一週遅れの映画評:『Gメン』いつの時代も変わらない、勃起。
なるべく毎週火曜日に映画を観て、一週間寝かして配信で喋る。
その内容をテキスト化する再利用式note、「一週遅れの映画評」。
今回は『Gメン』です。
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いや~、すっげぇ良かったですね『Gメン』。年末に「今年の映画私的ランキング10」とかやるんですけど、確実にそこへは入ってくる……なんだったらTOP3に来てもおかしくないぐらいだと(このあと白石晃士作品が2作公開控えてるから、なんとも言えないけどw)思います。
とある人気男子校に童貞でケンカがはちゃめちゃに強い主人公が転校してくる。だけど彼が転校したクラスは、その学校で落ちこぼれや問題児が寄せ集められた「G組」だった。で、ヤンキーものらしく、仲間たちとケンカに明け暮れる日々を過ごすようになっていく……ざっくりまとめてしまうとそのぐらいなお話にはなってしまうんですけどw
えっとね、ケンカというかアクションに関して言うと、近年邦画の格闘シーンの最高峰はどうしたって『HIGH&LOW』シリーズになってしまうわけじゃあないですか。やっぱりそれと比べると多少は見劣りしてしまう。
って言うと『HIGH&LOW』見てる人は「マジかよ!?」って思うんじゃないかな? 『ハイロー』と比較できることができる時点で、ちゃんとすごいアクションをやっていることが伝わって欲しいんですよね。例えるならM-1の優勝者は当然めちゃくちゃ面白いけど、たとえ8位でも、あの決勝の舞台に立ってる時点で相当すごい漫才師なんですよ! という感じ。
特に瀬名ってキャラクターが、今作で主人公の相棒みたいな役回りになるんですけど。これの役者さんがまずめちゃくちゃ身長が高くて、しかも呆れるほど脚が長いの。それがキック主体でケンカするもんだから、もうね全員が素手で殴り合って中ひとりだけ日本刀振り回してるぐらいの存在感があんのよ。
あれだ、『ストⅢ 3rd』のレミーっているじゃん。いや「ストⅢ 3rdのレミーいるじゃん」がどの程度の人に通じるからわからんけど(そして通じたら通じたで逆に瀬名の強さが伝わんないんだけどw)、うるせえ動画見ろや。
もうね、完全にそのレミーを思わせる体とアクションしてるわけ。ケンカしてるとこにひとりだけ格ゲーのキャラ混じってんだもん、そら目立つって!
それでアクションも良いんだけど、それ以上に「傷つくこと」とそれによって友情を深めていく過程の描き方が素晴らしくって。主人公は転校してくる前に仲間とのいざこざがあって、「仲間に信頼されてること/信頼すること」が上手くできないでいる。一方でいま話に出した瀬名は、幼いころ母親の浮気してるところを目撃してしまったことでEDになってしまっている。
お互いにその傷ついた心を告白しあう場面を経て乗り越えていくんですけど。
えっとね、G組の仲間に「昭和」ってアダ名のやつがいるんですけど、こいつの存在がその「お互いの傷を告白しあうことで絆が深まる」展開に、表向きでは無関係ながら強い意味を与えていると思うんです。
この「昭和」、頭はリーゼントで死語を口にし、「女は男の3歩後ろを~」や「夕日の沈む方へ走んぞ」とかの発言や考え方が「平成通り越してもう昭和だな」って言われるくらい古いんですよ。
で、昭和の時代にあった「傷を共有して仲間になる」って要は、土手で殴り合いのケンカをしたあとで「おめぇなかなかやるじゃねぇか」「お前もな」「「ワッハッハッハ」」じゃあないですか。だからここでの「傷の共有」って、お互いのパンチによるものなんですよね。俺があいつを殴った、そしてあいつが俺を殴った、そこには同じ場所で作られた目に見える傷がある。
これすごくわかりやすいですよね。いまその場面でわかりやくお互いの傷を認め合うわけだから。
だけど現代ではそうもいかないわけですよ、体についた傷よりも心についた傷の方が、ずっと後になっても「痛み」を与えてくる。しかも目には見えないし、当たり前だけど目の前にいる相手に付けられたものでもない。
それでもお互いにその「傷」を告白しあうことによって乗り越えていく。昭和と令和では(まぁ本当は『Gメン』連載時期からすると平成後期ではあるんだけど)傷の在り方が違う。だけど「お互いの傷を認め合う」ことで友情が生まれるってのは変わらない、だから主人公は「仲間への信頼を取り戻せる」ことができる。
加えて「男なら!」ってやっぱ昭和の古い価値観なんだけど、この傷の共有によって瀬名は「男性機能」を取り戻すわけじゃあないですか。ここでは精神と肉体の在りようがちょっと逆転している。体に受けた傷よりも心に受けた傷が深刻なこともある(ここ、こと”も”ある。だからね)って話ではあって、昭和と令和ではそこが違ってるよねなんだけど。
瀬名に関しては取り戻したのが「男性機能」で、それは「男」という古い精神性を手にしたとも言えるし、取り戻すのは勃起っていうすごく肉体的なものになっている。
だからここでは「時代によって変わるもの」と「それでも変わらないもの」が描かれているのに加えて、男性ってものの在り方が精神と肉体どちらによるものなの? っていう面を意図的に混乱させようとしているわけですよ。
作中では、それでも「女を殴らない/女を守る」が重要視されていて、やっぱり男と女では社会的にも個人間でも求められてるものが違うことを前提としている。
いまってすごく難しい時代じゃない。「男から降りる」ことが基本的には良いことだとされているけど、まだまだ「男性として」が社会からも個人からも求められる場面がある(もちろんそれは女性もなんだけど、これは男の子たちの物語だから割愛するね)。その中でトラウマにより、肉体的に「男から降りる」ことになった瀬名はそれを苦痛に感じているわけで、肉体と精神は密接に結びついていて単純にどっちかを切り捨てることなんてできない。もっと言うなら「勃起」という肉体の反応の有無が、人間としての尊厳と直結してる面は間違いなくあるわけで。
そういったなか「昭和」ってキャラクターが比較対象として存在していることで、現代に生きている男の子たちがどれだけ混乱を抱えている社会で生きているか? を炙り出しているんですよね。そしてそれをシリアスになりすぎないように描いている。
「昭和」はやっぱりギャグキャラでもあるし、男性機能を取り戻した瀬名は勃起した自分のちんちんを確認して「でっっっかっっ!!」って叫ぶしw(いやでもそれがちょっと感動的でもあるんですよ、尊厳の回復でもあるわけだから)
そう、全体を通してギャグがちゃんと面白い! ってのもこの作品の良いところで。難しい現代のバランスを描けている上手さが、同時にシリアスさとギャグのバランスを「しっかりエンターテイメントである」って軸足をズラさない上手さにもあらわれていて、素晴らしかったですね。
そうそう、当たり前だけど思春期を舞台とする以上は避けられない恋愛に関して。ここも良いのが、主人公とか瀬名が受ける心の傷は対面の相手と関係ないところで生まれてるんですよね。そういったなかで育まれる友情とは違って、恋愛は「目の前の相手を傷つけること/目の前の相手から傷つけられること」だ、っていうのを包み隠さず描いていて。
それがさっき言った「時代によって変わるもの」と「それでも変わらないもの」と繋がってるのも、作品として一本ビシッと芯が通っていて、めちゃくちゃ良かったです。いやほんとスゲー面白かったわ、配信できたらもっかい見返すと思う。
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次回は『夜が明けたら、いちばんに君に会いにいく』評を予定しております。
この話をした配信はこちらの16分ぐらいからです。
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