220917

前田です
記憶が妄想に変わる
あの日、あの時、の、こと
私だけが覚えている

最近 そんな気がしてならないわ
放課後 電気もつけない
人ひとりいない筈の南校舎四階
廊下の突き当たりで何故
わたしたち何故か当たり前のように
近くにいたのにね
冬のつんざく寒さを あなたとの瞬きで凌いだ
スマートフォンの画面がひとつ
ぽかんと浮かぶ
ふたりいるのにひかるのはひとつ
ふたりいるのにひかるのはひとつ
肩が触れても、髪が触れても
ねえ、指が触れても 息が触れても
唇には触れない
暗黙の了解のように、触れない
昇降口へ戻るまでの道のりで徐々に
肩も、髪も 指も 息も
シルエットを取り戻す
ただ、あの時触れなかった唇は
そのマスクの下でどんなかたち?
外は雪が降っていて、もう暗いのに
あなたは部活に行くらしい
歩く道に足跡が残る
北校舎一階 課外授業を受ける同級生の頭が
明るい窓からぞろりと見えて
慌てて傘で頭を隠した 冬でもひとつ花が咲いた
竹刀の音が響くその剣道場が見えた時
ばいばいじゃなくて “またね”、
そう言った彼の唇は
そのマスクの下でどんなかたち


あのときあなた、どう思っていたのかな
並んで座ったあの廊下を通るたびに思い出す
一緒に歩いたあの校庭を通るたびに思い出す
今だって ひょいと手繰り寄せて
すぐ届く場所に置いてある
恋心のような なにかを

前田

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