一週遅れの映画評:『プー あくまのくまさん』飲み干す前に死ぬ(Dead by Drank off)
なるべく毎週火曜日に映画を観て、一週間寝かして配信で喋る。
その内容をテキスト化する再利用式note、「一週遅れの映画評」。
今回は『プー あくまのくまさん』です。
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想像してたのの1.5倍くらい面白かった!
まず設定がちょっとイカしてて、100エーカーの森に住んでいたのは人間と動物が混じった奇妙な生き物で。それとクリストファー少年は仲良くなって、食べ物とかを持ってくるようになった。そうして数年間は楽しく暮らしてたんだけど、クリストファー少年は大学に進学することになりお別れがくる。
プーさんたちは食べ物を持ってきてくれる人がいなくなって、たいしてエサの取れない100エーカーの森での生活は大変にひもじい。ある年の冬、特に寒さが厳しく食べ物がまったく見つからない。限界を迎えたプーさんたちは仲間のイーヨーを食べてしまう。
それが原因で彼らは歪み、人間を憎むようになる……。
ってのを5分ぐらいのナレーションで片付けるっていうw いやでもこれが正しいと思うんですよ。
というのも、これ要は「あのくまのプーさんが人間を殺す!」っていうお話なわけじゃないですか。言うなれば「出オチ」ものですよ、ホラーテイストの造形をしたプーさんが人間をブッ殺すってのが作品の肝になってる。だから設定なんて真面目にやればやるほど「プーさんが出てくるまでの、つまらない時間」にしかならないわけです。
だからナレーションで細々した事情はスキップする。そして映画の上映時間が84分なんですよ、奥さん! 奥さん? まぁいいや、90分切ってるってのが、偉いじゃあないですか。売店で買ったコーヒーが飲み切れないぐらいの短さ! だってさっきも言ったように、これは「出オチ」の映画なんです。そういう作品が観客の興味をどれだけ維持していられるか? ってのを考えたとき、やっぱり時間は短い方が良いわけです。そこで「映画」としての体裁をギリギリ保ってる84分(90分をちょっとだけ切る)というのは、自分たちの作品が持ってる魅力に対して真面目に向き合った結果の数字だと私は思うんですよね。
そしてその短い上映時間の間に、小気味よく殺されていく登場人物たち! まずは9年ぶりに100エーカーの森へ帰ってきたクリストファーくんの婚約者! そして登場するメイン被害者の女性5人、ちなみに彼女たちはクリストファーとはなんの関係もないので、マジで殺されるためだけに無から生まれたキャラクターなんですよ。
終盤。生存者も少なくなってダレてきたところに、突然投入される通りすがりの男性4人(ほんとマジで通りすがり)はご期待通りの運命を辿るぜ!
プーさんは基本的な知能が人間と熊の中間ぐらいなので、難しいギミックとかは使わずに純粋パンチか、良くてちょっとした鈍器をブン回すぐらい(あ、でもちょっとだけ車運転してたな)なので、殺害方法の独特さを楽しむような感じはないけど「シンプル暴力、フィジカルの強さ以外に特殊能力なし!」というクラシックなモンスターがひたすら歩いて迫ってくる感じは良かったですね。
それでたぶんこの「良さ」って昨今流行りのホラーゲーム、というか名前だしちゃうけど『Dead by Daylight(DBD)』の影響がかなりあるように感じるのね。プレイヤーの一人がキラー(殺人鬼)役になって、生存をめざすサバイバー4人のプレイヤーを追いかける対戦型ホラーゲームなんだけど。
そこに出てくるキラーのキャラクターが色んなホラー映画や、シリアルキラーを元ネタにしていたり、あとコラボ企画もやってたりするわけ。で、そこに「血の味を覚えたプーさん」なんてすっごく想像しやすいし、実際「逃げ惑う4人を追いかける」って構造も似てる。
さらには作中に天井からぶら下げられたフックが印象的に写されるのだけど、じゃあこれが映画のなかで有効活用されてるか? って言えば全然そんなことないの。それもあってゲーム『DBD』内ではこの「フック」って重要な役割があるんだけど、明らかにそれを喚起させようとしてるなー、って感じなのね。
グラフィックもそうだし、ネット対戦で「殺人鬼が愚かじゃない(プレイヤーが操作している)」ものになったことで、いまのホラー作品においてゲームってめちゃくちゃ強くなってるわけですよ。そりゃ昔から『スィートホーム』があったり、『バイオハザード』シリーズだってあるけど、やっぱ「プレイヤーが他のプレイヤーを殺せる」って楽しさはMMOにおけるPK(プレイヤーキラー)からあって、それがちゃんとゲームとして設計されて流行した(ジェイソンとDBDね)ってのはすごく大きい。
それの直接的影響をこうやってわかりやすく感じれたのは、正直かなり面白かったですね。
あとは最初に説明したナレーションから伝わる「野生動物にエサを与えてはいけない」っていうシンプルな啓蒙とか。
それとね……こう作中でクリストファーがプーさんを説得しようとするわけ。「こんなことはもうやめてくれ! これからは僕がずっと傍にいるから!」って言うのね、それに対しちょっとほだされる空気を出しながらも「しかしお前は去った」って殺人鬼の立場をプーさんは固持するんですよ。
これがねー、製作者の思想をちゃんと感じるっていうか。私も同じ考えなんだけど「裏切りは殺人よりも重い」わけですよ。そして一度裏切った人間が何を言おうと、それは裏切られた側にとって「また裏切るための前段階にすぎない」としか思えないわけさ。
クリストファーとの楽しかった過去を思い出して、ハッピーエンドっぽく〆れるところを「裏切り者を許すわけねぇだろ」って突き放してみせるのは、「この作品を通して何が言いたいか」がストレートにあらわれていて、それが84分という短い時間を駆け抜けた先にあることも手伝ってすごく気持ちのいい終わり方でしたね。
いや、ほんとあんまり期待してなかっただけに「思ったりより良かったな!」っていう感想を持てた、よい作品でした。好き。
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次回は『それいけ!アンパンマン ロボリィとぽかぽかプレゼント』評を予定しております。
予定しております、っていうかもう見たんですけどめちゃくちゃ名作だったので絶対に見に行って欲しい!
この話をした配信はこちらの20分ぐらいからです。
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