ひがしやしき『もういない人に言ってもしょうがないんですけどね』ってアルバムが死ぬほど良かったので感想を書かずにはいられなかった。
ひがしやしきの『もういない人に言ってもしょうがないんですけどね』(https://higashiyashiki.bandcamp.com/album/pusher-edit-2)がすげぇー!良い!のですよ!
『syaro』も『のあくま』も良かったんだけど、全曲での平均を取ったら個人的には一番なんじゃあないかな……だからまた感想を書きました。(前作『のあくま』感想は、こちら)
01・yamenaide金髪
これって私には自問の歌のように聞こえて。
まぁ実際私は一時期金髪だったりしたっていうのもあったりするんですがw それとは別に、こう「自分のプライドとかこだわりが、何らかの壁に直面した時に折るしか/折れるしかなかった」経験というのは誰しもあって、そういう出来事を客観的に見たとき「あぁきっと自分のことを知ってる人からは、何かに負けたように映ってるだろうなぁ」みたいな感覚が襲ってきて。
自分の中では納得しているし、そこまでして得たいものを手にしたのであればむしろちゃんと折れた自分は偉いんじゃないか?とも思ってるのだけど、そういった自己満足ではない部分で「君」に「屈した」と思われたくない!という気持ちの方が強い感じ、というのはあるんですよ。
空に浮かんだ月の金色が
角ハイの空き缶の金色が
とあるけど、その前段階に
たまごかけごはんすら喉を通らず
っていうのがたまごかけごはんも当然金髪カラーで、それを「飲み込めない」自分っていう部分がまずあるってので自問なんじゃあないかなって感じを受けました。
02・君が永遠でとても嬉しかった
この感想を書きあぐねていた。
というのもまずめちゃくちゃ良い、本当に良い。
だけども私とは思想的立ち位置が違いすぎて、どっから手を出していいのやら……ざっくりとした私の想いとして「私は生きてしまっているのに、あなた(虚構のキャラクター)は最初から死んでいる」ということが決して埋められない辛さである、というのがあって、だから単純なテキストレベルでは『tateロール(金髪)』のほうがスッと入ってくる。
その上で、そういった立ち位置が違っても
何度救われたかわかんない
これ以上なにも求めちゃいない
世界は常に変わるけど
君が永遠でとても嬉しかった
っていうところには深い共感を覚えるわけで
これって人間の感じ方なんて日によって違ってしまって『tateロール(金髪)』な気分の時もあれば、『君が永遠でとても嬉しかった』な気分の時もあって、そういうテンションというか精神状態の振れ幅っていうのは絶対にある。そういう悲しいけど嬉しい、辛いけど落ち着いてるっていう『君が永遠でとても嬉しかった』の感覚はやはりとても良いし、そこにちゃんと合わせたトラックの明るすぎないでも暗くもない優しい感じはめちゃくちゃ良い。
03・もういない人に言ってもしょうがないんですけどね
こんなん順番がズルいって!
前で「失われないものがある」って歌の直後に、「失ったことの悲しみをまだ消化途中」ってのを投げ込まれたら泣くって、そりゃ泣きますよ。
全リリックを書き出して一個一個話したいくらいなんだけど、それやってたら無限に終わらないんで、もうなんか超良いから聞けよ!ぐらいしか言えない。
04・こじらせオタク、死にかけの一手
サブカルチャーであることはいつだって正論で殴られたらどうしようもない、という側面はあって。結局「文化なんてのは正しくないことからしか生まれない」と開き直るか、「なんだよカスは死ねってのかよ」と相手が正論マンだから「死ね」とは口にできないことを逆手にとるか、「そうなんです僕はダメなんですーすいませんー」てサッサと撤退するかの3択ぐらいしか無いw
これにはそれが全部入ってる、それって『Kakkoii 軽自動車』とか『otaku has gone』で歌われた「脱オタして離れていった友人」への弱弱しいけど確かなカウンターであるわけで、アルバムを追っていくことで見えてくる変化があって面白い。
05・マイスリー全部飲め
ここらで明るいトラックをそろそろ入れよう、みたいな意図はたぶんあるんだろうなぁ。
けどリスナーがいたから曲作れたり
まだ辞めたくね~とか思ってしまうな
感謝のラップ見たいにはなったけど
別に人のためには作ってない
て部分は、すげぇーわかる。私の場合は文章だけれども「読んでくれる人がいるから書きたい」のと「読んでくれてありがとう、あなたのために書いてます」は近い場所にあるけど、全然違っていて……やりたいことしか結局やれんけど、それが喜ばれたらやっぱ嬉しい。だから読んでくれる人がいなけりゃやりたいことすらやらなくなってしまいそうで、だから読んで貰えるかぎり書けるけど、でもそれはありがとうとかそういうんじゃ無いんですけど!みたいなw
06・make 黒歴史 great again
黒歴史、ってつまり歴史なわけですから「後からしか確認できない」ものなんスよねぇ。今やってることが後で黒歴史になるかもしれないって恐怖心はいつでもあって、特にいまみたいにやったことがインターネットのログに残る世界だと無かったことにもできないす。
その思考の穴にはまると「もう寝る!」ってなるしか無いw
07・anatamitai
『Sweet 死んでいく』とか『i know 求心』みたいに文節を違和感残して切ることで、畳みかけていくこの感じはかなり好きです。聴けば聴くほど良くなっていく感じが気持ちいい。
漫画の『マフィアとルアー』(TAGRO)であった「一見繋がっていないモノローグを積み重なえることで、まとまった意味を形成する」っていうのが好きで(もっといくとデイヴィッド・マークソン『これは小説ではない』とか)、さっき挙げた2曲とこの曲はそれと似てるというか、リリックの進行でどんどん視点がズレていくのだけど、最終的には群体として一個の意味を成す構造がとても好き。
08・痣だらけmorning
アルバムとしては『syaro』があって『のあくま』があって、それでこれが3つめで。自分がちゃんと動いてる動けてるのはわかってるのだけど「もっと先へ、もっと上へ、もっと前へ」「とにかくあともう一歩なにか、なにか起きろよ!」と思った時に「いまのこれじゃ足りないなら、もうなんか奇跡待つしかねーじゃん……」っていうしんどさみたいのを感じる。いや酒飲んで寝てるときもあるから、もっと動く余地はあるんだけど、それはそれとして自分は精一杯やってるんですよマジでミラクル起きねぇかなクソが……って気持ち、わかる。
09・ライフイズクソゲー
ものすごく強い意志を感じる曲。というのも
願わくばコレがtrueならいいな
でも普通のライフも送ってみたいな
僕はこうして可能性を殺しては気楽なもんで
合ったかもしれない 明るい未来を自分の手でひねりつぶして
あたりは確かに「自分の選んだ選択肢は間違いだったかもしれない」って迷いに溢れてるのだけど
あとづけでも正しくなくちゃ
平行世界が救われないな
いまをtrueだと思うしかないんです
そういうもんだしなんとかなるでしょ
あたりに滲む「いやでもこれが自分にとって正解だったんだ」と前向きに(それは決して「必死に」ではなく)言い聞かせるのが、たとえ別の可能性が見えたところでやっぱりこのルートになるんだよ!という気持ちが見える。なにより
いつか来るエンディングのときは
批評空間でレビューつけるのさ
賛否両論別れるだろうけど
僕はそれなりに楽しめました
これが結論でしょ。ねぇ。
10・あとがき
アルバム通して何百回聞いたかわからないけど
だけどこの曲だけは
何度も聴かれたら少し恥ずかしいから
って言われちゃったら、感想は下書きに隠しておこう。ちょっとだけ書かずに隠し事。
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