旅は天然の成長促進剤
旅とは?
「月日は百代の過客にして、行きかふ年もまた旅人なり」とは、松尾芭蕉の有名な紀行文『奥の細道』の序文です。
皆さんも、学校で暗唱した記憶があるのではないでしょうか?
ざっくり一言でいうと、月日は永遠に旅をしている旅人で、人生もすなわち旅人のようなものだという意味です。
芭蕉は、船の上で一生働く船頭も馬を引いて働く馬方も、毎日の生活そのものが旅で、旅を人生のすみかにしているようなものだと説明しています。
よく好きな言葉は「人生は旅」だと言っている人をみかけますが、私も共感しています。
「ライフワークは旅」と断言する友人もいます。
昔の人と同じような言葉をモットーにしているのって面白いですよね。
では、このように人間を熱狂させる旅とは一体何でしょうか?
私にとっての旅は天然の成長促進剤です。
今まで、旅のない人生など考えられませんでした。
しかし、今や世界は新型コロナ感染症による影響によって旅に出るハードルが高くなり、ライフスタイルや価値観も変わりました。
同時に人生という「旅」に大きな影響を与え、立ち止まって考える機会を得たのだと思います。
私もその一人です。
九州旅行の想い出を、おすすめポイントとともにご紹介しながら旅について考えてみます。
オリンピック前夜の潮騒
2020年3月24日にオリンピック延期の報せを聞いたとき、私は前年の9月に出た九州への一人旅を思い出しました。
以前から私は歴史ある古いものに興味がありました。
「今も昔も変わらないもの」への憧れが頭の中にあり、歴史や文化のある場所を探して友人と各地を車で走り回るのに夢中になっていた頃です。
ちょうどオリンピック開催に向けたムードが国中で盛り上がっており、世間は「東京オリンピック」が今一番の歴史的瞬間だと確信していました。
とにかく九州の宮崎県木崎浜で開催されたワールドサーフィンゲームス(The 2019 ISA World Surfing Games)で見た大会会場の雰囲気は、国際的な祭典を前にお祭り騒ぎだったのです。
木崎浜周辺のおすすめ観光ポイント
宮崎県木崎浜は、南国風情が漂う名所として有名な青島のすぐそばにあるサーフポイントの一つで、年間を通して県内外からのサーファーで賑わいます。
個人的には高速道路からのアクセスが近いので車での移動がおすすめです。
インターチェンジを降りるとすぐに道路の両脇にヤシの木が現れるため、一気に南国のムードに入ります。
また、近くには宮崎ブーゲンビリア空港もあるので、陸からも空からもアクセスのよい場所であることが分かると思います。
宮崎ブーゲンビリア空港は、国内線・国際線が発着している上に、空港内で電車と直結しているので利便性も高いです。
日南海岸国定公園に指定されている青島には、豊かな自然とともにパワースポットで人気のある青島神社などの観光ポイントや見どころ、アクティビティがたくさんあるので、このエリアだけで何日も過ごせるほど宮崎をたっぷり堪能できますよ。
ISAワールドサーフィンゲームスフェスティバル(ISA World Surfing Games Festival)
ISAワールドサーフィンゲームスフェスティバルは、宮崎県木崎浜で大会期間中の2019年9月7日から9日間開催されました。
1964年に第1回大会が行われたサーフィンの世界大会として有名な歴史ある同大会ですが、まだ日本では4度目の大会と一般的な認知度も低く、東京オリンピックによって突然の脚光を浴びました。
宮崎県にとっては実に29年ぶりの大会になります。
フェスティバルは、東京オリンピックで初の正式種目となるサーフィンの文化を伝えるべく、国際サーフィン連盟(ISA)によって主催されました。
特に2019年大会は東京オリンピック代表候補を決める時期で、選手にとって重要な位置づけだったので、応援のオーディエンスを呼び込みたい想いもあったと思います。
観客側としては、オリンピックの前哨戦を盛り上げるお祭りは大盛況で、喜ぶべきものでした。
平井大などの著名なアーティストが野外ライブをする曲をBGMに、マスクなしの人々が思い思いの場所で集まって飲食しており、今では考えられないですね。
一方で、観戦中の試合は淡々と進んでいきます。
サーフィンのローカル文化がある地元宮崎での開催に、道ゆく人たちは皆、弾けるような笑顔で「今」を楽しんでいました。
私も会場の空気感にあてられて、当初は少しだけ観戦するつもりでしたが結局翌日も観に行くことにしました。
昼間のうだるような暑さとは逆に、夜は心地よい潮風が吹いてきます。
2日目の祭りの後の冷めやらぬ熱気に包まれた海に、夕日が沈む空のグラデーションは美しく、忘れられません。
潮騒の声を聴きながら、次の目的地を決めました。
相良700年の栄華
熊本県人吉市は、熊本県の南内陸部に位置する美しい温泉地です。
熊本・宮崎・鹿児島間の車での移動が容易で、通り道にあるため他の旅程と組みやすく、九州南部の中継地のような位置にあります。
市内を球磨川が流れており、その周りには歴史ある神社仏閣や城跡などが点在しています。
その中の一つである日本百名城に登録された人吉城は、球磨川を自然の城塞として利用して作られた名城です。
約700年もの長い年月を同じ城主相良氏が治めていた特異な経緯から、独自の文化を紡いできた歴史があり、独特な美しい雰囲気を醸成しています。
私は、旅先でおすすめの場所を聞かれたら必ず人吉を一番に挙げます。行けば行くほど違った味の出る深い魅力があると同時に、間違いなく癒されるからです。
猫の番台さん
前日に調べてから気になっていた新温泉へ入ることにしました。
近くで迷子になりかけつつ車を止めて入ると、一本違う道を探していただけでした。
親切で優しい管理人の女性が印象的で、入り口で話していると、足元をすり抜けていった先客が土間を上がって姿勢を整えて迎えてくれました。
かわいい猫です。
女性によると、飼っているわけではなくいつの間にかやってきて勝手に去っていくのだといいます。
新参者の私の顔を興味なさげに確かめると、満足したのか猫はまた気まぐれに外へ戻っていきました。
熊本県人吉市紺屋町「新温泉」
新温泉は黒いコーヒーのような色の湯が楽しめるアルカリ性単純温泉です。
昭和の時が止まったかのような、昔ながらのレトロな銭湯の味わい深い雰囲気があります。
きっと日本人なら誰もが、懐かしいノスタルジーを感じるでしょう。
通りから一本外れただけなのに、さわさわとした木々と、優しい風の音しか響かないほどあたりは静かです。
「昭和6年に建てられた建物だから、この建物も地震がきたら分からないよ」と高い天井の美しい装飾を見上げながら地元の女性が感慨深げに話をしてくれました。
なんと女性が温泉に入っているところを見た九州の他県にいるお孫さんが、「おばあちゃんテレビで見たよ!」と電話をかけてきてくれたそうです。
つい最近も九州のテレビ取材が入ったほど有名な温泉だと知らなかった私は、その話に感嘆しました。
地元の人の気さくなあたたかさと接して、私はさらに人吉が好きになりました。
旅は「成長促進剤」
私は、旅も旅人とともに有機的に成長していくのだと思っています。
私に気づきを残してくれたこの素敵な想い出たちは、ずっと輝いています。
帰ってきてから時が経った今現在でさえ、新しい気づきを与え続けてくれています。
私が好きなものは、建築物や博物館の中に所蔵されているような歴史的に残っているものだとずっと思っていました。目の前に見えることを優先して考えていたのです。
考えてみてください。
例えば目の前にピザがあるとします。
このピザは美味しそうですが平凡な普通のピザです。
あなたは今お腹が一杯です。この状況で、あなただったらピザに手を伸ばすでしょうか?
私は伸ばしません。
でも、極端な話ですが、もし皇帝が作ったピザだとすれば興味を示して食べたいと思うかもしれません。
数奇な運命をたどって目の前に届けられたピザであれば、写真に撮って残しておきたいと思うでしょう。
つまり、問題の本質は
・「皇帝が作った」
・「数奇な運命」
というストーリーにあるのです。
九州の旅は、私に本当に好きなものをあらためて教えてくれました。
歴史的なものだから好きなんじゃなくて、歴史やストーリーがあるからこそ好きなんだと気付かされました。
私はものに執着しがちですが、ものから生まれる感情・記憶・歴史のストーリー内容の方に興味があるということを学びました。
東京オリンピックは2021年に無観客で開催され、未来へとバトンをつなぎました。
そして令和2年7月豪雨で被災した新温泉は、周りからの熱い要望によって登録有形文化財への道を目指しています。
コロナ禍の中で、静かな熱狂が続いています。
私はこの旅を通して、「目に見えないもの」の価値をもっと体験していきたいと思うようになりました。本やオンラインもその一つです。
旅は、最も熱狂を感じるツールで教科書で、成長促進剤のようなものだと確信しています。
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