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一週遅れの映画評:『ブルーサーマル』憧れとは空へ向かうもの、恋とは落ちるもの。

 なるべく毎週火曜日に映画を観て、一週間寝かしてツイキャスで喋る。
 その内容をテキスト化する再利用式note、「一週遅れの映画評」。

 今回は『ブルーサーマル』です。

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 空を飛ぶこと、というのが自由の象徴か?重力への意識か?というのが作品によって違うんですよね。宇宙世紀シリーズの『ガンダム』なんかはその葛藤というか立場の違いが中心にあったりとかで。
 そういった観点からすると、この『ブルーサーマル』はかなり中途半端なんですよ。それを「良さ」と捉えるか「なんかな……」ってなるかは好き嫌いが分かれるところだと思う。
 
 私はこう見てる間は面白いな面白いな、と思っていたけど、作品が終わって劇場を出るときに「あれ?」って。なんだか見てる間に感じていた高揚が一切残ってないぞ?というかつまらないわけじゃなかったのに「イマイチだった」気分になってるぞ?という不思議な感想になっていて……つまり私は「なんかな……」の方だったということなんですが。
 
 でもね、それはわかるんですよ。主人公は「空」に適性があるキャラクターとして描かれていて。空中で自分がどれだけ傾いていて、どっちを向いていて、どの高さにいるか、ということが計器に頼らなくても直感的にわかる。もっというと何も目印がない環境でも上昇気流がどこにあるかを何となく察知できる、という特殊能力を備えている。
 そんな彼女が「飛ぶことに」に魅了されていく、というのは明らかに空を飛ぶことが自由への憧れとして描かれている。作中でライバル校に腹違いの姉がいて、それとの姉妹仲がめちゃくちゃ悪かったりとか。高校時代バレーボールをやっていたけど主人公は背が低くて、つまり「高く」いれなかったことを思い出していたりとか。
 そういった地面にあるものから切り離される「空」が憧れになって、そして最初はグライダーのことなんて何も知らなかった主人公が才能を開花させて「空」を獲得していく過程は画面で起こってることと内容が一致していてすごく良いんです。
 
 でね、この『ブルーサーマル』で扱われてるグライダーって装置的な飛行能力は備えていなくて、揚力を利用して滑空する乗り物なんですよ。だから言うなれば「常に落ち続けている」ものなわけで、その中で上昇気流を見つけては機体の高度を取ってそれでまた落ちながら進む、そういった挙動をしている。
 それって落下するまでの間をいかにコントロールしていくか?というのがグライダーという乗り物の主題であるわけですよね。つまりここで主人公の目指している方向と乖離が発生している。常に重力の影響下にあってそれをコントロールすることを強いられているのって、いつだって地面のことを意識し続けることを求められる。それって自由で切り離された「空」ではなく、地面からの延長にある空間でしかないわけです。
 
 グライダーって離陸はどうするかっていうと、機体に接続されたワイヤーをウインチで高速で巻き取る、それで時速100キロくらいまで加速して飛び上がっていて。それで地面から離れたところで接続されたワイヤーを切り離すんですね。
 それってまぁわかりやすい”繋がりの切断”であって、地面にあるものと「私」との間にあった関係を切り離して自由になる象徴である。主人公の求めるものは最初そこに向かっているわけです。ところがワイヤーが外れてもの地面から引っ張る力は、つまり重力は働いている。そこには見えないけれども確かにある力で繋がれているわけで、結局のところ人は自由になんてなれないわけですよ
 その窮屈さや切なさを「人の本質」と捉えるか「描こうとしたものと嚙み合ってない」と捉えてしまうかで、「良い作品だったよ」となるか「なんか最終的にはイマイチだった」となるかの分岐点だと思うんです。で、私は後者だったと。
 もっと言うなら『ZZ』でハマーン・カーンの「人間がまだ重力に引かれて飛べないって証拠だろ?」に対してジュドーが「だからって、こんなところで戦ったって……なんにも……!」っていう会話があったじゃないですか、私にはこの作品全体がその問いかけをハマーン側でやってるような気がして。ほら私は可能性バカだから、やっぱジュドー側にいてしまうわけなんですよ。
 
 あのね、少女が空を舞う、という題材だで近年だと私は『トリガール』って邦画と『荒野のコトブキ飛行隊』ってアニメがかなり好きなんですけど、これ前者は空が自由の象徴系で後者は重力への意識系の作品なんですよ。だから別に人が地面からはやっぱり離れられないという話自体がダメなんじゃなくて、そこの不一致が。主人公の指向性と物語全体のね、不一致が合わなかったなぁー、と。
 
 『ブルーサーマル』に主人公の先輩でめちゃくちゃ有能パイロットがいるんですけど、主人公はその先輩に最初は憧れている。それでその先輩のグライダーが墜落しているのが発見されて、でも先輩自身は発見できていない……って展開に終盤なるんですね。そこで主人公は自分の憧れが、恋愛感情を伴っていることに気づくわけですけど。
 違うんですよ。憧れというのは高い空へ向かうけれど、恋というのは落ちるものなんです
 
 それで結局その先輩は生きてることがわかる。死によって恋を昇華させるため空を飛ぶのではなく、生きてることでより強く地面にあるものに引き寄せられてしまう、その部分が何というか主人公が魅せられた「空」との対岸にあって……あれ?これあれか?私が「恋愛要素いらねーんだよ!」ってなってるだけのやつか?
 いや、違うんだって。前半はそういったものから解き放たれるのを丁寧にやっていてそれが面白かったのに、終盤で急に墜落しはじめるのが私にはダメだったんですよ。
 
 ちなみに今回、ガンダムをたとえに出しているのは、この主人公が所属している青凪大学航空部の旗が青地に白文字で「Aなんとか」って書いてあって、それがどっからどう見ても「アナハイムエレクトロニクス」のロゴだったのよwもうそれ見た瞬間「ガンダムだ!主人公はニュータイプなんだな!」って脳になってしまったからです。
 悪いことが起こったら、それはだいたい全部アナハイムのせい。間違いない。

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 次回は『THE BATMAN』評を予定しております。

 この話をしたツイキャスはこちらの15分ぐらいからです。


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