太陽光発電設備の故障
電気保安管理講習会では、新技術を扱うこととなっていますが、経産省の指導によると太陽光発電設備を特に取り上げる必要は無いようで、制度の改正等について紹介することになっています。
一方現場では、ベテランの技術者さんであっても、その仕事の範囲はキュービクルと考えておられる方も多く、太陽光発電設備を全く点検していないかたも多くいらっしゃいます。
その一方で、パワコンからパネルにかけての点検は、どちらかというと本来の電気保安技術者ではない方の参入が多いように感じています。
再エネは、今後もさまざまな形で広がると思いますので、その点検を業務として扱う方も多いと思いますので、概要を記載します。
FIT制度からの動きやO&Mの考え方全般については、別の記事でご紹介しています。
1.設備
(1)太陽光パネル
◇強化ガラス
太陽電池のセルは0.2から0.3mmの厚さで、受光面をガラス板側に向けて配列されています。このガラス板は、台風などで物が飛んできても大丈夫なように強化ガラスが使用されています。この強さは、太陽電池のパネルの上を作業のため人が歩くことも想定されています。
◇パネル寿命を決めるもの
太陽電池のセル自体の寿命は長いが、封止に用いられている樹脂の劣化がパネルの寿命を決めると言われています。
◇太陽光パネルの性能
太陽電池の性能については、世界のどこでも同じ条件で測定できるように、国際的な測定精度を保つことが求められます。そのため同じセルやモジュールを世界の標準化機関で回して、同じ値になるように調整されています。このテストを、ラウンド・ロビンテストといいます。
太陽光パネルは、建材としても使用されるため、台風を想定して、風速30m/s、散水量240mm/hの試験に耐える防水性能と排水機能を持っています。また、近隣での火災の場合に、フィルムが燃えたり、高温で融解したりして、火災が広がるのを防ぐため、難燃性のフッ素樹脂系フィルムの使用などにより難燃性を高めています。
(2)パワコン
一般に、パワコンあるいはパワーコンディショナーと言われる装置は、太陽電池で発電された直流を、系統連係が可能なように交流に変換します。この装置をインバータと言い、海外メーカーの取扱説明書には、インバータと記載されているケースもよくあります。
しかし、単に直流を交流に変えて電圧が一致しているというだけでは、売電等の目的のため、電力系統に接続することができません。パワーコンディショナーでは、系統の周波数、位相を検出し、インバータ制御のタイミングを制御して連係可能な状態にし、また、作業等により系統側が停電している場合には、系統連係が行われないようになっています。
電力業界では、電力の流れのことを潮流という言い方をします。これは、通常、電力系統からユーザーへの電力の流れを指しているため、太陽光等発電設備から電力系統側に電力が流れることを、逆潮流といい、太陽光発電にまつわる説明では「逆潮」という言葉がよく使われます。
2.点検項目
(1)日常点検項目
(2)定期点検項目
3.故障の発見
業務の中で、お客さまから、太陽光発電設備の不調について、ご依頼やご相談がある場合を想定し、よく発生しそうな事例を記載します。
一つ目は、太陽光パネルの直流回路、二つ目は直流の接地についてです。
(1)ストリング故障
まず、通常行われる点検と処理の流れを記載します。ここでは、分散型ではなく、分電箱・集合端子箱が設置されている大型パワコンを使用した事業用の太陽光発電設備をイメージしてお読み下さい。
(注)ストリングの故障では、故障の部分が分かりにくいので、必要により「ケーブル」「プラグ」「パネル」に分けて、故障点を探索することとします。
〇ストリング、アレイ
ストリングとは、一般的に太陽光パネルを直列でつないだ一連のブロックのことを指します。(1枚のパネルが35Vなら、2枚を直列につなぐと70Vになります。念のため) パネル1枚を構成する、内部の発電する板のことをセルといい、これが集まって、1枚の太陽光パネルを構成しています。
その太陽光パネルを直列でつないだブロックをストリングと呼び、ストリングを並列につないだ一つの大きなかたまりをアレイと呼んでいます。
1つのストリングを構成するパネルの枚数は、パワコンの入力電圧を踏まえて決まり、15枚の直列パネルで構成するストリングが、10回路並列につないであるアレイで構成されていれば、「15直列10並列」といい、1つの接続箱に連係されます。
ここでの故障個所の探索は、太陽光パネルストリングの、電圧・抵抗が測定できる専用の試験器(以下「専用試験器」という。)を使用したものとして記載します。
太陽光パネルの抵抗値は、通常のテスターでは正確に行えないため、こうした専用試験器を使用します。他の方法でも可能だと思いますが、調査が円滑に行えるというメリットがあります。
その他、ストリング断線調査の実務上便利なツールとして、調査用延長ケーブルとして、パネル配線の延長ケーブルを何本かつないで、パネル15枚程度まで十分届く長さにしたケーブルがあります。これが故障パネルの調査に力を発揮することがあります。
A)通常のストリング点検と処理の流れ
① 接続箱端子台で、各ストリング毎に、電圧・抵抗値を測定。
② 測定結果により、電圧がゼロなら、ストリング断線、抵抗値が異常又はOL(Out of Limit)ならパネルの異常と判断。
③ ケースごとの対応(1)
・電圧ゼロのストリング ⇒目視により断線箇所を探索
・抵抗値が異常のストリング ⇒目視で、パネルの表面・裏面を確認
・抵抗値がOLのストリング ⇒パネル配列に基づき専用試験器でパネル断線部分を探索
④ ケースごとの対応(2)
・故障パネルが特定できた ⇒パネル取替
・③ではパネル特定ができない⇒「切り分け調査」へ
B)故障箇所を見つける
(専用試験器を使用、テスター・電圧計でも電圧の測定は出来る。)
パネル・ストリングを点検するため、接続箱の端子台で、パネル側端子の「プラス」「マイナス」間で電圧を測定します。
「電圧がゼロ」・・・ストリングの断線 ⇒ ストリング断線へ
「抵抗値がOL」・・ ストリングの断線 ⇒ パネル断線へ
「抵抗値が高い」・・パネルの部分故障 ⇒ パネル断線へ
ここでは大型パワコン設置の設備で、機器の構成が、
「高圧キュービクル」⇒「パワコン」⇒「集合端子箱(終端箱)」⇒「接続箱」⇒「パネル」
となっている場合を想定しています。
通常は、ストリング点検は、接続箱内で行いますが、小型のパワコンで構成する場合は、
「高圧キュービクル」⇒「集合端子箱(終端箱)」⇒「小型パワコン」⇒「パネル」
の構成になっており、パワコン内部の端子台でストリング点検を行えるものもありますが、分散型のパワコンには扉開けないものもあり、その場合、必要があれば、パワコンでパネルからの入力ケーブル端子を外して測定します。
さらに細かく見ていくと、
「接続箱(プラス)」⇒(ケーブル)⇒(連結端子)⇒(パネル裏面ケーブル)「パネル1枚目」(パネル裏面ケーブル)⇒(連結端子)⇒(パネル裏面ケーブル)「パネル2枚目」(パネル裏面ケーブル)⇒(連結端子)
・・以下直列パネル最後まで同じことが続き、最後に・・・
⇒(パネル裏面ケーブル)「パネル最後」(パネル裏面ケーブル)⇒(連結端子)(ケーブル)⇒「接続箱(マイナス)」 となります。
図1のように、一枚のパネルはたくさんの電池が3組直列につながった状態で、図2のように、パネル裏面の端子からプラスとマイナス2本のケーブルから出てきて、図3のプラス端子、マイナス端子それぞれの端子で次のパネルにつながります。このどこかで故障があれば電気が流れなくなります。
ここで、細かく書いたのは、ストリング断線という時は、このどこかで回路が切れているということを言いたかったからです。前述の調査用延長ケーブルを接続して、電圧・抵抗、あるいは導通を調べる際には、自分がどこまでの範囲をどのようにして点検しているということを明確に理解して行う必要があります。
当然、いろいろな原因がある中、不明な状態での確認ですので、頭が混乱する場合もあるからです。補助者等と一緒に点検する場合、どこからどこの範囲で、どのように確認しているということの共通認識が必要です。単純作業の繰り返しでは、注意力が低下して勘違いが生ずる事があるからです。また、故障点(原因)は、複数あるかも知れません。
一つのストリングが何枚ものパネルで接続されますから、測定者と補助者の距離が離れることも多いので、意思疎通は非常に重要です。
(2)直流接地
A)直流短絡・直流地絡・直流接地
ここで扱う、直流接地も太陽光発電設備を管理する人にとっては面倒なものです。前述のストリング故障は、遠隔で発電量だけを見ていたのでは現場の天気が曇天なのか故障なのか分かりにくいのに比べ、直流接地は故障が表示されますので、速やかな対応が必要になります。
太陽光発電設備が現在のように広がる前は、電力設備で直流が出てくる場面はそう多くなく、非常用の蓄電池(バッテリー)回路ぐらいでした。一般の工場や店舗・学校でも直流回路は通信関係だけで”電力”を語る時に直流はほとんど関係ありませんでした。その頃、面倒な現象と言えば”漏電”で、これは一般家庭でも雨の多い季節や台風時期には、電力会社に一般のお客さまから「室内が停電した」と連絡が入る原因にもなっていました。この場合、元の大きなブレーカー(漏電ブレーカー)と個別の小さなブレーカーを全部切り、漏電ブレーカーを再度入れて、異常が無ければ順に小さなブレーカーを入れて行き、どれかで再度漏電ブレーカーが切れたらその個別のブレーカーのみ切りにして、他を戻すように電話でお伝えします。
太陽光発電設備での直流接地も、この漏電と似ていて、事象が続いていれば原因箇所が特定しやすく、その一般的な方法は、回路の切り分け調査です。
ちなみに直流回路の故障には、直流短絡、直流地絡もありますが、これは、前者は直流回路のプラスとマイナスが接触した場合、後者は直流回路が断線等によりアースに接触した場合で、いずれも明らかな事故・故障が継続しているイメージがあり、いずれも切り分け調査し場所を特定した上で修理をするという短期間の対応を考えます。
ところが、直流接地と言う場合は、直流回路に動物が接触した、あるいは回路の端子等にかなりの汚れがあり、湿気を持ったことで発生し、一度は故障として回路が遮断しますが、しばらくしてブレーカーを入れ直すと再発しないというようなイメージでこの言葉を使っています。
直流故障(直流接地)の発生原因
・大雨、高い湿度、小動物(イノシシ、狸、カエル、なめくじ等)
B)直流接地発生時の探査
切り分け調査では、一般にそのままもう一度ブレーカーを入れるということは行わず、集合端子箱や接続箱のブレーカーを切って、元のブレーカーを投入し、例えば集合端子箱のブレーカーを順次少しずつ時間をおいて入れていき、再発すれば、その回路のどこかに異常があると考えます。故障回路が発見できれば、集合端子箱内でその回路のブレーカーを再度切り、集合端子箱の残りのブレーカーをすべて入れて故障回路以外を復旧します。故障回路を特定できれば、後は修理となりますが、大幅な発電量の低下は避けられます。
C)発見までに時間がかかる面倒な例
接続箱内の主幹ブレーカーの裏側にナメクジがいて、それが直流故障を引き起こしていた事例があります。前述のように直流故障は発生し続けていないと発見が難しく、集合端子箱から接続箱に向けて何回線も出ているため、どの接続箱のルートなのかを発生したケーブルを切り分けて調査が必要になります。この場合も発生していないと調査が意味をなさなくなります。この事例では 直流故障が現地に担当者が出向く頃には復帰してしまい、切り分けしてメガー測定(絶縁抵抗測定)をしても絶縁抵抗に大きな差はなく具体的に見つけることはできませんでした。こうしたことが繰り返されたため、何度も大型のパワコンが停止し、切り分け調査、発見不可能、再度運転ということを行いました。
数週間に渡り、何度も発生・復旧を繰り返した後、ようやく一つの回路に特定でき、絶縁抵抗が他と比べると小さくこの回路に間違いはないという確信を持つことができました。
原因は、接続箱の主幹ブレーカーの裏面(ボルトで固定されケーブルもあるため簡単には確認できません)の端子部分にナメクジがいたことでした。発見時には、カラカラに干からびていましたが、このブレーカー裏面には這った痕跡が多数ありました。
(3)その他
ここからは、その他の事項について、簡潔に事例をご紹介したいと思います。
A)ノイズ発生(電波障害)
事業用太陽光発電施設(2MWの発電所が二つ隣接)で、竣工直後、近隣住民から電波障害があるとの苦情が寄せられ、パワコン出力側電力ケーブルに電波障害防止用のリングを設置しましたが、それでも収まらず、さらに、メーカー主導のもと特殊な装置を取付、ようやく地元からの理解を得られました。
B)産業用(大型)と分散型(小型)パワコンの違い
分散型(小型)パワコンのメリットは、作業者2名で運搬できる程度の重さであり、重機が必要でなく、斜面に太陽光発電施設を建設する場合にも適しており、価格も安いことや、事故時に、大きな被害が防げるという点があります。その一方で、安価な海外製品は、内部を開けられないあるいは、開けるとメーカー保証の対象から外れるなど、内部が確認できず、ブラックボックス的な要素があります。また台数が多いため、パワコンの故障も多くなります。
またこの分散型のパワコンでは、パワコンへの直流ケーブル、交流ケーブルの入力の施工に特殊な工具が必要であったり、接続の加工が難しかったりするものがあるようです。分散型ゆえ、複数の工事施工者が手分けして行うと、中には施工が不完全で故障が発生する例もあるようです。
パワコンで故障が生ずると、修理ではなく、箱ごと取替となるのが普通のようです。どちらの方が結局良かったのかの判断には、さらに年月が必要でしょう。
C)地盤沈下と架台の変形
地盤の沈下への対応は、自社で工事を発注する場合と、完成した太陽光発電所を購入する場合では大きく異なります。自社で発注する場合は、土地の状況や基礎をどうするのかということを、工事段階で検討することになりますが、完成した太陽光発電所を購入する場合は、地盤がどうなのか、工事がどのように行われたのかについては、当然情報が少なくなります。購入時に記載や説明があったとしても現実的には、購入して年月が経過してみないと、本当にどのような地盤で、どのような工事が行われているのかは定かではありません。
地盤沈下は、均一に沈下するとは考えにくく、どうしても架台にゆがみが生じ、それがパネルの割れなどにつながってきます。次に記載する積雪による被害と同じような状況が生じ、発電に支障が生じ、復旧には時間や費用がかかってしまいます。
D)積雪によるパネル落下、破損、断線
著者は瀬戸内地方に住んでおり、事例を知ることができる太陽光施設もこの地域の物が多いため、雪深い地域での太陽光発電設備に関する知識や実体験は多くはありません。関わった事例では、パネルの角度が20度という積雪地域では緩やかな設備で、パネル上の雪が少し溶けて落下せず氷の塊になり非常に重くなり、それが長時間止まり、さらに積雪が増えることでパネルの最下段部に負荷がかかり架台のねじれを引き起こしました。
アルミ架台は特にねじれが生じやすいようです。また架台の構造が雪の重みを考慮して上部から下部へ通しの部材でパネルを止めているのなら良いのですが、通しの部材が横方向であったため、大きなねじれを生じました。その結果としてパネルが多く落下しパネル裏面の断線あるいは端子の外れとなり売電に支障が生じていましたが、担当者は遠隔監視による故障の発生と復旧をきちんと把握していなかったため、雪が止んでいるにも関わらず売電量が少ない状態が継続していることの認識が不足していました。
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