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一週遅れの映画評:『トランスフォーマー/ONE』この怒りは、自分自身も撃ち抜いて。

 なるべく毎週火曜日に映画を観て、一週間寝かして配信で喋る。
 その内容をテキスト化する再利用式note、「一週遅れの映画評」。

 今回は『トランスフォーマー/ONE』です。

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 私って本来なら『戦え!超ロボット生命体トランスフォーマー』がそれなりに直撃世代なんですよね。テレビ放送が3〜4歳ぐらいで、車がロボに変形するアニメを見てたりコンボイのおもちゃ持ってた記憶があるんです……でもねぇ全然ハマってなかったの。幼少期の私は乗り物にビタイチ興味がなくて、車も電車も積極的に触れた覚えがまったく無いんですよね。
 いまでこそバイクに対しては情熱を持って接しているんですけど、やっぱりそれ以外の乗り物には食指が伸びない。ビックリするほど 車に対して 無粋、BKB。ヒィーヤ! 言うてますけど。

 だから「トランスフォーマー」シリーズって全然見てないんですよ。『ビーストウォーズ』はちょっと見てたかな、本当にそのぐらいで……あっ、あと『キュートランスフォーマー』は普通にショートギャグ作品として見てたわ。こうやって週一で新作映画評を話すってことを10年以上続けているのに、ことごとく「トランスフォーマー」を避けている。
 それは当然「興味あんまない」のもあるけど。それで言ったら「あえて興味が持てない作品に飛び込む」こともよくやってるから、それが一番の理由ではないんですよね。こうやって批評だって姿勢を取る以上、対象とする作品のことをある程度は調べたりしなくちゃならない。そうなると「トランスフォーマー」ってめちゃくちゃ歴史あるコンテンツで、かつ映像作品だけの枠に収まるものではない……つまり”オモチャ”としての側面が同じくらい重要な作品群なわけじゃないですか。
 で、そういったトイとしての歴史も把握していくなんて一朝一夕では不可能なわけさ。なんというか「興味がないからこそ、リスペクトを忘れてはならない」って意識があって、軽々に踏み込めないって気持ち。なんとなくわかるでしょ? 知らないものにこそ敬意を払え、LESSON4ですよ。
 ということで今回の『トランスフォーマー/ONE』は、これまであった「トランスフォーマー」の歴史、その出発点ということで散々「なにも知らなくても大丈夫だから!」アッピールがすごかった。つまり「入門するならいまがチャンス!」みたいな、入会費無料キャンペーン的な感じだったのでようやく触れることができたわけですよ。

 そんでとりあえず全体的な感想としては、泣いたね。超泣いた。いや、こんなん絶対に泣いちゃうでしょ……。
 えっとね、お話としてはロボット生命体が住む星では、住人が二分化されてるんですよね。乗り物に変形できる「トランスフォーマー」と、その能力を持っていない「労働者」に。で、その労働者たちはロボット生命体のエネルギー源であり、同時に社会インフラの根幹をなす「エネトロン」という資源を採掘する過酷な労働に従事しているの。あれ? エネトロンじゃないわ、そっちは『特命戦隊ゴーバスターズ』か。「エネルゴン」ね「エネルゴン」。
 でそのエネルゴンが枯渇しているのは過去に起こった星間戦争で、エネルゴンをぽこじゃか生み出す装置が遺失してしまったせいなんです。そのぽこじゃか装置を探索する任務についてるのがトランスフォーマーのリーダー・センチネルプライム。そのセンチネル超カッケー! と思いながら日々つらい労働に励んでいるのが、主人公のオライオンとD-16のふたりなのね。
 ちょっと破天荒で無茶な行動を繰り返すオライオンと、基本的には真面目な労働者であるD-16なんだけど、ふたりは妙に馬があう。いっつも「いい考えがある!」と言っては騒動を起こすオライオンに巻き込まれながらも、その行動力につまらない日々を変えてくれる可能性を感じてるD-16。そして今回オライオンが持ち込んできたのは「年に一度行われる最高峰のレースに、トランスフォーマーじゃなくて俺たち労働者が出場して爪痕残したら……すごくね?」というもの。
 なんやかんやあって、そのレースで優勝はしなかったものの「労働者階級だってここまでやれるんだ!」ってことを見せつけたふたり。それを憧れのセンチネルに称賛され大喜び。しかしここから彼らの運命は激変していくのだった……。

 で、まぁ普通に予想通りセンチネルが悪いヤツなんですけどw
 ざっくり言うと過去の戦争に負けたのはセンチネルの裏切りが原因で。彼は労働者が死ぬ気で集めたエネルゴンを、敵に貢いで自分の権威を盤石にしていた。しかもトランスフォーマー/労働者っていう身分制度も、生まれたときにトランスフォーマーである変形装置みたいのを剥ぎ取られて、意図的に労働者階級を作り出しエネルゴンを採掘するための奴隷にしていたことが判明するわけ。
 それを知ったオライオンとD-16は、まぁブチ切れるわけですよ。そらそうよね、自分だけじゃなくて仲間たち全員が騙されて、つらい労働を強いられていたわけだから。

 だけどここでD-16はオライオンにも怒るわけですよ。「何も知らなければ、このまま働いて一生が終えれたのに!」って。
 いや、それはおかしい、おかしいんだけど……気持ちはわかるじゃない? D-16は比較的真面目に働いて、ちょっとずつだけど上級労働者へと近づいていた。だけどオライオンのせいで最下層の階級へ落とされ、それどころか「いままで自分が正しいと思っていた生き方」まで全否定されてしまうわけだから。
 いまさら真実を知ったところで、自分たちにはそれを知らしめる手段も力も無い。だったら何も知らないままのほうが幸せだったんだ、ってなってしまう気持ちはわかる。つまりD-16は「あまりにショッキングな真実」と「いままで騙されていたこと」に直面してしまって、激しい怒りを覚える。だけどその怒りがあまりにも大きすぎて、あらゆるものに怒りをぶつけずにはいられないわけですよ。

 それでもオライオンに説得され、さらには荒野で独自に暮らしていたセンチネルの敵対組織と出会うことで「センチネルを打倒し、自由を取り戻すんだ!」って方向になっていくのね。
 それで紆余曲折あった果に、オライオンとD-16はセンチネルを倒す。倒すんですけど、ここからオライオンとD-16は違う結論を出してしまうわけですよ。

 オライオンはセンチネルを追放して、いまの社会をみんなで変えていこうとする。一方でD-16はセンチネルを処刑し、いままで社会を牛耳ってきたトランスフォーマーを全員殺すべきだと考える
 ここでちょっとグロテスクなのが、オライオンが他のトランスフォーマーたちを説得しようとする言葉。みんなのことを称賛し、尊厳ある存在としてやっていこうな! みたいな語り口調が「センチネルとよく似ている」ってとこなんですよね。
 そもそもセンチネルはリーダーとして立ち回っていたし、オライオンが知っている「リーダー像」って「センチネルの姿」だけ。だからオライオンが新しいリーダーとして振る舞おうとするとき、その言動とか所作はセンチネルを参考にするしかない。実際にエネルゴンぽこじゃか装置を手にして、みんなにトランスフォーマー変身装置を取り戻したオライオンは正しいんだけど。でもリーダーとしてやっていくためには、「いままで自分たちを騙していた相手」と同じようなことを言うしか無い。これってすごく不気味ではあるんですよね。

 一方でD-16は騙されていたことに怒っているんだけど、その怒りは自分にも向かっちゃう。さっきも言ったように彼は「幸せに騙されていたかった」と思わず口走ってしまった、それが「幸せ」とは程遠い状態であるにもかかわらず!
 だからD-16は誰も信じられない、それはセンチネルも、センチネルそっくりなことを言うオライオンも、そして「自分自身」も。だってD-16は騙されたことに怒っているんだから、真実から目をそらして自分を騙そうとした「自分自身」もその怒りの対象になるわけですよ。誰も、親友も、自分も信じられなくなったD-16にとって、この世界に居場所なんてないわけです。
 それを解消するためには、いまここにある社会を一度ブッ壊して更地にしないといけないし、その上で誰からも(自分自身からも)騙されない新しい秩序を作るしかない。それは誰にも干渉されず、自分の思うまますべてが実行できる――全部が思うまま行えるのなら、あらゆることが「行われた」ことになるから、「騙される」が発生する余地が無くなるわけだからね――そんな立場になるしかない。つまり「荒野の王様」になるしかないわけですよ。

 あくまで社会と秩序を作ろうとするオライオンいやオプティマスプライムと、すべてを破壊して荒野にひとり支配者として立つしかないD-16いやメガトロンは、決定的な決裂を迎えることになる。
 親友同士。しかも破天荒なオライオンと真面目な労働者であったD-16は、ここで秩序を護るオプティマスプライムと破壊を求めるメガトロンとして、まるで思想を入れ替えるようにして、敵同士になってしまうわけですよ。
 かけがえの無い友情は、社会によって引き裂かれ、お互いに殺し合う関係になり。その争いはこれから先、ずっと続いていく。この悲しい終わりにもうね。めちゃくちゃ泣いちゃいましたよ……。

 やべぇなぁ。これから「トランスフォーマー」シリーズを履修していくの、超大変なのわかってるのに手を出さざるえないでしょ……こんな凄い作品を見せられたらさぁ!

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 次回は『ベイビーわるきゅーれ ナイスデイズ』評を予定しております。

 この話をした配信はこちらの13分ぐらいからです。


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