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一週遅れの映画評:『赤羽骨子のボディーガード』思い入れのない”春映画”ではなぁ……。

 なるべく毎週火曜日に映画を観て、一週間寝かして配信で喋る。
 その内容をテキスト化する再利用式note、「一週遅れの映画評」。

 今回は『赤羽骨子のボディーガード』です。

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 これ”春映画”でしたね、”春映画”。まぁネットミームなのでちょっと説明すると、だいたい2010年から2017年まで毎年3月~6月ごろに公開されていたスーパー戦隊/仮面ライダーの映画のことで。その年の現役ヒーローだけじゃなく、過去の戦士たちがごっそり登場するっていうお祭り映画のことなんですが……。
 これがまぁなかなかの難物でw 恐らく制作スケジュールも厳しいのでしょう。大量の戦隊&ライダーを登場させなければならない都合上、「変身シーン→キメ台詞を一言→雑に必殺技を出す」で片っ端から処理されていく戦闘シーンとか……他にも元の作品設定からは外れたキャラクターになっていたりするところがありまして。あるいは「歴史改変ビーム」とか「やたら平成ライダーに当たりが強いけど、タケル殿にだけめちゃくちゃ甘い本郷猛」とか。正直、思い入れがないと厳しい作品が多いのですよ。
 で、私は思い入れがあるのでそんなに嫌いじゃないっていうか。ファイズが数カットでも見れればおおむね満足、賛否で言えば「賛」寄りの方なんですよね。中には2016年の『仮面ライダー1号』みたいな名作もあるんですよ、いやマジで。
 
 で『赤羽骨子のボディーガード』がどう春映画だったかっていうと。設定として「赤羽骨子」というヒロインを殺したら100億円という懸賞金がかけられる。高額の報酬に駆られて次々に襲ってくる殺し屋たち、骨子の幼馴染である主人公は父親から頼まれ彼女のボディーガードとなる。
 だがボディーガードは彼ひとりではなかった。骨子の所属する3年4組のクラスメイト22名は、全員が特殊な訓練を受け、それぞれに異なった一芸に秀でたボディーガードだったのだ。彼女を守るクラスメイトと主人公の総勢23名……だがひとり、その中に裏切者が潜んでいる。彼らは骨子にバレないようボディーガードをしながら、殺し屋たちと戦っていくってお話なのね。
 
 さて120分の映画で、ちゃんと設定を開示しながらストーリーも進めつつ、クラスメイト22名の特技と活躍を描いていったらどうなるか? まぁ「出てくる→特徴を示すセリフを述べる→特技を使う」で片っ端から処理していくしか、あれぇ!? なんかさっき同じこと喋ってねぇか!? という茶番はどうでもいいんですが。
 これはこれでひとつの方法だとは思うんですよ。あくまで映画を原作への導線と捉えるなら、印象的なキャラクターを散りばめることで原作への興味を持ってもらうという考えはわかる。ただそれって映画じゃなくてコマーシャルだよね? という当然の問題が出てくるわけです。
 
 ただそれよりも良くないのは、そのために原作から離れたキャラクター像になってしまうことで。短い尺でキャラクターを演出しなければいけない都合上、キャッチーさを優先したキャスティング(シナリオに直接関わらないキャラをいま人気の芸人に演じさせる等)や、無理矢理にキャラ立てするためのセリフ(どんな会話でも強引に「拷問」へと繋げるため、コミュニケーションが成立していない等)が発生してしまう。つまり原作への導線として機能させるはずなのに、実際に出てくるのは原作から随分とかけ離れたものなんですよね。
 いやね、私は原作改変に対してはかなり積極的肯定派ではあるんですけど、それは改変する内容と意図が揃ってるときで。これに関しては内容と意図が別々の方向を向いているので、端的に良くない改変なんですよね。
 
 それ以上に酷い改変があって、これはもう作品設定の根幹が崩れてる部分なんですけど。
なぜ赤羽骨子に懸賞金がかかるか? っていうのを、原作では彼女の父親が巨大暴力団の組長で、その跡目争いから排除するためとしているんです。なるほど、いくら骨子が養子に出された隠し子で父親が後を継がせる気は無くても、血縁である以上は殺害に走る理由はわかる。
 だけど映画では、たぶん反社とか出すのがNGだったのかな? 父親は国家安全保障庁長官って設定になってる。うん……だったら骨子が狙われえのおかしくない?? いや父親によって苦しめられた犯罪組織の復讐って説明はされてるけど、そこに100億円出すのってさすがに無理がある。ヤクザの跡目で組長になれば経済的な利点がある(しかも原作じゃ懸賞金は1億だし)けど、国家安全保障庁長官は世襲じゃないもの。復讐してスッとしたいに100億は成立してないって。これが「さらって人質にし父親に要求を飲ませる」ならまだわかるけど……。
 
 さらにその改変は重要人物の設定にも響いてくる。骨子を最初に襲う集団のリーダーが正親っていう骨子の姉なんだけど、まぁ跡目争いならわかるじゃん。血縁である自分が確実に跡を継ぐため姉妹を亡き者にしようっていうのは。
 だけど国家安全保障庁長官ってことになったせいで、正親が骨子を襲う理由が消滅してんの。だから代わりに「正親は特殊なエージェントになるため、死ぬほど苦しい訓練を幼少期から受けていた」って話になってんのね。そうすることで、自分は父親からめちゃくちゃな環境で育てられた、骨子は養子に出されて暖かい家庭でヌクヌク暮らしやがって、許せねぇ! となる。まぁなんかここはわかるわ。わかるとしましょう。
 だったらそれはそれでよ。この父親は骨子を溺愛してるわけ、わざわざ22名の幼少期から育て上げたボディーガードを全員クラスメイトにするなんてわけわかんないことをやっちゃうぐらいだから。だとしたら正親の扱いってなに??? ってことになるじゃん。
妹は溺愛で、姉は地獄の特訓。その差をつけた理由が一切説明されないんですよね、だからこの父親が完全に頭おかしい人になってしまってる。もう「反社はダメだったから」みたいなことから雑に設定をいじったら、全体がガタガタになってるのは本当にひどいと思うね。

 ただ良いところもあって。
 主人公の父親はすでに亡くなっていて、仕事で忙しかったこともあってほとんど一緒に過ごす時間が無かったから思い出が数えるほどしかない。だけどその数少ない記憶からでも、主人公は父親を慕っているのね。
そしてその父親の仕事っていうのが、骨子のクラスメイト22名のリーダーである少年に、ボディーガードとしての特殊な訓練を施した教官だったことが判明する。そのリーダーの子は自分を育ててくれたことで、教官を実の父みたいに慕っているわけですよ。
 つまりここで、実の父親を知らない骨子/父親から訓練を受けた正親という「父親のことを知らない/訓練をさせた父親に怨みがある」って関係の対比として、主人公とリーダーの「ほとんど父親のことを知らない/訓練をした父親代わりである人を慕っている」って関係があるわけ。
 こういった構造があるのは面白いと思うんですよね。ただそれが作品全体としてどう寄与してるかって言うと、正直あんま関係ないところでストーリーが進んでしまってるので、良い部分があるけど上手く扱えてない感じかなぁ。
 
 お話も設定段階から崩壊していて、キャラクターの扱いも瞬間的には良いけどそれだけで、面白い対比構造も物語を支えれる場所に作られていない。たぶんこの批判ってそのまま”春映画”にスライドさせても成立しちゃうんですよね。
 私は仮面ライダーに思い入れあるから”春映画”を楽しめるけど、『赤羽骨子のボディーガード』が好きな人はこの映画を楽しめるんでしょうか? もしかしたら私の「ファイズが出てたから、良し!」みたいな感じで、役者とか演者のファンには良い作品なのかもしれないですね。

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 次回は『クレヨンしんちゃん オラたちの恐竜日記』評を予定しております。

 この話をした配信はこちらの16分ぐらいからです。


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