たちと話し合いながら、高め合っていきました。
中屋敷さんは、あえてダメ出ししないんでしょうか?
植田:あえてしないということではないと思うんです。「今これを言うのは違う」と思っていらっしゃるのか、今の時期は自分の演出プランのことを考えているからこそ、今は言っていないだけなのか。本当のところは正直分からないです。でも、他の演出家さんに比べたら言わない方なので、考える余地をくれるというか。「もっと叩き上げなきゃ」と自発的に思わせてくれるような演出家さんかなと思います。
2.5次元というジャンルにおいて、経験も実力もおありのお二人は、そこで表現される世界を、どうやって新しい方々にもアピールしたい、その沼に引き摺り込みたいと考えていますか?
植田:ありがとうございます。今、日本のサブカルチャーは本当に世界基準で、色んなところで日本のアニメのイベントをやったりしています。今年5月にアメリカで行われたイベントで、ゲストとして映像出演をさせていただいたんですが、とても光栄でした。現地アメリカの写真も見せていただいたんですが、『鬼滅の刃』や、『文スト』の太宰と中也のコスプレをされている方がとても多くて嬉しかったです。
好きな理由は、シナリオだったりイラストだったり、作品それぞれにあると思うのですが、今これだけ2.5次元の物語や作品が流行ってる理由は、「作品がいい、シナリオがいい、そして表現力が高い」という3点なんだと思います。それは、本当に色んなタイプの役者がいて、例えば直感型だったり、突きつめるタイプだったり、演出家さんも含めていろんなタイプの人間たちがいて、作品やキャラクターの良さを届けようと本気で思っている人たちが作っているものなので。面白くないわけがないです! そう自信を持ちながら、僕はこの世界でお芝居をさせていただいております。
佐々木:僕もすごく昔からアニメが好きで、2.5次元の沼にはまった人間なんです。まだ高校生の時で、だいぶ昔ですが、演劇の学校に通っていて。お芝居もたくさん観ていたので、ミュージカル『テニスの王子様』を観に行きました。『テニプリ』は知っていたんですが、キャラクターが本当に舞台上にいるような感覚になって、自分も同じようなことをしたいと思ったのが、その頃です。今でも役を演じる上で、アニメやゲームなどの、色んな原作から飛び出してきたような役作りをしたい想いがすごく強くて、そういう想いで舞台上に立ち続けています。
一般的にという意味で、男性に向けて2.5次元をアピールする上では、どういう風に問いかけたいですか?
植田:理由は何でもいいかなと思っています。例えばこの記事を見て「行ってみよう」と思うことは、本当にすごい労力で、その原動力が無ければだと思うんです。ハマっているものがメディアミックスで展開されて、その延長線上にいるのが僕らだと思っています。原作があって、ゲームがあって、そこからシナリオが派生していき、アニメ化されたり、映画化されたり、2.5次元になったり。そういうメディアミックスの派生だと思うんですね。ですので、全く興味の無いものに絶対的に観に来てほしいとは全然思わないというか、僕自身が逆でも多分そうではないと思います。
なので、例えば「競馬が好きだ、『ウマ娘』最高だな、『ウマ娘』が舞台化となったら行く」と思うんですが、そういうタイミングが来た時に、この記事のことを思い出していただき、「そういえば、ずっとやっている奴らがいるんだな」と思ってもらえたらいいなと思います。
佐々木:僕も好きなもの、気になったものは観てほしいなという思いがあって、2.5次元の舞台は舞台によっても客層が変わったりします。この間、植ちゃんと一緒に出演した舞台「鬼滅の刃」は、家族で観に来られていた方だったり、小さいお子さんも本当に多くて、僕もお芝居していて客席から子供の声が聞こえたかな?ということがありました。
植田:ああ!
佐々木:2.5次元の舞台は女性のお客さんがたくさん観に行くイメージがあると思うのですが、それにとらわれずに、自分の好きなアニメ、原作、ゲームだったり、そういうものがあればぜひ積極的に観てほしいなと思います。
演劇は、いい意味でも悪い意味でもコロナの影響を大きく受けてしまったと思うのですが、コロナ禍を経て大きく変わったことと、逆にこうしてステージが普通にできるようになって、お客様も戻ってきてくださって、変わらないことはありますか?
佐々木:舞台以外でも毎年、年に1回ほど自分のライブをやっているんですが、そういう時に歓声が無いのは寂しいなとか、早くみんなも声を出せるようになってほしいなと思います。でも、今だからこそ、みんな拍手などで伝えようとしてくれたり、応援グッズを持ってきてくれたり、コロナ前以上にそういうことをしてくれるので、その温かみを感じながら、元の世界に戻ればいいなと思っていますね。
植田:変わったことは、やっぱりチケット代が高くなったことと、どうしても少し遠方から来づらくなってしまったことだろうと感じています。周りの目を気にして、行かない判断をせざるを得なくなっている人もたくさんいますし、家庭事情ということもありますよね。元々は自分がすごく好きで、お金を払って娯楽を楽しんでいたはずなのに、もっと自分のパーソナルなところに食い込んできて、その上で判断をしなきゃいけない。舞台を観に来るという、元々ちょっと腰の重かったようなことが、さらに重くなってしまったのかなという印象は受けています。
でもだからこそ、変わっていない部分で言うと、そういう想いも汲んだ上で、作り手はやっぱり表現に妥協をしないというか。来ていただいている方の変わらない部分で言うと、より作品やキャラクター、それぞれの役者に対する熱量が増して、想いみたいなものがいい意味で変わらずに、より濃い空間を作れているような感覚はしています。
最後に、今日のインタビューに対して、ご感想を頂いて終わりたいと思います。
植田:本当にありがとうございました。色んなところで取り上げていただいて、作品や自分自身のPRをさせていただける機会が本当に増えたなと感じています。ですので、もっともっと多くの人に、作っている舞台を観てもらいたい、仲間が作っている作品も観てもらいたいという気持ちが強いので、もしよかったら一歩踏み出して、行動範囲を広げて、観たいと思ったら劇場に足を運んでくれたら嬉しいなと思います。あとは、最近の舞台配信の技術はすごいので、よかったらそれぞれの場所でも楽しんでいただけたらなと思います。
佐々木:2.5次元の作品ですが、今回はあまり2.5次元じゃない感じがしています。動いているキャラクターの映像が無かったり、声優さんがいなかったりする中で、本当にゼロから作っている状態なので、普段と違うお芝居の領域まで行けたらいいなと。ある程度イメージに縛られない演技方法で、また新しいものを皆さんにお見せできたらいいなと思っています。配信もありますし、たくさん観てもらえたら嬉しいです。よろしくお願いします。
【information】
舞台『文豪ストレイドッグス STORM BRINGER』
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テキスト・撮影:岩村美佳