一週遅れの映画評:『テン・ゴーカイジャー』「どこにでもある」と君は叫んだ。
なるべく毎週火曜日に映画を観て、一週間寝かしてツイキャスで喋る。
その内容をテキスト化する再利用式note、「一週遅れの映画評」。
今回は『テン・ゴーカイジャー』です。
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10年経ってゴーカイジャーはどうなった?という問いに対して「10年後も彼らはゴーカイジャーだった!」と力強く応えてる作品でしたね。で、それは翻って「ちょっとずつ変わっていく”戦隊”」というものの肯定でもあって。
レンジャーキーを使うことでレジェンド戦隊のコピーを呼び出して、それを戦わせる例えば「アカニンジャーvsシノビホワイト」みたいな感じで、それに対して賭けを行う「スーパー戦隊ダービーコロッセオ」が国営ギャンブルとして大流行してる、そんなギャンブルにどうして戦隊ヒーローたちが協力してるの?っていうと「その収益の8割を地球の防衛費に充てる」という目的があるから……って設定なわけね。
これって正直わかる話じゃない。戦隊を運用するためには莫大な予算が必要なことは容易に想像がつく、それに対する背景が語られる作品もあれば、語られない作品があったり。なかにはお金に関するエピソードをやる戦隊もあるし。
で、もうちょっとメタな話をするならスーパー戦隊が収益を上げなければならないコンテンツなのは間違いないじゃない。それはある程度の年齢になれば当然に視野に入ってくることで……まぁ実はそこにもグラデーションはあって、幼少期は「かっこいー!」から思春期になると「あんなものオモチャを売りたいだけのもんだ!」みたいに捻くれて、からの大人になると「続けていくためには儲けることも必要で、その中できちんと面白いものを作り続けいること」の姿に改めて「かっこいー!」ってなったりするわけだけど……これは私自身の話ねw
だからスーパー戦隊といえども「資本主義」って枠組みのなかにはどうしてもいるしかない。その中で描かれる「スーパー戦隊ダービーコロッセオ」って結構モロに「劇場版でレジェンド戦隊が大集合!」みたいなやつの自己パロディでもあるわけで。
ただまぁ「社会は防衛費が稼げる、宇宙平和は戦隊の皆さんの願いでもある、市民は楽しい。めでたしめでたし」とはならんわけですよ、当然。けれどもレジェンド戦隊とゴーカイシルバー/伊狩鎧はその資本主義の枠に捉われてしまっている。
だからここでアウトサイダーとしての「海賊」が出てくるわけですよ。これが本当に舞台設定の勝利って感じで、真相は別として表面上は正しくて、社会秩序として破壊することができないシステムに対して抵抗できるのは確かにアウトローしかいない。だからこの役目を任される存在が「ゴーカイジャー」というのは、もうね、図式が完全にキマってるんです。すげぇ良い。
その中で一人、そのシステムに取り込まれてるのが伊狩鎧っていうのがまた……彼はスーパー戦隊好きが高じてゴーカイシルバーになったっていう人なわけです。だから戦隊が続いていく/続いていけるための理論には全力で乗っからざるえない。だから彼は彼で「スーパー戦隊」でありながらアウトサイダーなのね、ただしマーベラス達とは逆側に外れてるだけで。
だからそこで争いが起こるってのもめちゃくちゃ納得感があって面白いんです。
それでまぁその「スーパー戦隊ダービーコロッセオ」の真相が明らかになったところで、純粋な正義感からその公営ギャンブルに深く関わっていた青年が「でもこんなことをする人類を、救う価値なんてあるんでしょうか?」って絶望して言うわけです。
それに対してマーベラスは「どこにでもある」と答える。これがねぇテレビ放映時の最初の頃、マーベラスは地球にそれほど興味がなくて「この星に守るほどの価値があるのか?」って言う、そのとき市井の高校生から「ある!」と反論されるわけですよ。それに「どこにだ?」と質問を重ねたところに「どこにでもだ!海賊なら、自分で見つけろ!」と言われてハッとする(しかもそれがずっと本編通してマーベラスに影響を与えている)シーンがあって。
いや、まぁ、ちょっと、うん言えない部分もあるんですが、そのやり取りがひっくり返った表現である。それだけに留まらず、冒頭に言った「受け手の成長段階によってスーパー戦隊の”商品”としての立ち位置にたいする考え方が変わる」という部分が、そこでは言われてるような気がするんですよね。
オモチャを売るための作品じゃないか!みたいな捻くれ方へ、それでもそこに作品としての価値はあり、それは自分で見つけるしかないんです。やっぱり。10年という歳月の変遷をそういう形で見せてくれたのは、本当に心にグッとくるものがありました。いや、めっちゃ良かった!
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次回は『劇場版アルゴナビス 流星のオブリガート』評を予定しております。
この話をしたツイキャスはこちらの20分ぐらいからです。