一週遅れの映画評:『君は彼方』「少なくとも私は楽しかった」としか言えない。
なるべく毎週火曜日に映画を観て、一週間寝かしてツイキャスで喋る。
その内容をテキスト化する再利用式note、「一週遅れの映画評」。
今回は『君は彼方』です。
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ざっくりまとめてしまうと「一人の少女が踏み出す勇気を得る」話なんですよ。だから言いたいことはすごくシンプルなんだけど、でもそのわかりやすいテーマに対してめちゃくちゃとっ散らかってる。その結果として「怪作」としか呼べないものになった、ある種の奇跡的な作品というか……なんだろうなぁ、面白かったんだけど、これは絶対に制作側が提供したい「面白い」ではないから、うーん、積極的に勧める気にはならないんだけど、それでも今この瞬間に私は「見て良かったな」と思ってるのは事実なんですね。
そもそもとっ散らかってる原因は、タグ付けは同じなんだけど方向性の違うものを無理矢理に合わせちゃったことにあって。
これたぶん劇場作品として結果が出したかったからだと思うんだけど、『君の名は。』とジブリ作品と、あと初代『妖怪ウォッチ』って確か2014年の作品で、当時10歳だといま16歳ぐらいだから、それも視野に入っていて。その3つの作品から要素を摘まんでるんだけど、それがねぇ……。
いま挙げた3つってたぶんタグだけで言えば「オカルト」がつけれるとは思うんですよ。だけど方向が全然違っていて、まずジブリのオカルト観って「超然的なもの」、たとえば自然災害とかに近い扱いで、圧倒的だし猛烈だしで「人の手には負えないもの」っていう方向性なわけね。
でそれが『妖怪ウォッチ』だともう少し日常にも寄ってるのと、人間もまた妖怪の力を利用してその怪異に対抗しうるオカルト観。つまり凄いし強力だけど頑張れば真正面から受け止められる。
一方で『君の名は。』におけるオカルト観は「なんとなくそうなっちゃった」という「現象」として扱われていて、それは物語/ストーリーを走らせるためのブースターとして採用されているんです。
で、この同じ「オカルト」ではあるけどまったく方向性の違うものを力技でガッチャンコしたら、まぁそりゃ当然のようにバラバラのベクトルに引っ張られて「とっ散らかってる」話にしかならないよね……。
その散らかり方に対してテーマがシンプルだから、散らかってるものをなんとか収束させるために何が起こるかというと「似たような展開が繰り返される」っていうw
主人公が「自分の気持ちを思い出せたら、現世に帰れる」っていうのを「私わかった!」→「今度も帰れなかったよ……」を3~4回は繰り返す、もうここまできたらループものとして構成しろよ!って思うぐらい同じ問題でぐるぐるしてるだけで。
それで視聴者としてはまぁ存分にこの主人公はその問題を解消しないと死ぬんですけど、というのを何回も見せられるわけなんだけど、まぁこの主人公が「同じ問題を繰り返さないといけない」物語の構成上、はちゃめちゃに察しが悪いのw だから最後辺りで病院のベッドに寝てる自分の肉体をみて「あ、自分死ぬんだ」ってようやく気付く。
もうそこでありえないくらい大絶叫するんだけど、それが「え?いまさらその衝撃の受け方!?」って感じで……はっきり言うわ、爆笑。もういま思い出しても笑っちゃうくらいのすげー面白シーンと化していて。
そこだけじゃなくて「なんでそこまで待ってたの?」とか「急に幽体離脱って、ざ・たっちのネタか?」「心臓止まってんなら救急車を呼べ」「うわ『千と千尋』でやったやつ……え!?駅、近!?」「オットコ主様かよw」みたいにちょいちょい作り手の想定してない面白が続いて、いやこれ悪いけど完全にギャグ作品として見るスイッチ入っちゃうよ、私は。
唐突にブチこまれるミュージカルも、なんかフリがちゃんとあったり数回行われれば飲み込めるんだけど、鋭角にそれも1回だけねじ込まれるから「急に歌うよ~♪」すぎてもう笑っちゃうんだよねぇ。
それでね主人公の抜けた魂を戻すには、強い思い出のある場所に連れていかなきゃいけない。って病院から完全に意識のない主人公のボディを運び出すんだけど、その直前にさっき話した大絶叫があるから「無暗に動かすとこの女、死ぬど」って感じが強くて慄くし、それで幼馴染の男が連れていく場所が数日前に来たトコロっていう……幼馴染!強い思い出のある場所がここ何日かの場所なの!?君ら本当に親しいか?って感じで……まぁそれも主人公がその前に問題解決のため何周もしちゃってるから、それっぽい場所(子供の頃よく一緒にいった神社とその駄菓子屋とか、告白されたけど恐れから聞こえないフリをしてしまった河川敷とか)を使い尽くしちゃったから、あと残ってる伏線がそこしか無いからではあるんだけどw
でね、その場所にきた幼馴染の男が、まだ目を覚まさない主人公に語りかけるんだけど、その内容がなぜか日常会話を反芻して……それも主人公と幼馴染のセリフを両方、一人二役で喋るんだけどさ……えっと
「どうせ寝坊だろ?」
「どうしてわかるのよ」
「だって顔が薄いから」
「むー」
みたいな感じの日常のやり取りを……いやこれがね「なんてことない日常に幸福を感じていた」って意味なのはわかる、わかるんだけど。ここまでそんなに地に足の着いた話してないから、いきなりそんな日常会話を正確にトレースしたものをお出しされても「コイツ気持ち悪っwww」としか思えないんだって!そりゃ笑うよ、笑いますよ。
間違いなく、2020年に見た映画で一番笑ったのはこの『君は彼方』ですよ!もう超面白い。だからここまで笑っちゃったら「私は、面白かった」って言うしかないし、でもそれは絶対狙って作られてないから(というか狙って作ってる面白シーンはすべってる)勧めにくい。
これなー……たぶん時間半分にして、主人公に歌う理由を与えてミュージカル調で話をショートカットさせつつ、主人公+幼馴染の男+親友の女っていう元からある設定を「主人公が好きなのは親友の女」って形で百合ものにしたら、わりとキレイに収まる作品になるんだろうけど(でもそれって『僕らの七日間戦争』でやってることではあったり)……じゃあそれでヒットしかたは、わからない。
少なくともこのとっ散らかったグルーヴ感という独特の味はオンリーワンだから、そこを消すのは勿体ないような……。
いやね、本当に面白かったんですよ、もうゲラゲラ。これはバカにしてるとか「こういう角度から、そういう変わった見かたをしちゃう自分なんスよ~」みたいのも一切なく、本当にお腹抱えるぐらい笑ったし、劇場で笑いを噛み殺すのが本当に辛かった。
だからあのやっぱ勧めない、勧めれないけど、「私は面白かった」ってちゃんと言いたい。そんな一本でした。
あとエンドロールで急に出てくるあの男、だれ?
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次回は『魔女がいっぱい』評を予定しております。
この話をしたツイキャスはこちらの13分ぐらいからです。