一週遅れの映画評:『がんばっていきまっしょい』死の海で揺蕩うように。
なるべく毎週火曜日に映画を観て、一週間寝かして配信で喋る。
その内容をテキスト化する再利用式note、「一週遅れの映画評」。
今回は『がんばっていきまっしょい』です。
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いやぁめちゃくちゃ良かったですね、『がんばっていきまっしょい』。正直、予告見てる段階だと悪い予感しかしてなかったんですよ。映像的にも最近増えてきたフル3DCGの劇場版アニメとしてはイマイチだし、同級生の頬を「パンッ!」とかビンタするのだって、まぁ「あるある」な展開なわけじゃない? そういった意味で「どこに注目して見りゃいいのよ」って気配があったんだけど……。
実際に見たらとても良い意味で予想を裏切られたわけですよ。映像に関しては詳しくないけど、直感的に予告で流れるのよりめちゃくちゃ良くなってる。主人公たちがカワイイのは当然なんだけど、セクシャルな「かわいい」だけではなく、骨のしっかりした生命力を感じる「かわいい」になってたんですよね。
ちょっといじったビンタのシーンも、そのビンタに至る過程は想定内ではあるんだけどさ。ビンタしたあと、そのビンタ”したほう”が「やっちゃった……」とか言ってピイピイ泣いてて、そこを他のチームメイトが「叩いた方が泣いてんじゃねぇよ、ウゼぇなぁ」と言い放つっていう。これはねぇちゃんと命が通ってないと出ないセリフですよ。
お話としては昔は「ボート部」が強かった高校なんだけど、いまでは男子部員がひとりいるだけ。そこに県外から転校してきた生徒がボートに憧れていて、なんやかんやで部を復活させつつ、5人で県予選突破を目指しがんばっていきまっしょい! しょい! って感じなんだけど。
いやね、この「ボート」って競技がフル3DCGでやるのと抜群に合ってるんですよ。つまり「ほとんど同じだけどちょっと違う」ものを、繰り返し描き続けてその「ちょっと違う」を積み重ねていく表現に向いてるんですよね。
5人乗りボートで、最初はみんなのオールで漕ぐ動きがバラバラで。当然他のチームには追いつけるわけもない。それがだんだんオールの動きが揃ってきて、前は余裕でブッちぎられた他校のボートにも、じわじわ追い抜かれるぐらいになっていく……こういう成長過程を映像としてアピールしやすいってのも当然あるんだけど、それよりも大事なのは「遅さ」で。
人力で漕ぐボートなんて、まぁ言うてもモータースポーツとかと比べたた、そんな速い競技でもないわけですよ。だからこそ自他のスピード差をじっくり描けるし、その原因が技術にあることを余裕持って表現できる。これが例えばF1とかだったら、追い越すシーンとかは基本一瞬じゃない? 今期だったら『MFゴースト』とかさ、もちろんそれで得られる快感とか、ちゃんとテクニックの説明もされているんだけど。その「追い抜くスピードの理由がテクニックにあること」を映像だけで描ききれてるかといえば、それはやっぱ違うじゃない。
これがモータースポーツなら、ある程度みんな「車の挙動」ってものが理解できてるから、あえて説明をスキップすることで出る驚きと楽しさがあるんだけど。ボートっていうメジャーとは言い難いスポーツを描くのに、この「遅さ」が良い感じに働いているのね。
で、本編の話に移るんだけど。主人公は色々あって「成功体験を積み重ねてこれなかった」子なのね。だから何に挑戦しても、途中で諦めてしまう。ボートに乗っていても、最初は「上手く漕げない、絶対勝てない」とわかった瞬間、手を止めて試合放棄してしまうんですよ。
そこにあるのは「勝てないってわかっているのに、続ける意味あるの?」って疑問で。先回りして言ってしまえば、その疑問って「なにが成せるかわかんないのに、生きてる意味あるの?」の代わりとして出されているんですよね。
もうラストの部分を話してしまうんだけど、主人公たちのチームはめちゃくちゃ成長して高校最後の県大会ですげぇ良い勝負をする。するんだけど、ライバル校に僅差で敗れてしまい2位って結果になるのね。その試合が終わったあとのシーンで彼女たちは喜ぶでも悲しむでもなく、ただただ並んで眠ってるんですけど……それがね、私には死んでいるように見えたの。
青春ものとかに限らず高校が舞台になる作品が多いのって、3年ていう限られた時間で何をするのか? っていう作劇が、要は「人生という限られた時間で何をするのか?」っていうのと相似になるからだと思うんですよ。人の一生を凝縮して表現する舞台設定としてすごく有効。だから「高校最後の試合を終えて眠ってる」はそのまま「人生が終わり死んでいる」とイコールで繋げられるんですよね。
それを補強するのが「これを続ける意味あるの?」を人生に当てはめたら、まぁ端的に「自殺したら?」に相当するじゃない。じゃあ海上でボートを漕ぐのを諦めるって、もう陸に着くのを諦めてるわけだから、死を選ぶのとほとんど変わらいない。主人公の途中で諦めてしまうという性質はボートの上という場所で発動することで、「自殺」の意味を強く持ってる。
もうひとつが、中盤でチームが(主に主人公のせいで)ぎくしゃくして、全然ボートが上手くいかなくなる展開があるんだけど、その発端となったのが主人公の失恋(っていうほどちゃんと失恋してないんだけどさw)なのね。これを人生単位に読み替えるなら「子供が残せなかった」になるんですよね。
まとめると「何も成せなくて、子供もできなくて、生きてる意味あんの?」という、なんだろう私にめちゃくちゃ突き刺さる疑問を投げかけるのやめてもらっていいですか?
で、この作品はそれにどう答えるか。彼女たちが最後の大会で見せた勇姿に感動して、新入部員が入ってくるんです。主人公たちがこのまま卒業したら廃部が確定するボート部が、新しい部員たちによってこれからも続いていくことが示されるのね。
つまりはっきりとした成果も出せなかった、直接の子供も残せなかった。だけど確かに継承されて、つながっていくものがある。そういう可能性を提示してるんですよね。
これは一昨年の『劇場版ゆるキャン△』評でもやった話なんだけど
最近の作品って、このミームの伝達、横にも縦にも生命とは違う、意志とか知恵をつなげていくことを扱ってる作品って多くなっていて。これって私たちとか、もっとずっと若い世代が「結婚して子供を残す」っていうことに対して「いや、それだけじゃないよね」と、心の底から感じているから生まれた潮流だと思うんですよ。
その理由は、貧困とかのネガティブな要素もあれば、生き方の多様性が完全に内面として宿ってるポジティブな要素もあるから、一概に是非は言えない変化ではあるんだけど。それでも、そのメッセージの伝え方が決して派手ではなく、じんわりと力強く描かれた『がんばっていきまっしょい』は、かなり良い作品であったのは間違いないです。
いやぁ、本当に良かった。これはもっとみんなに見て欲しいなぁ……。
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次回は『ヴェノム:ザ・ラスト・ダンス』評を予定しております。
この話をした配信はこちらの18分ぐらいからです。