見出し画像

山田方谷の改革を企業経営として見る(その8)販売ルートの確保

8.販売ルートの確保

 方谷が厳しい財政状況の中で実施した公共投資としての河川や道路の整備は、単に内需拡大という意味のものではありませんでした。お金を生む天才として山田方谷を位置づけるなら、公共事業のための公共事業ではなく、お金を得るための投資だったと考えられます。

つまり備中松山藩内で生産した鉄製品は、それを売ってこそ利益になるわけですから、販売活動のためには、当然必要なことだと位置づけていたのではないでしょうか。

 さて、ここでは、山田方谷がお金のにおいに敏感な金融の天才であったと見て、話を進めてきましたが、彼はうまく仕掛けて他人の金を使い、大金を得ることだけが生きがいのような金の亡者では決して無かったことも理解しておくべきことです。

その証拠に、現在に置き換えると、百姓上がりの学者が一国の大蔵大臣となり、続いて総理大臣をも兼務する、いわば政治と経済の全権を掌握した独裁者として君臨したのですが、財政改革が成功すると大蔵大臣の地位を去り、総理大臣の地位は残しながらも一人山里の一軒屋に移り住んでしまうのです。

 また、明治維新に伴いペリーの強引な交渉により、国内からは多くの金(キン)が流出することになるのですが、経済だけでなくあらゆる面で十分な能力を発揮した山田方谷を中央政府が求めたにも係わらずこれを固辞し故郷に留まるというお金にも権力にもこだわりのないところが、山田方谷を無名にしている原因でもあり、それが逆に、いまだに方谷ゆかりの各地で尊敬を集めているゆえんでもあるのです。


■プチ用語集(追記)

公共投資(こうきょうとうし)
政府や公共団体が公共の利益を目的として行う投資。例として道路や河川の整備がある。
内需拡大(ないじゅかくだい)
国内の需要を増やすこと。国内の消費や投資が増えることを指す。
公共事業(こうきょうじぎょう)
政府や公共団体が行う事業。例としてインフラ整備や教育、医療などがある。
備中松山藩(びっちゅうまつやまはん)
江戸時代に現在の岡山県にあった藩。
金融(きんゆう)
お金の流れや管理に関する活動。銀行業や投資などが含まれる。
百姓(ひゃくしょう)
農業を営む人々。農民のこと。
大蔵大臣(おおくらだいじん)
政府の財政を担当する大臣。現在の財務大臣に相当する役職。
総理大臣(そうりだいじん)
政府の最高責任者。内閣総理大臣のこと。
明治維新(めいじいしん)
1868年に始まった、日本の政治、社会、経済の大改革のこと。
ペリー
アメリカの海軍将校で、1853年に日本に来航し、開国を求めた人物。
中央政府(ちゅうおうせいふ)
国全体の政府。地方政府に対して国全体を統括する政府を指す。
権力(けんりょく)
他人を支配し、従わせる力。
故郷(ふるさと)
生まれ育った場所や住んでいた土地。

-----------------------------------------------------------------  
この記事は、「知的資産経営の実践」大学教育出版 2014年初版から抜粋・加筆して記載しています。データ等は当時のものです。

いいなと思ったら応援しよう!