一週遅れの映画評:『大コメ騒動』パッとしなさ、という誠実。
なるべく毎週火曜日に映画を観て、一週間寝かしてツイキャスで喋る。
その内容をテキスト化する再利用式note、「一週遅れの映画評」。
今回は『大コメ騒動』です。
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いや~、なんていうか「いい薄汚さ」のある映画でしたよ。確か去年の『みおつくし料理帖』と『天外者』が江戸時代なのにすげーピッカピカの綺麗な街並みしてて、その点「も」……この「も」は鉤括弧付きの「も」だからね、その点「も」ひどかったんだけど、この『大コメ騒動』はちゃんと汚いの。しかもそれがちゃんとグラデーションのある汚さしてて良いんですよ。
舞台が1918年、大正時代の富山県にある漁村。ここで米を保管場所から運搬して港まで運ぶ、っていう仕事をしてる女が主人公なんだけど、こう潮風と日光で皮膚が焼けちゃってるし、髪は痛んでまとまらないし、貧しいから着てる服もボロいし。その汚れ方が、ウェザリングがすげー説得力あって、そういうところでちゃんと手を抜かないところに「この作品はちゃんと真面目にやる意志が根底にあるエンターテイメントです」って感じれて、それだけで好感が持てるのよ。
で1918年だと第一次世界大戦で日本は好景気に突入してて、いわゆる大戦景気とか大正バブルの頃。だけどそれってメインは大阪の都市部しかも商人が中心で、やっぱり地方の特に農村漁村は貧しい。その漁村でも「夫が出稼ぎに行ったまま帰ってこない」家から、さっきいった米を運ぶ業の元締めを旦那がやってるとか、米問屋とかで、世帯収入にどうしても差があるわけ。
主人公は出稼ぎに出た夫が音信不通でまぁ言うなら最下層。同じ長屋に運搬業の元締め一家がいて、もうそっちのほうがちょっとだけ、でも明らかに生活が楽なの。着てるものから日々の食事はもとより、そこの旦那が若い女に入れ込んで金を使っている、それは「そうやって浪費するだけのお金がある」って意味でもあるわけ。
そこに大阪の新聞社から若い記者が来るんだけど、主人公が痛んだモンペ姿なのに対してその記者はパリッとした白いワイシャツとスラックス姿で……「パリッとしたワイシャツ」ってなんか久々に言ったなwまぁいいや、そういう小綺麗な恰好してんの。
もうこの剥き出しの格差。これが貧困からコメ騒動に発展していくという史実の映像化に、基本はエンターテイメントでありながらそれでもエンタメだけに回収されない悲哀と、その時代が持っている「ままならなさ」みたいなものをあらわしているのね。
その「ままならなさ」が最後まで響いていて、さっき言った新聞記者もそのコメ騒動の契機になる漁村の貧しさと、投機的に売買されることで高騰する米の値段、それに対する女たちの憤りに胸を打たれて記事にしようとするんだけど、その記事は編集長に脚色されてしまったり世間受けしない内容だとボツにされてしまう。
コメ騒動の結果も、国の介入によって高騰に対して抑制が入って価格が落ち着いて、それプラス貧困層には救済金が出る。それで「良かった良かった」みたいになるんだけど……でもそれって主人公たちが結局貧しいままなのは何も変わらないし、はした金配られて誤魔化されて、なんというか根本的な解決にはまったく至らない。悪かった状態から以前の苦しい生活が「現状維持」されただけ。そういう何ともスッキリしきれない終わりになる。
でもそれって正しいのよ。コメ騒動自体は実際にあったことで、この結末には嘘が無くて……作品としてフィクションとして現実と大きく乖離したオチをつけることだってできる、でもそうはしない。
そういうところと「世帯収入や職業によって服も食事も、健康状態だって違う」をビジュアルとしてきちんと設定しているところに繋がる誠実さ、そういうものがあることに……うん、これは「良い作品だな」って思いましたね。
それで実際だと、このコメ騒動の責任をとって内閣は辞職したりする。でも国家単位でみたら大きなその出来事は、ちょこっとだけ話に出てくる程度で、富山の漁村にはなーんも関係ないの。騒動のあとも主人公はやっぱり重い米俵を担いで日銭を稼ぐ生活を続けていく。
なんかそのパッとしなさと……そうだねぇ、今の時代ってさ年収が1000万あっても、年収が300万なくても、コンビニでおにぎり買って食べたりするじゃん。その頻度は違うだろうけど、まぁ「ある日」を切り取れば、全然収入の違う人たちが「同じ場所で、同じもの買って、同じものを食っている」みたいなことは普通にありえるわけで。でもそれなのにその一食の価値とか、生活に与える影響ってまったく違ってる。
そういう目に見えてこない格差。この作品が見せる「パッとしなさ」と今の時代がもつ見えにくくなってしまった「パッとしなさ」みたいなことも見ながら考えてましたね。
あと超コメ食いたい。山盛りで食いたい。ごはん大好き!という自分の白米好きを改めて自覚した。結論は「白飯最高!」ってことでまとめようかな。なんか着地点見失ったんで、そんな感じでw
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次回は行ける範囲で新作映画を見ることができないので、映画評はお休みです。かわりに「あ、あれ見よう」ってのがひとつあるので、たぶんその話をします。
この話をしたツイキャスはこちらの16分ぐらいからです。