一週遅れの映画評:『ヴェノム:ザ・ラストダンス』踊るアホウに、見るアホウ。
なるべく毎週火曜日に映画を観て、一週間寝かして配信で喋る。
その内容をテキスト化する再利用式note、「一週遅れの映画評」。
今回は『ヴェノム:ザ・ラストダンス』です。
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正直、「え……嘘でしょ……」って愕然とするぐらい面白くなっかたんですよね『ヴェノム3』。1と2が良かっただけになんかビックリしちゃって。
面白くない、というか私としては「明確に悪い」「やってることは嫌いじゃないけど、取り扱いが悪い」「ここは好きだけど、5分じゃねぇ……」というポイントがあったんですよね。順番にいこうか。
まずね、主人公エディとヴェノムがめちゃくちゃアホになってんですよ。いやね、別に元々知略に長けてるどころか「どちらかと言えば知性が低い」タイプとしてこれまでも描かれてはいるんですけど、今回はそのアホさが物語を進行させるため強引に発揮されてるのが非常に良くないんですよね。
えっとね、今回のヴェノムは2つの勢力から追われていて。ひとつはヴェノムの元になった宇宙寄生生物シンビオートを捕獲研究しようとしてる軍の組織、もうひとつはそのシンビオートが過去に封印しためちゃくちゃ強い敵ボスなんです。その敵ボスは封印されてるから動けない、だから代わりに「ゼノファージ」っていうモンスターを宇宙中にバラまいてシンビオートを探してる。というのもシンビオートと他の生物が融合した時にできるエネルギーの核が、封印を解く鍵になるからで。
ゼノファージは何千キロも離れていても、そのエネルギー核を発見する能力を持っている。だけどそのエネルギー核が出ているのはエディが完全にヴェノムへと変身したときだけなんです。腕の一部とかになってる段階だとゼノファージはヴェノムの見つけらんない。だから安全のためにはヴェノムへと変身しない方がいいんです。
そんな状況でゼノファージの襲撃から逃れて身を隠したエディは、ラスベガスでたまたま前作とかでお世話になった雑貨屋のおばあさんと再会するんです。まぁその再会を喜ぶのはいいわ、そっからなぜだかヴェノムへと変身して二人でダンスするんですよ。
はぁ!? 変身したらゼノファージに見つかるつってんじゃん!
いやね、ヴェノムとおばあさんのダンスシーンを描きたいんだろうなぁ。あと「ラスベガスのきらびやかな街を疾走するゼノファージ」という絵面が魅力的……てのはわかる、わかるんだけど、あまりにも展開がアホ&強引じゃない? 別にエディと体の一部だけ出したヴェノムでも「再会を喜ぶダンス」としては成立するじゃない(”しっぽ”を巧みに使ったダンスシーンを別の映画、確か『キャッツ』とかでやってたし、技術的には余裕でしょ?)。確かにね、ゼノファージからこそこそ隠れてるだけじゃあ話が進まない。だけどあんまりにもあんまりじゃない? ヴェノムが危険なら100000000歩譲ってアリだとしても、自分よりはるかに弱い「再会を喜ぶ相手」まで巻き込みかねないのに! そこまでして「ラストダンス」を回収したいか???
で、その話とは別にシンビオート研究所にはね、女性所長がいるわけですよ。その人は幼少期に雷に打たれるという事故にあって、右手が動かなくなってる。そんでね、その所長がいる研究施設がゼノファージに見つかっちゃって、どったんばったん大騒ぎになるんです。
結果としてたまたまその場所にいたヴェノムの活躍でゼノファージを撃退するんですけど、その方法が「ゼノファージを体内に取り込んだヴェノム・シンビオートごと、超強力溶解液で溶かす」って方法なのね。これによってエディの体からはヴェノム・シンビオートがいなくなってしまうわけ。
溶けたゼノファージにトドメを刺すために大爆発を起こさせるんだけど、その爆発に女性所長と部下が巻き込まれそうになる。その瞬間、所長は持っていたシンビオートと融合して変身し、助かる。そしてシンビオートを取り込んだことで右手が動くようになるんです。
一方でエディなんだけど、その終盤に至るまで彼は「めちゃくちゃ独り言が多く」なってる。それは頭の中から語りかけてくるヴェノムとの会話なんだけど、普通の人からは独り言を言ってるようにしか見えない。つまりめちゃくちゃ変な(ちょっと頭がおかしい)人になってしまってるのよ。
で、この対比は良くて。エディはヴェノム・シンビオートを宿したことで、1とか2ではそれなりな成功を(特に1では)おさめたんだけど、この3ではそのせいで普通の生活すら困難になっている。つまりヴェノムと長く付き合っていくうちに、色々なものを失っていくわけ。
一方で所長はシンビオートという危険な生物を身に宿すことで、部下を助けることができたし、失っていた右手の機能も取り戻した。つまりここでは「役に立つ/けれども生活を破壊する厄介なもの」と、どういう距離で付き合うべきか? という問題が提示されてるのね、この比較は良い。
だけど、さっき「その話とは別に」って言ったように、この所長とエディは作中でほっとんど関係を持たないのよ。たぶん2~3言、事務的な会話したかどうかすら怪しい。ここで「厄介だけど役立つものを得た/失った」って構図が描けるのに、そのふたりがほぼ無関係なせいで「なんか偶然そうなった」以上の感慨が生まれないのね。物語が別々で進行していて、有機的に絡まっていない。
マジでばあさんと踊ってる暇があんなら、そっちどうにかしろよ。
そうやってヴェノムを失ったエディは、ぽっかりと自分の中に穴が空いた気分のままニューヨークの街を歩く。それは「自由の女神が見たい」と言っていたヴェノムの願いを叶えるため……だけどもうここに、ヴェノムはいない。
いやね、この虚ろなままニューヨークの街を歩くエディのシーンは、すっごい切なくて良いんですよ。前作の映画評で「エディとヴェノムの強いBL感」って話をしたけど、
それを証明するかのような「厄介なのに大切なパートナー失った男」の姿がめちゃくちゃ泣ける。泣けるんだけど、ラスト5分にそれを捻じ込まれても「もっと上手いやり方あっただろ! 陰謀論家族のロードムービーじゃなくてさぁ!」って気持ちが先に立ってしまうんですよねぇw
いやぁ……ホントね、「え!? ヴェノム3部作のラストがこんな駄作でいいんか!?」って感じの作品でした。だいぶ酷いデキだと思うよ、これは。
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次回は『あたしの!』評を予定しております。
この話をした配信はこちらの18分ぐらいからです。