一週遅れの映画評:『野球少女』夢に瞳は輝かなくとも。
なるべく毎週火曜日に映画を観て、一週間寝かしてツイキャスで喋る。
その内容をテキスト化する再利用式note、「一週遅れの映画評」。
今回は『野球少女』です。
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話としてはタイトルから想像できる通りな感じ。まず女性がプレイできるようになったとはいえ、やっぱり圧倒的少数で理解者もいない……っていうか、ここらへん現代っぽいとこなんだけど「主人公が野球を好きな気持ちは理解」していて、だからなんとか現実的な手段で野球を続けれる方法を提示する指導者側と、いやそうじゃねぇんだよ!っていう主人公との関係と、やっぱり女子だから単純にパワーが足りなくてそこをどう乗り越えるか?って話が並行して進む感じ。まぁ大体想像してる通りのやつなんだけど。
とりあえず本題と関係ない話からすると、主人公のお父さんがすっげぇ微妙なの。ちゃんと働いてなくて、なんか資格の勉強……不動産系の、たぶん日本でいうと宅地建物取引士いわゆる宅建と司法書士の間ぐらいな感じなのかな?それの勉強してて、でもずっと落ち続けてる。それでもう今年失敗したら諦めようって決断するんだけど、ある日主人公が家に帰るとパトカーが停まってるわけ。何があったかというと「不正受験の斡旋者に依頼をした疑い」で、お父さんが捕まってるっていう。
たぶん韓国って日本よりもそういう行為に対して厳しいっぽくて、ただお父さんは依頼者だから直接関与はしていないし、まだ試験前だから何もしてないちゃあ何もしてないわけだから、別に逮捕とかはされなくて事情聴取だけで解放されるの。でも「それは何かの間違いで何も後ろめたいことはない」みたいな話は無かったから、このお父さん「不正を依頼したことは事実っぽいな?」って感じで話がすすむのね。
それで後半、何としてもプロ野球の道に進みたい主人公を母親が「そんなのは無理だ」って言う、いやまぁこのお母さんも野球のこと全然知らないからそれに関しては「無理っぽいのはわかってるけど、何も知らん人に言われたくねぇわ!」みたいな感じもあるんだけど、そこにお父さんがめちゃくちゃ立派なことを言ってお母さんを説得するわけ。シーン自体は理解ある父親が娘を信頼する感動的場面なんだけど、ほらその不正受験関係がすっごいふわっと流されてるから「いやお前は立派なこと言っても”ズルしようとした奴”だからな?」感があるから、うーん……そのお父さんがズルいことしようとしたのと、娘を信頼してることは別の話だから関係ねぇーちゃあねぇんだけどさ、「なんか……なんかなぁ!?」って気持ちになった。
こっから一番話したかった部分に急角度で変わるんだけど。
えーと『パラサイト』のさ、あのシーン覚えてる?ラスト辺りで半地下家族の娘が、水の溢れるトイレに座ってタバコ咥えてるシーン。あの映像がバッキバキに決まっててめちゃくちゃ格好良かったじゃない。
でね、この『野球少女』もラスト近くにコンビニ、っていうかコンビニと酒屋の中間みたいな微妙な感じのお店前にあるベンチに座ってアイス食べるシーンがあるんだけど、まぁその「アイスを食べる」にストーリー的な重みがちゃんとある、いいや言うわ、その子供の頃からお父さん働いてなくて貧乏だったから、他の子供がアイス食べてるのが羨ましくてそれを見ていて、そしたらお母さんに超怒られたでもそれは「今になって思えばアイスぐらい買ってあげればよかった、私はそれをケチった自分が恥ずかして八つ当たりしてたんだ」ってお母さんの反省になる。
その上で自分のお金でアイスを買って食べる、それはつまり「親離れ」の儀式みたいなもので。でも全然煌びやかじゃない、ボロいお店の軒先で遠くに街の灯りは見えるけど田舎っぽい路上、そういう現実の質感に捕らわれた「親離れ」なの。だからストーリー的にはすごく重要なシーンなのね。
いやもう、その映像がめっちゃくちゃ決まってて!『パラサイト』のトイレ喫煙シーンに匹敵するカッコよさでさぁ。なんか韓国映画に対して「ラスト近くに死ぬほどかっこいいカットが登場する」っていう印象が、この2作で私の中には完全に固まりましたね。
あとねぇマニキュア!主人公がパワーが無いのを補うためにナックルボールの特訓をするんだけど、同じ野球部にリトルリーグから一緒でそいつはプロからスカウトをうけた幼馴染がいるんだけど、そいつが主人公にマニキュアをプレゼントするのよ。
それが「ナックルボールを投げると爪を酷使する、だからこれで少しでも補強できるように」なの、いやこれは実際にナックル投げる投手がやってることっぽい?んだけど。これがもう主人公が自分の無謀とも言える夢に挑戦してて、本来マニキュアは化粧品だから「野球なんか捨てて普通の女の子になれ」って意味に取られてもおかしくないじゃない?だからナックルを投げる保護としてマニキュア塗ることを知っていたとしても、それを渡すのに躊躇すると思うんですよ。でもこの幼馴染は本当に普通にプレゼントする、そこにねぇ「俺はお前を野球選手として見ている」って態度がしっかりあらわれていて、これは超良かった。
ただその……『野球狂の詩』って知ってる?水島新司の漫画なんだけど、その中に水原勇気編っていう「女性プロ野球投手」が主人公になるやつがあってさ、まぁその漫画自体が面白いのはさておき、水島新司がその水原勇気編を描くにあたって「女子ピッチャーが活躍することは在りえるか?」って疑問をプロ野球の監督たちにしたわけ。
ほとんどの人は「いや無理でしょ」って一笑に付す中でノムさん、野村克也だけは少し黙ったあとに「ワンポイントリリーフなら、なにか特別な球を投げれるなら可能性はあるかもしれない」と話した。そういうエピソードがあって。
いやこれ震えるほど良くない?私もうこの逸話を思い出すだけで泣きそうになるのよ。フィクションと現実の、その垣根を繋ぐ思考と想像力がそこにはあって、この話がすっごい好きなの。
だから、えーとぉ、『野球少女』見ながらずっとそのことを思い出していたのと、こうやって感想話してる締めにそういう話をするってことは、まぁ私の中では、私の中ではね?この逸話を強化する作品だったな、と。主従の関係でいうなら「従」になってしまったかなー。そういう感じでした。
いや!悪い映画じゃないし、いいところはあったよ、間違いなく。決して見て損したとは思ってないです。はい、それだけはちゃんと言っとくからね……いやまぁ同じ枠で比べるなら日本で実写映像化された『野球狂の詩』より(これも全然悪い作品じゃあないんですけど)、面白かったかな。そうね、そういう比較をすべきだねこれは。ちょっと失敗、てへぺろ。
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次回は『映画ヒーリングっど♥プリキュア ゆめのまちでキュン!っとGoGo!大変身!!』評を予定しております。
この話をしたツイキャスはこちらの15分ぐらいからです。
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