小説『菓葬(かそう)』

 曇天の空に弔辞の鐘が鳴り渡る。
 今日の主役である少女は、白百合に囲まれた棺の中で、花よりも白い顔をして、芳しい百合の褥の中で横たわっていた。
 友人の少ない少女の葬儀に訪れる者は少なく、彼女は彼岸花の氷菓を食べて自死したのもあって、それがますます参列者の足を遠のかせた。この国では自殺は泥梨(ないり=地獄)に堕ちるという言い伝えがあるから。
 少女の両親が憔悴しきった顔で弔問客の相手をしていると、とある痩身の青年が花束とピンクのドレスを抱えながら迷いなく、少女が眠っている棺へと歩を進めた。
 そして、簡素な白いドレスを着た彼女の重ね合わせた両手の上に、蜂蜜色の硝子のような鼈甲飴の花束を置く。
 彼は、もう花束を受け取ることは二度とない、死後硬直した彼女の両手をしばし見つめると、

「…もう、貴女の澄んだ声が私の名前を呼ぶことはないんだね」

と、眸から慈雨のような涙をこぼし、抱えていたサーモンピンクのドレスを彼女の遺体の上にばさり、と置いた。

「着たらさぞかし貴女によく似合うだろうね、、…きっとその白い貝殻の目蓋の中の、明るい眸にも」

 彼は——死んだ少女の恋人は、死化粧を施した少女の頬をそっと包むと、その氷菓のように冷たい毒味の唇に接吻を落とした。

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