現場力って何
先輩の話、武勇伝や失敗談、自分や同僚の体験談。情報化社会、少子高齢化の中で、こうした過去の体験談は生きているのでしょうか、役に立つのでしょうか。
古い時代の設備の話、コンピュータも、電子センサーも、管理カメラも無い時代の話も含まれます。
若い人は、おそらく、年寄の自慢話、説教、武勇伝は聞きたくもないでしょう。それは、現代の若い人だけではありません。
30年前、40年前の若い人も、同じでした。先輩や周囲に気を使いながらも、無駄にダラダラと、どうでもいい話を聞かされるのは苦痛でした。
その一方で、この人は、と思う人の話は、特に注意して聞き、メモを取らなくても記憶に残ります。
そうした話は、まだコンピュータが一般的では無かった時代に、カード式の自己流データベースを作成しながら、自分なりに先輩の知恵として集めていました。
こうした先輩の話が聞きにくくなった現代、ちまたで生じるトラブルには、知恵や経験の継承が行われていれば、防ぐことが出来たのではないかと感じるニュースを目にすることがあります。
こうした現場で培われる知識・知恵はとても貴重なものです。こうした現場の知識・叡智は必ずしも電力技術者だけの話ではありません。事務系の方でも、お客様の対応や取引先との折衝などで、対物・対人両面での現場対応力が必要となる機会は少なくないでしょう。
例えば、単に社内のルールを押し付けるようなお客様対応は、ずいぶん冷たい感じがします。その決まりに、お客さまは必ずしも従う必要はありません。社内で決めたルールが実は法律に則していなかったというケースもあります。
こんな事を思っていたころ、ある銀行の支店長から、「近頃の若手銀行マンは現場力が無いのが問題だ」と聞いたときは驚きました。
なぜなら各電力会社の現状を多く知る、電力系のメディアの方が私に語った『現場力』という言葉を使われたからです。
人員が削減されたことから、若手銀行員が先輩と同行することが少なくなった。そのためお客さま対応を学ぶ機会が少ない。優秀な若手でも、研修だけでなく、現場での一つ一つが力になるが、その機会が少ないというお話でした。こうした現場での実務を通じて培われる力を「現場力」といい、業種の異なる企業でも、同様な課題が発生しているようです。
上記の電力系のメディアの方のお話では、『現在の電力会社の現場では、業務の多くでコンピューターを用いて電力機器を制御するが、操作する若手の社員が現地でどんなことが生じているのかイメージできていない。そして、その部署の上司というのも、やはり現場を知らないから教えられない。ということが、大手電力会社の経営層で問題と捉えられている。』というお話でした。
そしてそこでは共通の概念として『現場力』という言葉を使っていたのです。
このnote記事では、わたくし自身の直接的な経験や、先輩から教わったことなどを時々お伝えしていくこととし、それが、例えば事故防止や、お客様対応など何かの役に立つことがあればうれしく思います。役に立たない自慢話にならないように、気を付けたいと思います。
感電死
最初の話は、明るいもの、軽いもの、短いものにすべきとは思いますが、電気の仕事をする人にとって非常に重要ですので、若い社員の感電死について記載します。
サーモラベルは、電力関係者でなくても知っている人も多いでしょう。一定の温度になると、色が変わる小さなシールです。機器の接続部などに使用され、過熱状態を一目で分かるようにしたものです。同じようにシール状の体温計もあります。
そのシールが(シールがというとメーカーに申し訳ありません、シールには全く責任はないのです。)若い技術者の命を奪いました。
変電所では、全部を停電することは、よほど小さな変電所以外ではなく、一定の範囲を停電して、他の部分は通常運転しながら電気を送ります。電気保安点検の本には、「復電」という言葉が使われていますが、私が電力会社にいたころ使われていたのは「復旧」です。
作業が終わり、復旧操作が行われている途中に、若い技術者は、サーモラベルがはがれそうになっているのを見つけました。そして、つい手で直そうとしました。その一瞬で、彼の人生は変わりました。
感電して、緊急入院、そして亡くなりました。指先から入った電気は、体内を通じて足の方向に流れたようです。電気が流れたところから、細胞が死んでいきます。ご両親が病院に駆けつけられましたが、苦しんでいく姿を見ても何もしてあげられません。見ていられない状況だったといいます。
私が入社する少し前の出来事ですので、直接その方を知りませんが、当時の同僚で病院にも見舞いに出かけたという先輩から話を聞きました。こうして機会があれば紹介し、自分でも再認識し、感電事故防止に努めることが、せめてもの償いではないかと感じています。
これは高圧回路の話ですが、実は感電死は、100V、200Vの低圧回路でも発生し、家庭でも発生します。
年間の感電死のほとんどは、低圧の電気により発生しています。従って、感電というのは、技術者でなくても、電気のそばで暮らす私たちは、子供(乳幼児)から高齢者まで、みんなに関係することなのです。