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一週遅れの映画評:『男はつらいよ お帰り寅さん』二万円を/で手放して

 なるべく毎週月曜日に映画を観て、一週間寝かしてツイキャスで喋る。
 その内容をテキスト化する再利用式note、「一週遅れの映画評」。

 今回は『男はつらいよ お帰り寅さん』です。

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 それこそ去年の『伊集院光の深夜の馬鹿力』で言っていた

”「絆」って、要は「鎖」だから。苦痛を伴う絆のことを「鎖」って言う”

 って話で。
 
 いやいきなり「それこそ」で始めると意味わかんないと思うんだけどw
 
 この映画って基本的には「失くなっても無くならない絆」の話をしていて、寅さんって存在がいたことで家族とか親戚とかだけじゃなくてちょっとした知り合いとかよくわかんない人たちが同じ場所に集って、でその寅さんっていう「ハブ」が失われてもその場所になんとなく集まる人たちもいる。
 一方で恐らくはもう二度と会わなくなる人もいて、ただ場所っていう物理的なものは残り続けるから「そこには昔、あの人がいた」っていう場所と結びついた記憶はやっぱり在り続ける。
 それはやっぱり「絆」って表現されるし、その絆を作り上げた寅さんって存在がこの世から無くなったとしても、残り続ける。その上でそういった交差する絆のラインを中心でハブしていた「寅さん」てものを繰り返し想起させられる。「ああ寅さんってダメだけど憎めなくて優しくて、変な人だけど居なくなったら寂しいなぁ」みたいなことを繰り返し思い出させられる。
 
 言ってしまえば、これって追悼と思い出語りで「絆」を再確認するための作品なのよ。
 一部を除いて。
 
 本作では寅さんの甥である満男が主人公なんだけど、満男と昔の彼女であるあと泉の母である礼子が、すでに離婚している泉の父・一男に会いに行くのね。というのも一男は施設に入院していて体調も悪く、まぁもう先は長くないだろうって状態で。
 過去のいざこざで泉は父親のことを許せない、まぁある程度の年月が過ぎてるからそれほど激しいものではないけど、やっぱり許せないって気持ちを引きずったまま病床の父に会いに行く。
 父親は泉に「自分の傍に居てくれ」って頼むんだけど、泉は「自分は海外で暮らしていてそこでの生活がある、夫も子供いる、それはできない」って断る。許せないって未だに思ってる相手だからそりゃ当然だわな。でそれを聞いた父は「これで孫に絵本でも買ってあげてくれ」って震える手で財布から一万円札を引っ張りだして……まぁ~それがちっちゃく折りたたまれたくしゃくしゃの一万円札なの。
 それでね、泉が病室から居なくなったところで、残っていた満男が帰ろうとするところを一男が呼び止める。「泉のことをよろしく」って、つまり満男を旦那だと勘違いしてる。誤解をとこうとするんだけど、一男は全然話聞かなくて、なんというか「そういうところだぞ」って感じなんだけどw
 満男も年寄りだし仕方ないか、って感じで夫ぽいことを言って立ち去ろうとするんだけど
「こうやって暮らす身に、さっきの一万は堪えたぁ……」つって、泉に渡した一万円を満男から回収しようとするのよ。
 娘にはいいところを見せたい、けれど生活はギリギリ。その微妙な妥協点が「娘の旦那に一万円請求する」っていうその情けなさ、夫なんだからその顛末が「いいところを見せたい」娘にも伝わってしまう可能性は低くは無いのに、そこで回収するしかない生活苦とカッコつけきれないしんどさ、でも「男同士ならわかってくれるだろ?」という押しつけがましい信頼があったりで。
 
 それで満男を一万円渡すんだけど、そこで一男は指を一本立ててさ
「香典替わりだと思って、どうせもう二度と会わないだろうから」
 ってもう一万よこせって言うのよ。
 
 ここがねぇ、ほんとクソ人間なんだけど、私はなんか超感動してしまって。
 
 娘っていう存在。無理だとわかっていても「傍に居てくれ」と言ってしまう相手との「絆」を、「二万円」で手放してるのよ一男は。
 そういう人間の情けなさとか悲しさに「いやでもこれはたまたま人間関係が上手くいってしかも早々に死ねた寅さんと、たまたま人間関係の運が悪くてしかも死ねない一男」って対比を見てしまって、それが最初にいった「苦痛を伴う絆のことを鎖と言う」って話でさ。だからそういう意味では「苦痛の鎖から二万円で解放される」話でもあるわけ。
 実際そのあとで泉は母親と大喧嘩になってしまうわけで、そこには解放されていない絆/鎖がまだあるわけよ。
 
 だからね、この作品、基本的にはノスタルジーと下町情緒と暖かな絆を賛美するものではあるのだけど、「それって運がいいだけで、寅さんは徹頭徹尾"運を持っていた"だけなんだ」っていう自己批判も確実にあって、なんか見に行く前に思っていたよりは、ずっと面白い作品だった。

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 この話をしたツイキャスはこちらの16分ぐらいからです。


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