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【映画に出てきたモンを食う】第84回「蜂蜜」(『ビーキーパー』より)
その週に見た映画。そこに出てきたメニューを食べる。
そういう趣味の報告。
今週は『ビーキーパー』より、「蜂蜜」でした。
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さて、映画評ではできなかった「半倍数性」の話をしていきますよ! これは私がめちゃくちゃ好きな昆虫の生態なんですが。
この「半倍数性」という特徴を持っているのはハチやアりの一部……代表的なのがこの『ビーキーパー』にも登場する「ミツバチ」なんですけど(あとごく少数の甲虫類)、めちゃくちゃざっくり言うと「受精卵からはメスが、未受精卵からはオスが生まれる」って特性なんですね。そしてその特性があることで「なんで”働きバチ”なんて役割ができるのか?」が説明できるんです。
生物の多くは受精によって子どもを作りますね? そしてオスの遺伝子を半分、メスの遺伝子を半分それぞれ引き継ぐこととなります。
女王バチの染色体は32本あります。簡略化するためこれを【ABCD/abcd】の4×2グループに分けます。さてこの女王バチが未受精卵を生むと、その卵は必ずオスになります。このオスが持つ染色体は例としてですが【ABcd】(あるいは【CDab】)となるんです。つまりミツバチにおいてメスの染色体は32本であり、オスは半分の16本しか持たない。だから「半倍数」と呼ばれるんですね。
ここから次の世代に進みます染色体【ABcd】を持つオスが、女王バチと番になりました。この女王バチの染色体が【あいうえ/アイウエ】だった場合、そこから生まれる子どもはどのような染色体の組み合わせになるでしょうか?
まず未受精卵の場合、そこにオス【ABcd】の染色体は混じりません。すべて女王バチ由来のものになりますから、例えば【あい/ウエ】などになりますね。
一方で受精卵はどうでしょう? オスとメスそれぞれから16本ずつの染色体を受け取ることになります。女王バチは32本の染色体を持つので【あイうエ】や【アいうエ】などの染色体が子に引き継がれます。そしてオスは元々16本しか染色体を持たないため【ABcd】全てが引き継がれます。
すると生まれてくるメスの染色体は【ABcd/あイうエ】か【ABcd/アいうエ】などになります。
さてさて、女王バチから見たとき自分の子どもは染色体の16本を引き継いでいますから、共通する遺伝子は1/2になります。オスから見ると自分の染色体はメスへ全部引き継がれてますが、もう16本が女王バチから来ているため共通する遺伝子は1/2です。これは人間でも同じことですよね、子どもは(生殖するオスメスという意味での)両親それぞれ半分づつ染色体を引き継ぐので、親からみて1/2の遺伝子を共通で持っています。
これが人間なら姉妹でも1/2の遺伝子が共通することになる。
しかし半倍数性であるミツバチの場合、確かに女王バチからの染色体は1/2が共通ですが、オスからの遺伝子は全部がそのまま引き継がれています。先の例だと【ABcd/あイうエ】【ABcd/アいうエ】の姉妹では、4×2グループのうち6/8が同じ染色体となっています(【ABcd/〇〇うエ】)。
つまり共通する遺伝子は3/4。これは自分で子どもを作るより1.5倍も多くの遺伝子を姉妹で共通しているわけです。生物の絶対的な行動の指針として「自分の遺伝子をできるだけ多く残す」があります。通常なら自分の子どもを作る(残る自分の遺伝子は1/2)がもっとも効率が良い方法です。
しかし半倍数性の特性を持つ「ミツバチのメス」の場合、子ども(1/2)よりも姉妹(3/4)を増やす方が、より多くの「自分の遺伝子」が残ってることになります。したがって”働きバチ”(働きバチは全てメスで構成されています!)は自分で子どもを作るよりも、せっせと女王バチの世話をすることで姉妹を増やすことに生涯を捧げるのです。
ここで私が初めて知ったとき「ぞわっ」とした追加のお話があります。
女王バチは区分けされた(いわゆるフラクタル構造)の巣、ひとつひとつに卵を産んでいきます。このとき女王バチはまず巣に頭を突っ込んで中の様子を探ったあと、反転してお尻を巣の中に向け産卵します。
実は巣の大きさは全て同じではなく、ときどき少しだけ大きな部屋があるんですね。女王バチはまず部屋の大きさを探ってから産卵をしてる。それは「通常の部屋には受精卵(つまりメス)」を「大きい部屋には未受精卵(つまりオス)」をという産み分けをしているからです。
この巣を作ったのは誰か? それは当然”働きバチ”です。つまり女王バチがどんな卵を産むか決めている、いや「決めさせられている」。姉妹がたくさん増えると嬉しい”働きバチ”にコントロールされているのです。
女王はその名に反して、数多くの”働きバチ”によって支配されているのですね。
映画評はこちら。