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地球の変化を観測できる衛星データに惹かれた。宇宙ビジネスに飛び込んだエンジニアの転職ストーリー

ここ数年、宇宙ビジネスに関する話題を目にする機会が増えています。しかし宇宙とは無縁な分野で働く人たちにとって、宇宙ビジネスは遠い存在と思われることが多いです。しかし実際には一般企業で働いた経験を持つ方々が大勢活躍しています。このコーナーでは、他業界から宇宙ビジネスに転身した経験を持つ方々へのインタビューを通じ、転職への不安や働き出してはじめてわかった仕事の魅力などを赤裸々にお伝えします。今回紹介するのは、ITコンサルティングファームのビジネスコンサルタントを経て、衛星データの活用を行っている「スペースシフト」のセールスエンジニアとして働く永作俊のストーリーです。


プロフィール

株式会社スペースシフト
永作俊
大学院を卒業後、外資系のITコンサルティングファームでビジネスコンサルタントとして働く。2023年6月に株式会社スペースシフトに入社。宇宙に関わるマンガで必読書なのはファンの多い『宇宙兄弟』。何を成し遂げるにも人同士の関係性が重要だと表現されていると感じました。

上空からマクロな視点で地球上の変化を見られることに魅力を感じた

——前職はどんなお仕事をされていましたか?

大学院を卒業後、外資系のITコンサルティングファームでビジネスコンサルタントの仕事をしていました。製造業向けのソリューションを提供していて、システムを導入する前の要件定義などを担当していました。

——スペースシフトに転職した経緯を教えてください。

二つ理由があります。一つは、土木・防災業界を中からではなく外側から支えられないかとずっと考えていて、そこで衛星データを活用できるのではないかと思ったからです。学生時代に土木工学を専攻し、研究室では防災の研究室に所属しGIS(地理空間情報)を活用した研究をしており、衛星データが大いに役立つのではないかと考えておりました。
もう一つは、成長することに喜びを感じるタイプなので、今後成長するであろう宇宙業界やベンチャー企業に自分の身を置きたいと思ったからです。

——衛星データを土木・防災業界にどう生かせると考えていましたか?

災害対応に活用できるのではないかと考えました。衛星データは地上からではなく上空から俯瞰して見た情報であり、かなり広い範囲を見ることができます。そのため、どの地域で災害が起きそうか予測するときや、災害が起きたあとの復旧・復興の優先順位を考えるときにも役立つと考えています。

——なぜ、土木を専攻されていたのでしょうか。

祖父が自営業で土木業をしていて、その手伝いをしていたことから社会基盤を支える産業として興味をもちました。

——最終的に、スペースシフトを選んだ決め手を教えてください。

衛星データを活用する数社を受けて、スペースシフトに決めました。その理由は、衛星自体を所有していないため、「この衛星のデータを使わないといけない」という縛りがなく、お客さまのニーズに対して柔軟に複数の衛星データを組み合わせた解析・提案ができる点に興味をもったからです。

——転職する時に迷いを感じたことはありましたか?

実は、かなり迷いました。新卒で入社して2年目の終わり頃から就職活動を始めたのですが、若手のうちにベンチャーに転職すると、キャリアとして大手に戻りにくくなるのではないかという不安がありました。そして、衛星データを活用することに興味はあったものの、衛星データを使った解析を経験したことがなく自分が力を発揮できるのかわからないという漠然とした不安はありました。

——不安もあった中で、最終的に転職に踏み切れたのはなぜですか?

友人が衛星データを活用する会社にいて、詳しい話を聞くことができました。上空からマクロな視点で地球上のあらゆる変化を見られることに改めて魅力を感じ、背中を押してもらいました。漠然とした不安や迷いはありながらも、最終的には「自分が身を置きたいのは衛星データに関わる仕事だ」という強い思いがあったので転職を決意しました。

未知の衛星データを活用する瞬間に立ち会えることがやりがい

——現在の仕事内容について教えてください。

セールスエンジニアをしていて、業務内容は大きく二つあります。
一つは、森林・林業分野での衛星データの活用に関する業務です。行政や自治体、森林組合からの衛星データ活用に関する相談に対して、調査や提案を行っています。もう一つは、一つ目と被る部分もありますが、衛星データを利活用したいという企業様への検討支援を行っています。業務への活用に向けた打合せをしたり、衛星データを専門ソフトウェアに表示して議論したりしています。

——常時どのくらいの企業や団体とやり取りしていますか?

5~10社ほどです。

——どのような要望や相談が多いですか?

「衛星データを活用していまの業務を効率化したい」というご要望が多いです。一方で、「衛星データのことをよく知らないけれども、どんな活用ができるのか」という抽象的なご相談もあります。

——1日の働き方について教えてください。

平均すると、1日に3社くらいのお客様と打ち合わせをしています。他の時間はエンジニアと相談したり、自分で衛星データを確認したりしながら、打ち合わせ時の資料作成をしています。週2日は出勤、他の日はリモートワークというワークスタイルです。

——これまでのお仕事の経験は、今の仕事に活きていると感じますか?

前職で電力会社のお客様のDXを推進してきました。そのときにビジネスコンサルタントとして、お客様の課題を理解した上でどういうアプローチができるかを考えてきたことが知見になっていると感じています。対応しているお客様の業界は違いますが、こういった知見が各々の課題を理解し、衛星データをどのように活用できるだろうかと考えるときに活きていると感じております。

——転職後に不安に感じたことはありましたか?

業務を行う上で前提となる衛星データやAIに関する知識がまったくないことが不安でした。当社ではAIも活用するのですが、実務でどう生かすのかという勘所もありませんでした。
入社後に自分で調べられることは調べ、先輩方に質問しながら少しずつ知識を深めていきました。その後はお客様と日々やり取りをする中で、どういった情報が必要になるかをキャッチアップして学んでいきました。

——宇宙や衛星に関することは専門的な内容だと思うのですが、調べられるものですか?

当社はリモートセンシングという括りの業界で、実は技術自体は古くからあるので知見が溜まっています。一方で専門用語が多いので、検索ワードを設定するのが難しいのですが、そこは先輩社員に質問しながら進めていきました。

——宇宙業界で仕事をしてみて、入る前のイメージと違っていたことはありますか?

宇宙飛行士に代表されるように、宇宙業界や衛星データの活用はかっこいいものだというイメージをもっていました。実際に携わってみると、衛星データを解析した結果がバンとすぐに出てくるわけではなく、お客様が活用できる解析結果を提供するために、活用方法の検討や技術的な改善を繰り返していくという地道な仕事だとわかりました。

——衛星がもつ多くのデータから、お客様の見たい状態に抽出していくのでしょうか?

そうですね。衛星データは解析しただけですぐに使えるものではないので、どんな見せ方ができればお客様の業務に役立つか、喜んでもらえるのかをしっかりとヒアリングして、ニーズを掴んだ上で進めていくことが大切です。

——どんなところにやりがいを感じていますか?

未知の衛星データをお客様が活用する瞬間に立ち会えていることに、とてもやりがいを感じています。
例えば、森林に携わっている方々はふだん地上から森林を見ているので、俯瞰して森林を見たことがなく、衛星データをどう活用していいかわかりません。「伐採が起きた場所を知りたい」という要望があったとしたら、衛星から撮影したカラー写真をお見せして、衛星データを解析すればわかることを専門のソフトウェアでお見せします。
すると、「こんな使い方ができるんですね。」と反応をいただくとともに、「例えばCO2の吸収量に変換できたりしますか?」という議論に発展していくことが多いです。こんな風に、提案をしたことによってお客様が他の活用法を発想したり、期待値が高まったりする様子を目の当たりにするとうれしいですね。

宇宙から俯瞰した地球を、データではなく肉眼で見てみたい

——宇宙ビジネスに関わるようになって、何か変化はありますか?

衛星地図を見るスピードがとても早くなりました。GoogleMAPを使用するときにシンプルな地図を見る人が多いと思うのですが、私は衛星画像の地図をよく見ています。
衛星地図は地上から見るのとは違う視点なので、建物の屋上が見えたりするし、行ったことのない公園にどのくらい緑があるのかもわかります。日常的に、上空から地球を見るという視点をもつようになりました。

——宇宙ビジネスに携わるようになって、面白いと感じたり、興味をもっていることはありますか?

宇宙に関わるニュースがあったとき、それが当社や業界にどんな影響があるかと考えたりすることが面白いです。
私は環境や森林に関わるお客様を担当しているので、CO2の濃度やメタンの濃度、地表面の温度など環境条件を観測する衛星に興味があります。今後、空間分解能や時間分解能がより精度高く観測できるような技術的なブレイクスルーがあると思うので注目していきたいです。

——宇宙に行ってほしい有名人はいますか?

学生時代はずっと野球をやっていたので、話題の大谷選手と言いたいところですが、野球選手に限らずスポーツ選手に宇宙に行っていただいて、宇宙の新たなエンタメとして、宇宙をフィールドとしたスポーツを生み出してほしいです。

——宇宙に行けるとしたら、どこに行きたいですか?

宇宙のどこかに行きたいというよりは、肉眼で地球を見たいという想いが強いです。ふだん衛星から得た地球の情報を見ていますが、実際にこの目で見られたらいいですよね。

宇宙以外の業界での知見が、宇宙ビジネスの成長の鍵になる

——今後の目標やビジョンについて教えてください。

お客様と話していると衛星データの活用方法がまだまだ見えてこないという方がが多くいる印象です。そういった方々に衛星データにはどのような種類があり、どんな活用方法があるのかを伝えて、一緒に業務の変革や効率化に繋げていきたいです。個人的には、衛星データを活用することで、社会基盤を支えるような道路やトンネル、ビル、橋など土木業界に貢献していきたいと思っています。

——土木業界で、衛星データはどのように活用できそうですか?

衛星は地球を上空から見ることができるので、データを活用すると地表面の高さの変動を計測できます。例えば、地下鉄工事ではピアノ線を張って地表面の変動がないかモニタリングをしています。そういった業務に間接的に衛星データを活用できれば、業務の効率化ができるのではないかと考えています。

——衛星の数がさらに増えるとできることが広がっていくと思います。解決したい課題はありますか?

土木・災害対応の分野ではすでに活用がなされていますが、まだまだ衛星データの活用できる部分があるのではないかと思っています。さらに高い空間分解能の衛星で高頻度にデータを取得できるようになったら、土木・災害対応に関わるソリューションを提供していきたいです。
衛星がたくさん打ちあがっても、衛星データが効果的に活用されなくては意味がありません。どのようにお客様の業務・サービスに合う形で実装するかがボトルネックになると思うので、その解決に力を注ぎたいです。

——どんな人が宇宙ビジネスに向いていると思いますか?

宇宙に精通した人はもちろん歓迎ですが、私の経験を踏まえてお話しすると、宇宙以外のことをよく知っている人も貴重な存在です。例えば、土木業界や電力業界など他業界の課題をしっかりと把握していると、どのように衛星データを活用すればいいかという発想ができます。そういった方に来ていただけるととても心強いです。


<取材を終えて>

今回はITコンサルティングファームのコンサルタントから、異業界である宇宙業界に転職した永作さんの取材でした。日々、さまざまな業界の企業や団体の課題を考え、衛星データの活用を考えていることが伝わってきました。「宇宙業界とは違う業界の知見がとても役に立つ」というお話も印象的でした。

・今回取材をした永作さんが所属している株式会社スペースシフトのホームページはこちらです。

・株式会社スペースシフトでは、2024年5月からSateLab(サテラボ)をスタートしました。宇宙(衛星データ)と地上(企業様が所有するデータ等)を活用した事業共創を行うプログラムです。

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