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交渉の達人
交渉の達人
その日は、夕方からあまり性質の良くなさそうな老人との交渉が予定されていました。
通常であれば、その交渉をシミュレーションし、現場を確認するために朝から緊張した気分になるのですが、その日は全く違って、私はワクワクしながら夕方を待っていました。
なぜなら、同じグループ内のベテランの方と一緒にその場に出かける予定だったからです。
私は多くのお客さんと交渉していましたが、そのベテランの方と一緒に行くことはなかったため、その人がどのような対応をするのかを生で学べると考え、ワクワクした気持ちになっていたのです。
お客様のところに行きますと、その相手との話が始まりました。
結局のところ、何とかしてお金を得たいというのがその人の考えなのだろうと思いましたが、恐喝するようなことを言えるわけではなく、自分たちが困っているということを説明されました。
ベテランの先輩は普段以上ににこやかな顔をして、出されたお茶はもちろん、その老人もタバコを吸う人だったため、一緒になってタバコを吸いながら話を始めました。
いろいろな話が出てきた中で、畑の上を通ることが問題だという一言がありました。すると、その瞬間に先輩は話をとって、「じゃあ配電線のルートを変えましょう」とすぐに話をまとめました。
それはまるで、時代劇の主人公に対して、悪者の手先が武器を持ってギャーギャー騒いだり、殴りかかって来たりするのを、ひらひらとかわしながら、一瞬の隙をついてスパッとやっつけるような切れ味でした。
先輩は一気にその話の流れを持ち込んだため、相手もどうすることもできず、結局、その方向で話がまとまりました。
私には、その場で相手が真っ二つにされたような雰囲気を感じました。
先輩と一緒に行ったのはこのたった一回だけでしたが、非常に多くのことを学べました。
それから職場を離れて17年経っても、毎年一回ぐらいはそのグループで飲み会を行っていて、当時のメンバーはみんな良くて非常に学びの多い仕事でした。
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<日曜日に電力の現場で学んだことを振り返る>