一週遅れの映画評:『それいけ!アンパンマン ふわふわフワリーと雲の国』あぁ、苦しみの痕跡よ。
なるべく毎週火曜日に映画を観て、一週間寝かしてツイキャスで喋る。
その内容をテキスト化する再利用式note、「一週遅れの映画評」。
今回は『それいけ!アンパンマン ふわふわフワリーと雲の国』です。
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なんか『アンパンマン』にあんま思い入れが無ぇんスよ。幼児時代に誰もが通過するポイントだと思うんだけど、なんかちゃんとハマった記憶がなくて……アニメをちょろっとと、絵本も読んだと思うんだけどその程度で。ほらアンパンマンが描いてある食器とか歯ブラシとかあるじゃん?ああいうのもまったく持ってなかったし。だから『アンパンマン』って「いやー理屈ではすごい作品だってわかるんだけど、なんか心からそれを理解はしていないなぁ」みたいな作品なんです、私にとっては。
それでもオタクやってればチラホラ耳には入ってくるわけじゃないですか。「映画のアレは話が良かった」とか「あの作画たまんね」みたいな噂が。だからアンパンマンビギナーとしては、けっこう楽しみに見に行ったんですよ、『ふわふわフワリーと雲の国』を。
もうこの出だしで悪い予感しかしないって言うかw先に断っておくと、私は作画的なことに関してはまったく興味がないんでそこにたいする評価はできないです。だからそういった部分に対する言及では無いです、それだけは言っておくね?
で要はストーリー的なところになんだけど……なんてい言うかな、すっごい「苦しんでるな」っていう印象。
なんやかんやあってバイキンマンがアンパンマンにブッ飛ばされて「雲の国」ってところに突っ込んでしまう、その事故でバイキンマンのUFOに雲の国の赤ちゃんがくっついてきちゃって(この赤ちゃん、なんか木から生えてて「親」みたいのはいないんだけど)、それを見つけたドキンちゃんが「フワリー」と名付ける。みたいな展開なのね、序盤は。
それでフワリーは主にドキンちゃんとの愛情が深まっていくのをエネルギーとして、一気に、そうねドキンちゃんよりも僅かの幼いくらいまで成長するの。
それでドキンちゃんは照れながら、フワリーは初めての概念に喜びながら、お互いを「友達」って関係だ。って規定するのね。
ここにさ「あっ苦しいな」って思ってしまったんですよ。というのも、これってすごくストレートにやれば「疑似的な母子」の話になるわけじゃない?赤ちゃんであるフワリーを育てるドキンちゃん、そして成長して雲の国に帰っていくという子離れ/親離れの構図で。だけどその関係性を「親子」じゃあなくて「友達」と定義する、せざるえない。
いまつくられる作品で、それも『アンパンマン』っていう幼児向け大メジャー作品だと色んな配慮が求められることにはなるわけで……そこでね、シンプルすぎる「親子愛」「母性」を描くことって、一歩間違えば……露悪的に言うなら「厄介なヤツらに目をつけられたら」ちょっとした炎上になってしまうと思うんです。だから「赤ちゃんのフワリーと接するうちに母性を自覚するドキンちゃん/そこに親子愛を感じてドキンちゃんをママと呼ぶフワリー」みたいなことは絶対にできない。
でもその一方で「お腹が空いてる人に食べ物を与えること」っていう、ものすごーくシンプルな正義像がスタートにある『アンパンマン』の世界って、やっぱり親子愛みたいな単純すぎる概念のほうがしっくりハマるように思うんです。だからそこで「友達」って言い出すことに、なんとも言えない不自然さが漂うっていうか「作中キャラクターの心情からすれば、その言葉の選択にはならなくない?」って印象がすっごく強くなっちゃう。
だから「アンパンマンっていう作品の世界観」「今回の題材」「世間の動向」っていうものがあって、その3つのうち2つまでは上手に噛み合うと思うんですよ。世界観と題材で単純な親子愛とそこからの離別を語るのも、世界観と世間の要請に一致した、特にアンパンマンとバイキンマンの関係にフォーカスした作劇も、疑似家族という題材と自由な人と人の関係を肯定するって世間の空気とも。だけどその3つを同時に満たそうとすると、今回はちょっと無理があったな厳しいな。というものしか作れない。
それぞれの要素は素晴らしいし何も間違ってないんですよ、だけど食い合わせが良くない。それで皺寄せが生まれてしまって、その痕跡を隠すことができないまま作品として出来上がってしまった……そんな感じでしたね。
それでもね退屈ってわけじゃないんですよ。展開もスピーディー(これは幼児向けとしての尺と集中力に対応してるからだけど、それは別に子供相手じゃなくても大事なことだし)、というか『アンパンマン』っていう前提知識が共有されてるからクドクド設定を語る必要が無くて、いきなり事件を起こしても大丈夫な舞台が整っているという強みを最大限に利用しているのは、本当に強いと思う。
だからこれが「ハマる題材」がテーマだったら、ものすごく良い作品になるのはわかる。わかるけど、今回は違った。そう言わざるを得ない。だから当たり外れで言うなら「今年のアンパンマン映画は、外れだったね」って、いままでほとんど『アンパンマン』にふれてないクセに偉そうに!って自分でも思うけど、そう思う。
いや、それは「このポテンシャルはすごいぞ」ってわかるだけに……と理解してもらいたいんですけど、ね。
最後に関係ねーというか、私がどんだけ『アンパンマン』に疎いかって話なんだけど。
ホラーマン
こいつの存在自体は知ってたけど、私これ準レギュラーみたいな立ち位置だと思ってたんだけど、なんかバイキンマンのバディみたいな感じでめちゃくちゃレギュラーキャラなのね?映画だとけっこう出ずっぱりだったんだけど、普段のテレビ版でもそうなの?
そんでこいつのシルエットが食パンマンに似てて、こう雲の形を「あれは食パンマン様だわ!」っていうドキンちゃんに、「いやぁあれは僕ですよ」みたいなウザ絡みをしてすっげぇ塩対応されるってシーン、普通に笑っちゃったんだけど。これって彼の鉄板ネタなのかな。こういう相互不理解みたいな関係系とかを見せられると「やっぱアンパンマンのポテンシャル、ハンパない」と一瞬で理解できる。
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次回は『ゴジラ vs コング』評を予定しております。
この話をしたツイキャスはこちらの18分ぐらいからです。