一週遅れの映画評:『うちの弟どもがすいません』欲望という名のアナーキズム。
なるべく毎週火曜日に映画を観て、一週間寝かして配信で喋る。
その内容をテキスト化する再利用式note、「一週遅れの映画評」。
今回は『うちの弟どもがすいません』です。
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面白いか面白くないかで言えば、面白くない。良い作品かどうかで言えば、悪い。好きか嫌いかで言えば、結構好き❤ という、なかなか話し方に迷う作品ですよ、この『うちの弟どもがすいません』は!
主人公の女子高生は、母親の再婚に伴って田舎から引っ越してくる。その再婚相手には子供が4人もいて、それが下から小学生(5年生ぐらい?)、中3、高1、高2(同級生)の男子なのね。その家族構成を一緒に暮らしだすその日に知って驚く主人公! ……ちょ、ちょっと待ってくれ。普通、再婚相手の家族構成ぐらい先に話しておかないのか、この母親は!?
そして1ヶ月ぐらいで再婚相手の義父が北海道に転勤、母親はそれについて行く。結果として男子4人+女子高生主人公の共同生活がはじまってしまい、「私どうなっちゃうの〜!?」……いやさすがに無法が過ぎんか? 戸籍上は家族だから問題ないよね、とはならんだろ。しかも主人公は「私がお姉ちゃんだから!」と甲斐甲斐しく炊事洗濯などを弟たちのためにしはじめるわけですよ。
この時点で私の眉間には深いシワが刻まれてしまうに決まってるじゃない! もう見ながら「か、家父長制の権化みてぇな映画だ。殺すべし、慈悲は無い」というスイッチが入りかけるんですけど。一応ね、これは主人公が家族に溶け込もうと無理をしている&長男から「世話係が欲しくて親父は結婚したんじゃない」ってフォローが入る、入るんだけど映画ラストの食事シーンでも「お姉ちゃん、おかわり!」「あ、俺も」みたいな感じで茶碗をさすだすっていう。メシぐらい自分でよそわんかい! ずんだどん呼んでブンなぐらせるぞ!! という気持ちにさせられるので、ここは明確に悪いところですね。悪いっていうか令和6年によくこの描写で通したな。アホじゃねぇの??
それを除外しても、中3の子は絶賛不登校引きこもりで部屋から一歩も出てこないんです。いやその状態の息子を放ったらかしで北海道に転勤するぅ? たぶんネグレクト案件に相当すると思うんですけど。
ただねぇ、この引きこもりボーイが心を開く過程で重要なことが描かれているんですよね。彼は学校でのトラブルが原因で引きこもり、家でずっとネットゲームを……ていうか『ファンタシースターオンライン2』なんですけどw それをやっているんです。そしてたまたま主人公も同じゲームをプレイしていて、ゲームを通じて徐々に仲良くなっていく。まぁ「引きこもってるネトゲプレイヤーと同レベルで冒険できる主人公ってなんだよ」という気持ちが元MMORPG準廃プレイヤーとしてはあるのですが、そこは置いといて。
そのゲームで仲良くなってる画面を見た長男が、引きこもりボーイが猫耳女アバター/主人公がスキンヘッドマッチョを使ってるのを見て「てか使ってるキャラクター濃すぎ」って言うんですけど、それに対して「好きな格好で、好きなことやって、それが楽しいんじゃん」って反論するんですね。このセリフがめちゃくちゃ重要っていうか、たぶんこの作品を貫いている思想が現れているんです。
そうやって引きこもりボーイも再び人とコミュニケーションを取れるようになって一安心、というところで家族と主人公と友人で遊びに行くことになる。そこで主人公と長男が、ラッキースケベ的にキスをしてしまう。そこで主人公は、自分が長男に対して恋心を抱いていることに気づいてしまう。好きになってしまった相手が「家族」であることに悩みながらも、結局は告白してしまう主人公なんだけど、長男は「家族」としての関係を維持することを選ぶのね。
だけど、先の引きこもりボーイも主人公に惚れていて、さらに長男も「家族」として自分の気持を押し殺していることが判明する。結果として主人公と長男は「家族」よりも「男女」であることを選ぶ……っていう話になって映画は終わるわけですよ。
いやね、私としては「人間も動物だかんな。狭い空間に血の繋がってないオスメスをブチ込んだら、そりゃあ番うだろうよ」という考えを持っているので、この展開には大納得してるんですよね。しかもそうなっていくきっかけがキスという肉体の接触から始まってるわけじゃない。これが好きなポイントで、つまりね私は欲望に正直であることが正しいと思ってるんですよ。家族という建前とかを突破させられてしまう肉体の欲望、それがまず先にあって後から気持ちを自覚していくって流れは、ものすごく好みなんです。
ここまでくると、いきなり転勤する父親とそれについていく母親ってのも「家族」という枠組みを無視して、欲望に従うべきだっていうメッセージへと姿を変えるわけじゃない? つまりこの作品は初手から「お前の欲望のままに生きろ!」ってテーマをブチ込んでいたんですよね。それは決して現代社会では正しい思想ではない、ではないけど私は好きなんだからしゃあないわなw
んでちょっと話を戻すと、引きこもりボーイのところで「好きな格好で、好きなことやって、それが楽しいんじゃん」ってセリフがあったわけで。これがRPGの話だっていうのが重要になってくる。つまりゲームにおいて「格好」はある程度、そのキャラクターのクラスつまり役割と紐づけられている。
だからここの「好きな格好」というのはほとんど「好きな役割(ロール)」で生きるべきだ、って話をしている。だからそれは「家族」あるいは「お姉ちゃん」って役割(ロール)を選ぶか、それとも「恋する少女」って役割(ロール)を選ぶか、という問題に先んじて解答を示しているんですよね。つまり物語の最初も「欲望のままに生きろ」、中盤の山場も「欲望に従え」、でクライマックスも「欲望が正解!」で終わっていくという、徹底して人の動物的欲望を肯定している。
いやぁ、ヤバいよねw めちゃくちゃアナーキズム溢れる作品で。これが少女漫画原作で、ティーン向けのキラキラ恋愛映画のガワをまとってお届けされてるのはなかなかに攻撃的な映画でしたよ。私は好き、こういう「欲望の肯定」に溢れた作品が好きです。
ただ、お話が基本的に「家族」の中で収まってしまうので、そのアナーキーさが狭い空間でしか駆動していないのが「面白い」とは言えないみみっちさに繋がってしまってるのが残念。『うちの弟どもがすいません』というタイトルに従って、もっと家庭の外までそのめちゃくちゃな欲望を拡大させて、どんどん社会に迷惑と破壊を撒き散らかせて欲しかった。そこが足りなくて、つまんなくはあったかな。
でも好き❤
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次回は『映画 ふしぎ駄菓子屋 銭天堂』評を予定しております。
この話をした配信はこちらの18分ぐらいからです。