![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/166948017/rectangle_large_type_2_2f5d9b34bf824bb5f38dc165ffc558c6.jpeg?width=1200)
山田方谷の改革を企業経営として見る(その6)
6.金(きん)を集めたかった
ニュースで報道されるように、現在も、他の国の行動意図を推測することは難しいものです。いやそれどころか、知人や家族の行動ですら、その本当の意図を理解することは、なかなか困難です。また、専門家と称される人たちの間でも、社会の事象についての解釈はさまざまです。このことを再認識した上で、山田方谷の取り組みについて考えてみます。
山田方谷の改革では、山田方谷はを集めようとしたのではないかということです。では、なぜ金なのでしょうか。
江戸中期に鋳造されはじめた計量銀貨は、その名目よりも実質的な銀の価値は低いものでしたから、銀の価値そのもので流通していた従来の丁銀はしだいに姿を消し、計量貨幣としての銀貨が勢力を伸ばしていました。まさしく、トーマス・グレシャムの「悪貨は良貨を駆逐する。」という法則に従った状況が生じたのです。
計量銀貨の5番目として鋳造された天保一分銀(1837年)は、金貨の一分判に通用する銀貨という意味で一分銀と名付けられていますから、これは銀貨というよりも、銀貨が金貨体系に名実ともに吸収されたことを示しています。
当時の金と銀の比較を見ると、わが国での交換比率は異様に高いことがわかります。金対銀の交換比率は、海外諸国が1対10の時代に、わが国では1対5でしたが、すでに銀の価格は下落しつつありました。徳川幕府の滅亡をいち早く感じていた方谷ですから、やがて海外からの圧力が強まるとすれば、この交換比率は、外国諸国並みになるに違いなく、銀を持っていてもその価値は低下し続けることになります。そうであるなら、金を中心に考えていたほうがよい。そう考えていたのではないでしょうか。
明らかだと言えるのは、山田方谷は、金貨、銀貨、銅銭、藩札などが流通する時代に、現代で言えば為替相場にあたる、交換比率を意識した上で藩政改革を行っていたということです。
現代なら、為替相場によって、輸出が有利なのか、不利なのかが話題になり、生産拠点を海外に移すというニュースも多く流れています。
しかし、全国の多くの諸藩では、財政が苦しくなると農民への課税を重くすることだけをやっていたような時代に、新田開墾の場合は税を課さず、後には、農民への課税を軽減するなどをした山田方谷の取り組みは、結果として大きな税収を生み出しています。
企業経営者の中には、経営が苦しくなると社員の給与を減らし、手当てをカットしたりすることしか経費削減への道はないと考えている人もいますが、同じ仕事で収入が下がれば不満がでることは当然で、これは、農民への課税を重くし続けた、幕末の各藩の対応と似ています。
さらに、現代では、人員整理と称して、まずパート社員から契約を切っていきますが、これを、山田方谷の取り組みに当てはめると、彼は、節約を命じましたが、すでにぎりぎりで生活している農民や下級武士には影響がほとんど及ばないようにして、比較的余裕のあった階級に負担を求めています。
現代の企業経営者も、安易にパート社員を削減すべきではなく、方谷が自らの俸給を削減し、さらにそれをディスクローズ(情報公開)した姿勢こそ、見習うべきでしょう。
■プチ用語集(追記)
行動意図(こうどういと)
人が行動するときに持っている目的や考え。
専門家(せんもんか)
特定の分野について詳しい知識や経験を持っている人。
社会の事象(しゃかいのじしょう)
社会で起きる出来事や現象。
山田方谷(やまだほうこく)
江戸時代の終わりに備中松山藩で改革を行った人物。
江戸中期(えどちゅうき)
日本の江戸時代の中ごろの時期。
鋳造(ちゅうぞう)
金属を溶かして型に流し込み、冷やして固める方法。
計量銀貨(けいりょうぎんか)
銀の価値を計って作られた貨幣。
丁銀(ちょうぎん)
江戸時代に使われた銀貨の一種。
トーマス・グレシャム
16世紀のイギリスの経済学者で、「悪貨は良貨を駆逐する」という法則を唱えた人物。
天保一分銀(てんぽういちぶぎん)
1837年に鋳造された銀貨の一種。
交換比率(こうかんひりつ)
異なる通貨や資産の価値を交換するときの比率。
徳川幕府(とくがわばくふ)
江戸時代に日本を統治していた政府。
金貨(きんか)
金で作られた貨幣。
銅銭(どうせん)
銅で作られた貨幣。
藩札(はんさつ)
藩が発行した紙幣。
為替相場(かわせそうば)
異なる通貨の交換レート。
輸出(ゆしゅつ)
国内で生産された商品やサービスを外国に売ること。
新田開墾(しんでんかいこん)
新しい農地を開発すること。
税収(ぜいしゅう)
政府が税金として集めたお金。
俸給(ほうきゅう)
政府や組織から支給される給与。
ディスクローズ(情報公開)
企業や組織が情報を公開すること。
-----------------------------------------------------------------
この記事は、「知的資産経営の実践」大学教育出版 2014年初版から抜粋・加筆して記載しています。データ等は当時のものです。