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未知の領域に挑戦! 大手自動車メーカーからロケット開発の世界に飛び込んだ技術者の転職ストーリー

ここ数年、宇宙ビジネスに関する話題を目にする機会が増えています。しかし宇宙とは無縁な分野で働く人たちにとって、宇宙ビジネスは遠い存在と思われることが多いです。しかし実際には一般企業で働いた経験を持つ方々が大勢活躍している世界なのです。このコーナーでは、他業界から宇宙ビジネスに転身した経験を持つ方々へのインタビューを通じ、転職への不安や働き出してはじめてわかった仕事の魅力などを赤裸々にお伝えします。
今回紹介するのは、大手自動車メーカーの設計担当から転職し、ロケット開発で宇宙輸送・大陸間輸送の提供を目指す「将来宇宙輸送システム株式会社」にて設計基盤の開発に携わっている長谷川祐輝のストーリーです。


プロフィール

将来宇宙輸送システム株式会社
基盤部 設計基盤グループ
長谷川 祐輝
大学院にて航空宇宙工学を専攻し、修了後、大手自動車メーカーに入社。中型セダンおよびコンパクトカーのアンダーボディ設計(板金・艤装部品)に3年間従事した後、2024年4月、将来宇宙輸送システム株式会社に転職。現在、宇宙輸送機(ロケット)の開発プロジェクトに携わり、飛行解析・飛行安全解析サービスの運用・開発に従事している。技術者として宇宙ビジネスへの転職を目指す人におすすめしたい映画は、アポロ13号爆発事故の実話に基づくノンフィクション作品を原作とする『アポロ13』。また、宇宙工学や相対性理論なども登場する『インターステラー』は、宇宙に興味がある人の入り口としておすすめだそう。

未知の領域にチャレンジし、想像もできない世界の実現に向かうワクワク感

——前職はどんなお仕事をされていましたか?

新卒で大手自動車メーカーに入社し、以来、3年間、車体のボディ設計に携わり、主にアンダーボディや関連する各種部品などの設計を担当していました。

——大学院では航空宇宙工学専攻を専攻されていたそうですが、当時から宇宙にかかわる仕事に興味はおありだったんでしょうか?

大学でロケットの基礎的な理論やエンジンの概論などを学んだ後、大学院では次世代航空機の設計の研究に従事し、勉強・研究をする中で航空宇宙関連の仕事に興味を持つようになりました。就職活動のとき、「宇宙にかかわるモノづくりがしたい」という思いはあったものの、日本の産業においてプレゼンスが高い自動車業界にも魅力を感じました。最終的には、開発スピードの速さに惹かれ、早期からさまざまな経験を積めそうな自動車メーカーを選択しました。

——転職を決意されたきっかけは何だったのでしょう?

大企業に特有の調整や報告の多い仕事の進め方が合わず、心身ともに疲弊していました。仕事そのものも、学生時代に学んだ知識や自分の強みを活かせないと感じたので、「それなら、全く違う環境のスタートアップに転職しよう」と決意しました。
そこからどの業界にしようか考えた結果、やっぱり自分がトップレベルに興味があるのは宇宙関連の業界だと思ったのです。新卒の頃にはまだ宇宙ビジネスを手がけるスタートアップは少なかったけれど、宇宙業界が盛り上がっているというニュースを目にすることが増えてきたので、「転職先としての選択肢も広がっている。チャンスがあるなら挑戦したい」と思いました。

——大手自動車メーカーから、未知数である宇宙ビジネスのスタートアップに転職することに不安はなかったのでしょうか?

自分にとっては、今すでにある業界のプレゼンスにこだわるより、未知数の業界で、「これから自分たちが頑張ることでどう世界を変えていけるのか」にチャレンジするほうがやりがいは大きく、ワクワクすると思いました。子どもの頃から未知の領域に対する憧れがあり、遠い宇宙にロマンを感じていましたから、それを仕事にできたらきっと生活も充実するだろう、と。
もちろん、大手からスタートアップに転職することには不安もありましたよ。でも、どんな企業もずっと存続するかどうかはわからないもの。転職して自分に必要なスキルセットを身に付け、実績を積んでいくことで払拭できると考えました。

——転職活動では、どのようなステップを踏まれたのでしょうか?

ロケットや衛星などのモノ作りに携われるスタートアップを探し、宇宙ビジネスの全体像を学べる本なども読んでいきました。特に『宇宙ベンチャーの時代~経営の視点で読む宇宙開発』(光文社刊)という本は、経営の視点で見た宇宙ビジネスの展望を理解でき、とても参考になりましたね。
とはいえ、設計の実務経験そのものが短いので、「即戦力として採用してもらえるだろうか」という不安はあり、実際、数社の選考には落ちてしまった。それでも、自分のポテンシャル的な側面を考えた結果、「可能性はある」と思い、とにかく行動していくうちに2社から内定を得ることができたんです。

——将来宇宙輸送システム株式会社に入社することを決めた理由は?

「宇宙旅行や大陸間を1時間で結ぶ輸送を実現する」という、壮大なビジョンに心動かされました。今はまだ当たり前ではない“未知の輸送機”の開発に取り組み、想像もできない世界を当たり前のものにしていく。人類をまた1歩前進させていく未来に、自分も携わることができる。そんなワクワク感から、迷わず入社を決意しました。

宇宙輸送システム株式会社 「宇宙旅行先行予約」のリーフレットと会社案内

ロケットの飛行解析で仕事の面白さを実感。働きやすい環境にも驚いた

——入社後は、どのようなお仕事を担当されていますか?

設計基盤を手掛けるグループに所属し、飛行解析・飛行安全解析サービスの運用・開発に従事しています。宇宙輸送機、つまりロケットの開発・設計をしていく中では、さまざまな側面からシミュレーションを行うことが必要です。私は、飛行経路を解析するシミュレーションを担当し、シミュレーション・ツールそのものの開発も行なっています。地球の周回軌道に対し、どのような飛行経路で投入するのか、そこで熱や空気抵抗がどれくらい生じるのかなどを解析し、設計部門にフィードバックしています。

——お仕事の面白さ、やりがいについて教えてください。

解析シミュレーションでいろんなことを試せることがとても面白いですね。ツール上では、表示などもビジュアライゼーションで可視化しているので、実際に画面上でロケットが飛んでいく姿を見ることができます。さまざまな条件でロケットを飛ばす楽しさがありますし、そこで解析したことが最終的なロケットの設計に生かされるわけです。実機へと組み上がっていく未来を想像しながら、自分の考えを試していけることは、非常に大きなやりがいになっています。

——前職での経験やご自分の強みを生かすことはできていますか?

前職はハードウェア設計を担当し、さまざまな部門の人々とやりとりをしてきましたが、現在の仕事でもシステム設計や構造設計、推進系の設計チームなどとのやりとりが日々発生しています。職種や領域が違っても、技術者として関係各所と情報交換しながらスムーズに仕事を進めていくスキルは役立っています。
また、今の仕事では自分自身の強みも生かせています。課されたタスクに対し、繰り返し解析や検討を行い、個人としての結論までしっかりと出せるところが自分の強みなので、地道にシミュレーションと解析を重ね、その結論を設計にフィードバックしていくこの仕事はとても向いていると感じますね。それに、ロケットの機体の運動について想像することは、私にとって非常に楽しく、得意なことでもあるので、そうした面でも自分の強みを生かすことができています。

——例えば、どういうときに想像力を生かせるのでしょうか?

あくまで一例ですが、ツール上ではロケットの飛行姿勢なども可視化されるので、想定外の姿勢になったときには「ツール上の計算式の問題なのか」「姿勢制御ができない要因があるのか」など、いろんな可能性考えて原因究明をしていきます。さまざまなことに着目し、自分の想像力を発揮しながら問題点や改善点を発見することが面白いですね。そこからまた、解析ツールに追加すべき新しい機能なども考え、自ら要件定義して実装することもしています。

——大手企業からスタートアップに転職したことで、ギャップを感じたことはありましたか?

入社前、「スタートアップの働き方は、大手よりもハードワークなのでは?」という懸念もありました。しかし、実際にはワーク・ライフ・バランスがとても良いですね。私の所属チームでは各者のタスクに要する工数や時間を見積もった上で、プロジェクトの進行管理をしているため、19時には業務を終了できています。
出社するか在宅で働くかも自由に選択できますし、チームのミーティングや他部署との打ち合わせなどの時間以外は、各自のタスクに取り組むスタイルです。自分の裁量で解析やツール開発を進めることができますし、昼食休憩なども自由に取っていますね。

——現在、転職されてから約8カ月が経ちますが、全く新しい領域の仕事を習得すること自体も大変だったのでは?

入社後、あらためて学ぶべきことも多くありましたが、チームのサポートが充実しているので特に支障は感じなかったです。わからないことがあれば積極的に質問していますし、Slack上でも気軽にやりとりできる環境なので、疑問点も迅速に解消することができています。
また、検討の経緯や成果物などをドキュメントでオンライン上に残し、情報共有していく文化が強いことにも驚きました。前職では各自がローカルのPCに情報を置いていた上、打ち合わせの議事録なども作成せず、個々がメモを取るのみでしたから、全体の状況把握や認識のすり合わせがしにくかった。一方、今の会社では、Notionというツールでドキュメントやタスクを管理し、打ち合わせなども録画して共有しているため、いつでも必要な情報を把握・確認できます。非常にやりやすい開発環境がありますね。

——入社からこれまでの間に、印象に残っている出来事はありますか?

うちの会社は、文部科学省の中小企業イノベーション創出推進事業(SBIRフェーズ3)を通じて、第1フェーズの補助金として20億円を受けています。スタートアップによる革新的な研究開発を補助することを目的とし、宇宙輸送ビジネスの領域ではわずか4社だけが採択されました。次の第2フェーズでは、3社に絞って50億円を補助する仕組みで、私はまさにその審査に向けた検討を進めている時期に入社したのです。
そしてこの秋に行われた第2フェーズの審査では、私が手掛けた飛行解析の結果をまとめたものも資料の一つとして提出されました。「採択される3社に残った」と聞いた瞬間、自分の仕事の成果物が認められたような気持ちになり、すごく嬉しかったですね! 開発過程に立ち会い、実用化に向けて一歩前進する手応えを味わえるのも、この仕事の醍醐味だと思います。

当たり前にロケットを飛ばす未来へ。新しい世界を実現していく

——宇宙ビジネスに携わるようになって、ご自身にどんな変化がありましたか?

やりたい仕事ができていることで、生活も充実できていると感じます。また、宇宙関係のニュースに触れる機会も多くなったことで、宇宙に対する学びも個人的な興味もますます深まっていますね。例えば、スターシップという大型宇宙船を開発しているスペースX社では、試験飛行やさまざまな実験に取り組んでいますが、自分の仕事に活かせないか考えて飛行試験データの高度や速度の履歴を読み解き、ベンチマークしています。

——将来のビジョンや目標について教えてください。

会社として「宇宙旅行や高速輸送に使える機体の実用化」を目指しているので、所属している設計基盤グループの一員として、効率的に設計を進められるプラットフォーム作りが重要だと考えています。個人的には、宇宙産業の黎明期からロケットが飛ぶ物理的な原理やロケットの構造などに飛躍的な変化は無いですが、唯一、計算機の能力だけは桁違いに変わったと思っています。ですから、そこを最大限に活かしてシミュレーションを回し、効率的に最適化された設計開発に貢献していきたいですね。
少しでも早く、「当たり前にロケットを飛ばす未来」を実現できればと思っていますし、もしも高速輸送ができるようになったら、各国のトップが集まる首脳会談なども1時間で行って戻ることができるようになります。そうしたら、世界はきっと変わるはず。開発の側面から、新しい世界を実現していけたらと思います。

——宇宙ビジネス全体の面白さはどんなところに感じていますか?

民間の企業で宇宙ビジネスを手掛ける企業がたくさん出てきていて、新しいビジネスモデルに「そういう視点もあるのか」と気付かされます。月面のデータを集めて販売する事業や、スペースデブリ(宇宙ゴミ)を回収する事業などもあり、ほかの業界にはない新しい可能性を感じますね。また、技術者としては、「宇宙という極限環境に耐えられる機械を、ギリギリの安全マージンを保ちながら開発する」という難問に挑戦していく面白さを感じています。

——ご自身が宇宙旅行をするなら、どこに行ってみたいですか?

火星ですね。自分が生きているうちに、人類の誰かには火星に行ってみてほしいと思っています。すでに50年以上も前に月に降り立った人がいますが、その次に到達できる可能性があるのは火星だと思っています。人類にとってのフロンティアを広げていくことにはきっと意味があるはずですし、火星に行くことができれば宇宙業界もさらに前進していくはずですから。

——ありがとうございます。最後に宇宙ビジネスに興味を持つみなさんにメッセージをお願いします。

かつて、宇宙関連の事業は「宇宙に行くこと」自体を目的としていましたが、今は「宇宙で何ができるのか、何がしたいのか」という時代になりました。ですから、皆さんにも、ぜひ「宇宙で何がしたいのか」を考えてみていただきたいです。「月面に建物を建てて都市を作る」とか、「宇宙旅行でどんな機内食を提供するのか」とか、今ある仕事のその先で、宇宙のポテンシャルはさらに広がっていくはずですから。
転職を考えている場合も、宇宙ビジネスだからと身構えることなく、「興味のある業界の一つ」と考えてみたらいいと思います。最近は技術者だけでなく、多種多様な職種が求められているので、未知なる領域に挑戦したい人はぜひ飛び込んでみてください。


<取材を終えて>

今回は、大手自動車メーカーからスタートアップに転職し、ロケット開発に携わっている技術者の方にお話を伺いました。安定した大手企業から、まだ未知数と言える宇宙ビジネスに飛び込んだ思いを率直にお話いただき、技術者として未知の領域に挑戦し、まだ見ぬ未来の実現を目指す姿に、ワクワクすると同時に感銘を受けました。誰もが気軽に宇宙旅行を楽しめる日をぜひ実現してください!

・今回取材をした長谷川さんが所属している将来宇宙輸送システム株式会社のホームページはこちらです。

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