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一週遅れの映画評:『破墓/パミョ』ジャンボサムライキョンシーが出るのに真面目ってことある!?

 なるべく毎週火曜日に映画を観て、一週間寝かして配信で喋る。
 その内容をテキスト化する再利用式note、「一週遅れの映画評」。

 今回は『破墓/パミョ』です。

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 すごい変な映画だったんですよ。だってジャイアントサムライキョンシーが高笑いしながら火の玉になって突っ込んでくるんですよ!? それだけだとB級ホラーにしか聞こえないと思うんだけど、過去の歴史から連綿と繋がっている憎悪を描きながら、それを無効化して現在から未来への希望を語るっていうめちゃくちゃ真面目なことをやっていて……やっぱなんかすごい変! すげー面白い! という作品でした。

 えっとね、お話の発端は主人公である霊能者(というか霊的なトラブルに対処するのを生業にしてる巫女)の元に依頼が持ち込まれるんです。生まれたばかりの赤ちゃんが、原因不明のまま苦しんで泣き続けている、と。そしてその父親、祖父も謎の声と気配に悩まされている。現代医学では一向に解決の兆しがあらわれなく、藁にもすがる気持ちで主人公に相談してきた。
 巫女である主人公と同じく修行をしている弟は、その怪異の理由が彼らの祖先にあることを突き止める。恐らくその葬られ方に問題があって呪いが降り掛かっていると考えた主人公たちは、お墓を作るのに向いてる土地、”明堂(みょうどう)”を探しだすことを専門にしてる風水師のじいさんと、お墓を移すにあたって亡骸を清めて払うことに長けた納棺師のおっさんを仲間に引き入れる。
 適切に弔い直してやれば万事解決……と思いきや、その背後には国家を揺るがそうとした陰謀と呪詛が隠されていた。ってストーリーなのね。

 いやもうこの4人パーティーがバチクソにかっこいいんですよね。巫女とその弟は20代という若さで、自分たちの能力をある程度は”技術”として割り切ってるような現代的なドライさがあって。納棺師は中年だから世の中の情勢にちょっと諦めているヤサグレ感も出しつつ、自分の仕事に誇りをちゃんと持っている。風水師のじいさんは年齢を重ねてきたことで、自分と社会との折り合いをきちんとつけれてて、一方で娘がドイツ人男性と国際結婚することに悩んでいる一面もあったり。
 そういった「世代ごとの考え方」が違ってはいるけど、4人とも呪いとか怪異とかにそれぞれの分野で立ち向かってきた経験があるから、根底ではお互いに協力しあう気持ちを(ビジネスとしての側面も合わせて)持ち合わせている。このグラデーションを持った「仲間たち」の描写がすごく良いんですよね。

 で、ネタバレに突入していくんですが。その先祖が葬られていた場所は明堂とはほど遠い、風水的に良くない(でも最悪とまではいかない)場所なのね。風水師のじいさんは「なんでこんなところに?」と思いながら、墓を移設するよりは火葬することを勧めるんですよ。だけどその場所を選んだ真相を知ってそうな一族の老婆は火葬を渋る。それどころか「亡骸を清めなくていい、絶対に棺を開けるな」とかいう、めちゃくちゃ怪しい条件を出してくるんです。
 だけど棺の蓋はトラブルによって開いてしまい、そこから祖先の怨念が飛び出して。結果、主人公たちに赤ちゃんの祈祷をお願いしてきた父親は憑り殺されてしまう。それでいよいよ老婆は観念して火葬を許可する。
 火葬することで祖先の怨念は消され、痛ましい犠牲はでたものの赤ちゃんは助かる……だけど父親は死ぬ瞬間、なぜか日本語で「虎の腰に、鉄の杭を打ち込むのだ」みたいな謎の言葉を残しているのね。そして数日後、火葬するために墓を掘り起す手伝いをした男が、怪異に襲われてることが判明する……呪いはまだ、終わってなかったんです。

 結局ね、墓があった場所をさらに調べると、そこにはもうひとつ棺が埋まっていた。つまり先に見つけたお棺は、それを隠すためだったのよ。そして奥から出てきたのは、その昔に日本の将軍を埋葬したものだったのね……この将軍っていうのが、まぁ恐らく「現地で陣頭指揮を取っていたヤツ」ぐらいの意味合いっぽいんだけど。
 そこに彼を埋めたのは日本から来た陰陽師で、韓国っていう国にダメージを与え続けるための呪術だったんです。ていうのも朝鮮半島って見る角度によっては「虎」に見える。そして風水で「虎」って強くて縁起の良い生き物なわけ、だから虎の形をしていることが韓国という国にとっては吉兆である。その効力を失わせるために、虎の腰に「鉄杭」を打ち込んで弱体化させていたんです。
 その「鉄杭」として使われたのが、将軍がかぶっていた鎧の兜で。作中でもモノに魂や念を込めて精霊/怨霊に変える、みたいな説明がされるんだけど、その兜に朝鮮半島へ攻め入った武士たちの念が込められていて。それが冒頭に言った「ジャンボサムライキョンシー」になって襲ってくるってワケ。

 ……いや「ってワケ」とか言われても、私たちにとっては「鎧武者だから秀吉の朝鮮出兵の話?」「陰陽師と年代あわなくない?」「ていうかそこは刀で呪えよ」みたいな気持ちになるのと。まぁ「日本が朝鮮半島を支配するために」って動機を考えるなら、やっぱり日韓併合を踏まえているのは間違いないと思うんですよね。
 最終的に、そのジャンボサムライキョンシーは好物の鮎につられてウロウロしている間に、鉄杭代わりにしていた兜を祓われて滅ぼされてしまう。これで汚い日本の策略は打ち砕かれ、4人は無事に日常へと戻っていく……で話は終わる。

 この説明だけだと、実際そういう歴史があったから仕方ないとはいえ「お、反日か?」って感じが出ちゃうと思うんだけど、それは作中でちゃんと否定されてるのね。
 えっと、まず風水師と納棺師は「最近では俺たちの仕事も無くなってきた」って話をしてるんですよ。つまり風水とか遺体を清めるとか、そういった伝統が現代では軽視されてるって前提があるのね。その上で、「虎の腰に鉄杭」の意味が判明したときに、こうやって国にダメージを与えようとしてるんだ。という説明を受けた納棺師が「でも、俺たちはちゃんと発展してるじゃないか」って言うです。
 つまり「そういったオカルトって現代ではどうでもいいよね」があり、さらに「それって全然効果無かったな」って言われてるわけです。だからここで行われたことを「それは昔の話だし、いまはもう関係ないじゃん!」としているんです。
 さらに、風水師の説明で言ったとおり彼の娘はドイツ人男性と国際結婚することが決まっている。いうなれば「自国と他国のあいだで、友好な関係を結んでいる」ことを、このことで示しているんですよね。それを加味すれば、当然この作品は「過去には色々あったけど、それはもう過ぎたことで。これから先は国とか関係なく良い関係をやっていこうぜ!」って言ってるわけですよ。
 ジャンボサムライキョンシーを出してくる好き勝手やってんな感を出してきながら、メッセージがめちゃくちゃ真面目だなぁオイ! 最後に風水師の娘が挙げた結婚式に4人で参列して、家族の集合写真にまで混じる超ホッコリエンドだし。やっぱなんか面白いけど変な映画! あれですね「妙に探索者同士の気があった『クトゥルフの呼び声TRPG』のリプレイ」を見た気分でした。見終わったあとの満足度はかなり高かったですね、間違いなく面白い作品だった。

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 次回は『がんばっていきまっしょい』評を予定しております。

 この話をした配信はこちらの18分ぐらいからです。


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