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不安と葛藤を乗り越えて。宇宙ビジネスに飛び込んだ国際線CAの転職ストーリー

ここ数年、宇宙ビジネスに関する話題を目にする機会が増えています。しかし宇宙とは無縁な分野で働く人たちにとって、宇宙ビジネスは遠い存在と思われることが多いです。しかし実際には一般企業で働いた経験を持つ方々が大勢活躍している世界なのです。このコーナーでは、他業界から宇宙ビジネスに転身した経験を持つ方々へのインタビューを通じ、転職への不安や働き出してはじめてわかった仕事の魅力などを赤裸々にお伝えします。今回紹介するのは、国際線のCAからプロボノを経て、宇宙産業の発展と拡大を支援する「SPACETIDE(スペースタイド)」の広報担当として活躍中の安藤史華のストーリーです。


プロフィール

一般社団法人SPACETIDE
Communication Team
Program Manager
安藤史華
大学を卒業後、日系航空会社に入社。国際線・国内線のCA業務に従事。2022年6月から日々の業務の傍ら、プロボノとしてSPACETIDEの運営に携わるように。以降、広報、マーケティング担当として、SNSアカウントの運用やメディア対応、宇宙ビジネス関連のビジネスカンファレンスの運営に従事し、2024年5月、社員第1号としてSPACETIDEに転職。現在は広報、マーケティング業務に加え、人材関連事業の企画・運営に携わるなど活動領域を広げている。最近観た映画で面白かったのはアポロ時代の女性広報官を描いた『フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン』。

1冊の本をきっかけにはじまった、宇宙ビジネスへの挑戦

——前職はどんなお仕事をされていましたか?

日系航空会社で8年間CAをしていました。

——どんな路線に乗務されていたんですか?

ニューヨークやフランクフルトなど、比較的長い路線に乗務することが多かったですね。特にビジネスクラスを担当する際は準備すべきことが多くて緊張したものですが、いまとなってはそれも楽しい思い出です。

——SPACETIDEとの関わりはいつから?

正式入社は2024年5月なのですが、実はその1年半ほど前からSPACETIDEの活動には関わっていました。

——正式入社前から活動に関わっていたんですね。

はい。職業上の経験を活かした社会的な活動、いわゆるプロボノとして関わりはじめました。その後、転職をしてSPACETIDEの社員になり、いまも引き続き、広報やマーケティング業務に従事しています。

——これまで、広報やマーケティングに関わったことがあったのでしょうか?

新卒入社してからずっとCA一筋でしたから、こちらにきてイチから覚えました。とくに仕事に関連するような資格や実務経験があるわけではなかったので、そういう意味では「職業上の経験を活かして……」という、プロボノ本来の意味からは少し外れるかも知れませんね。ただ学生時代にレポーターとして広報やPRに携わったことがあり、その重要性は理解しているつもりでしたし、CA時代に鍛えられた対人コミュニケーションはメディアのみなさんとのやり取りなどビジネス折衝に応用可能です。それで広報、マーケティングにチャレンジしました。

——以前から宇宙に興味がおありで?

前職の航空会社も広い意味では航空宇宙産業の一員でしたから、社内には宇宙好きが集まるコミュニティがありましたし、長期戦略にはこれから積極的に宇宙事業に乗り出していくメッセージが打ち出されていました。ですから、宇宙に対する興味や関心は人並みにはありましたが、あくまで「興味がある」という程度で、最初から積極的に関わっていこうとは、思ってもみなかったというのが正直なところです。

——そんな、安藤さんがなぜSPACETIDEのプロボノに?

2022年のはじめに『イーロン・マスク 世界をつくり変える男』という本を読んだのがきっかけでした。それまで宇宙ビジネスは「ITでお金持ちになった成功者が挑戦する分野」くらいの認識しかなかったのですが、私が想像していた以上に将来性がある産業で、技術的にも、ビジネス的にも、日に日に成長しているのだと知り「私も宇宙産業に携わる何かがしたい」という気持ちに火がつきました。

不安と葛藤を乗り越え、社員第一号に

——同じ仕事でも本業の傍ら取り組むプロボノと、転職して本腰を入れて取り組むのは大きな違いがありそうです。前職を辞めるのに勇気がいったのでは?

そうですね。プロボノをはじめてちょうど1年ほどたったタイミングでSPACETIDE CEOの石田から声をかけてもらったのですが、正直いうとそこから半年間、本業とプロボノを続けながらかなり悩みました。

——どんな点が不安だったのでしょう?

この業界に興味があったとはいえ、だれもが知る大きな会社から一般的には名の知られていない社団法人への転職です。恵まれた環境を捨ててまでチャレンジすべきか、なかなか判断がつかなかったんです。

——そうでしょうね。周囲のみなさんの反応はいかがでした?

親や友だちに相談すると「なぜ、あなたが宇宙産業に? CAを辞めるなんてもったいない」といった反対の声ばかりでした。一方、スタートアップに転職した人に同じ話をすると「きっといい経験になるからチャレンジしてみなよ」と、真逆の反応が返ってくるので、余計悩んだというのはありますね。もちろん自分の人生です。自分で決めるべきなのは頭でわかってはいるのですが、転職して本当に期待に応えられるのか、もしかすると私より適任者がいるのではないかという不安と相まって、気持ちが揺れ動いてしまっていたんです。いまの上司である石田とは何度も話し合いを重ね、ずいぶん心配をかけました。

——どうやってこの不安と悩みを乗り越えたのですか?

SPACETIDEの共同設立者で理事とCOOの佐藤の体験談を聞いて、冷静になれたのも大きかったように思います。

——どんなお話だったんですか?

佐藤は最初の転職で大手コンサルティング会社から宇宙スタートアップに行く際、清水の舞台から飛び降りる覚悟で決めてきたのだそうです。でも「思い切って飛び降りてみたけれど、想像していたより高くなかったよ」と、朗らかに話してくれたのを聞いて、少し前向きな気持ちになりました。ほかにも転職に前向きになれた理由があります。

——どんな理由ですか?

私の名前は「史華(ふみか)」というのですが、名前の由来は「歴史に華を添えてほしい」という願いが込められています。幼いころからいい名前をつけてもらったと思っていたのですが、心のどこかに「私自身が偉人にならないといけないのか……」というモヤモヤがありました。でも、目の前で成長を続ける宇宙ビジネスに出会い、この世界に貢献することも「歴史に華を添える」ことになるのではないか。そう思ったとき、モヤモヤが晴れ転職に前向きな気持ちになれました。

PRを担当するSPACETIDEのメインカンファレンス

業界を知り尽くしていないのは、弱みではなくむしろ「強み」

——広報、マーケティングのお仕事をされているそうですが、どんなお仕事をされていますか?

社員となってからも、プロボノ時代から取り組んでいた広報やマーケティング業務に携わりつつ、いまは、宇宙ビジネスをより多くのみなさんに知っていただき、この業界にチャレンジしてみたい人を増やす人材関連事業にも取り組んでいます。

大手企業からスタートアップまで20社以上が参加した、
「第3回Career Connect人事責任者ワークショップ」参加メンバー

——社員になって、仕事の領域も着実に広がっているんですね。転職1年目の率直な感想を聞かせてください。

まだまだ知らないことや至らない部分もあるのですが、逆に入社1年目だからこそ見えるものがあるんだなと感じています。経験豊富な業界関係者にとっては当たり前なことでも、一般のみなさんからすると「それめちゃめちゃ面白い!」と思えるポイントを見つけられるのは、新参者の特権です。特に人材関連事業は、私の転職経験が活かせる数少ない分野。とてもやりがいを持って取り組んでいます。

——CAといえば対人コミュニケーションのプロですよね。いまの仕事にその経験は活きますか?

職種は違いますが、通じるところはあると思っています。とくにCA時代に鍛えられた「1回の動線で仕事を完結させる」という意識、つまり、観察力と想像力を働かせ、先を見越して相手の立場に立って行動するという姿勢は、この仕事でも活かすことができると思いますね。BtoCからBtoBになっても、仕事を通じて相手にするのはあくまでも人。CA時代の経験がいまの仕事にも役立っていると思います。

——入社して一日の過ごし方は変わりましたか?

そうですね。前職はシフト勤務で、いまはリモート勤務が中心なので、毎日同じ時間に仕事を終えて自分のベッドで眠れるのは本当に最高ですね(笑)。強いて不満をいえば、平日休みから土日休みに変わったので、時間の使い方を工夫しないと混雑に巻き込まれて休日を満喫できないことくらいでしょうか。ほかに変わったことは、宇宙ビジネスの今後に影響を与える国内外の経済動向や行政の動きに、以前より敏感になった気がします。

SPACETIDEの活動が認められ、第6回宇宙開発利用大賞で経済産業大臣賞を受賞

——とてもいきいきと働いていらっしゃるのが伝わってきます。当初、転職に反対されていたみなさんの反応はいかがですか?

出社するかテレワークかの選択はもちろん、仕事の時間配分も個人の裁量に委ねられており、毎日やりがいを持って働けているので、地元の親や友だちも私の選択を受け入れ、応援してくれるようになりました。理解してもらえてよかったです。

魅力や将来性を伝え、宇宙ビジネスに挑戦する人を増やしたい

——安藤さんは、いまのお仕事を通じてどんな価値を世の中に届けたいですか?

日本でも宇宙ビジネスが盛り上がっていますが、多くのみなさんにとって宇宙ビジネスは「自分にとってはまだまだ遠い存在だ」と思われる方が多いです。広報やマーケティング、人材関連事業に携わることで、ひとりでも多くのみなさんに宇宙ビジネスに関心を持っていただき仲間に加わりたいという方を増やし、宇宙ビジネスを盛り上げていきたいと思っています。

——ところで安藤さんが宇宙にいく機会があったら、どんな旅をしてみたいですか?

イーロン・マスクさんのように「いつか火星に移住したい」と、いいたいところですが、まだちょっと怖いので、月の周回軌道を回って地球の丸さをこの目で確かめるのが私の夢です。

——ありがとうございます。最後に宇宙ビジネスに興味を持つみなさんにメッセージをお願いします。

私は高校時代にアナウンサーになる夢を諦め、大学時代は留学を諦めました。それぞれの選択に後悔はありませんが「あのとき別の道に進んでいたら」と考えることはあります。宇宙ビジネスへの挑戦をしたのは、いままでの自分なら選ばなかった道をあえて選ぶことで、新しい自分を発見したかったのかも知れません。宇宙ビジネスは、これから花咲く産業です。もし宇宙ビジネスに少しでも興味を持っていただけるなら、ぜひ勇気を持って飛び込んできていただきたいと心から思います。私たちとこの業界を盛り上げていきたいと思っていただける方が増えるよう、これからも頑張るつもりです。


<取材を終えて>

今回は、国際線のCAから宇宙ビジネスへの関心を広げる団体で広報担当者になった方への取材です。キラキラしたお話が聞けると思い取材に臨みましたが、新天地に一歩踏み出すまでの不安や葛藤を赤裸々にお話しいただき、飾らない人柄と率直なお話し振りに感銘を受けました。月の周回軌道上から地球を見る夢、ぜひ叶えてください!

・今回取材をした安藤さんが所属している一般社団法人SPACETIDEのホームページはこちらです。

『SPACETIDE Career Connect』第3回
ーわたしを宙に解放しよう、宇宙天職ー
▼イベントの詳細と参加申し込みは、下記Peatixから

※第3回Career Connect は、経済産業省 令和6年度宇宙産業技術情報基盤整備研究開発事業(SERVISプロジェクト)の一環として実施しております。

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