体験価値を高めるために「変わること、変わらないこと」Mr. CHEESECAKE 代表 田村 浩二 (1/3)
スペースマーケットは「チャレンジを生み出し、世の中を面白くする」というビジョンのもと、様々なアクションを続けてきました。
そして今「新たな時代に突入」といっても過言ではない2020年。
本連載 “Challenger’s IDEA” では、各業界で活躍する方々をゲストとしてお迎えし、これまで大切にしてきたこと、変わらず大切になること、そして「これから大切になること」をお伺いしていきます。そして今後のブランドの在りをディスカッションしていきながら、そのアイディアをシェアする事で新たなチャレンジを生み出したいと思っています。
今回はMr. CHEESECAKE代表の田村浩二さんと、飲食の世界が直面している大きな変化、またSNSなどを通したお客様との繋がり方について話していきます。どんなワクワクする世界が生み出せるか?というトピックでディスカッションをしていきました。
3分で読むまとめ
・Mr. CHEESECAKEの始まりはシェフ業とチーズケーキの制作を同時並行で、1日2時間睡眠で3ヶ月過ごした2018年。
・シェフとしてレストランに来店されるお客様だけでなく、場所と距離の制限がなく多くの人とコミュニケーションが取れることにSNSの可能性を見い出す。
・シェフとしての何気ない知恵を共有したツイートが大きな反響を呼んだ。マンゴーヨーグルトの紹介投稿に16万ファボが付き、そこからチーズケーキの拡散が始まった。
・Mr. CHEESECAKEを始めた動機は、レストランシェフとして、賞を受賞したことで、料理”通”のお客様が増えたこと。
・レストランに来店される特定の層だけでなく、誰が食べてもおいしくて喜んでくれるものを、誰よりもおいしく作りたいという想いが強くなっていった。
・新しいチャレンジを生むための土台作りはとても大事。業界の中でもちゃんと本物として認めてもらって、そこから新しいことにチャレンジしていくことが大切。
・レストラン業界は、客数×客単価×営業日数という昔ながらのルールから抜け出すチャンスが生まれている。
・今後はリアルな場の価値を再定義することでチャンスがある。今までレストランで食べていたものをテイクアウトで食べた時においしく感じなくなる体験をしてる人が増えてる。
・第三者に言いたくなるようなものをいかにつくるかが大切。「パパのあれ、もう一回食べたい」が言われる方法を考えたい。
スピーカー
・Mr. CHEESECAKE 代表 田村浩二 (Twitter: @Tam30929 )(左上)
・スペースマーケット COO 井上真吾(右上)
事業推進ならびに事業開発を担当。2020年3月よりCOOとして事業全体を統括。個人としては2007年に日本初となるハンバーガーガイドブックを出版。2010年から東日本ハンバーガー協会会長。
・スペースマーケット ビジネス開発部 長谷部祐樹(左下)、中村友哉(右下)
Mr. CHEESECAKEの始まり。料理人と同時並行の生活。
中村:まず最初に、簡単に自己紹介も兼ねて事業のご紹介お願いします!
田村:はい。今、僕はMr. CHEESECAKEという、いわゆる業界ではD2Cといわれるようなチーズケーキのブランドを会社としてやっています。それまでは13年間、ずっとフランス料理の世界で修行をしてきた料理人です。
料理人として今後、レストランで仕事を続けていくのが本当にいいのかというのを考えたときに、自分の中の求めるライフプランというか、人生においてレストランに居続けるというのは違うなと感じたので、そのときにたまたまスタートしていたチーズケーキに振り切って、今の会社をつくったというような流れですね。
なので、レストランのシェフとして朝の8時から夜中の11時、12時までシェフとして働いて、それ以外の時間でチーズケーキを作っていました。
InstagramやTwitterでチーズケーキが拡散され始めてからは、その注文に対しての生産が追い付いていなかったので、2018年の5月、6月、7月の3カ月間は、朝4時半にはキッチンに行き8時までチーズケーキを作って、夜の12時まで働き、家に帰って朝方の2時に寝て4時に起きるっていう生活をしてましたね。
井上:やばいですね。笑
田村:人生で一番睡眠時間が短かった時期ですね、そこは。
中村:すごい。笑
長谷部:そのモチベーションってどこから来たんですか?
シェフ視点のSNSの可能性。
田村:レストランって基本的にはランチとディナーがあって、僕が働いてたレストランは、大体1日多くても50名ぐらいの人としか会えなかったんですね。
ただ、オンライン上だと場所の制限とか距離の制限がなくなるので、本当に多くの人とコミュニケーションが取れるようになったっていう楽しさみたいな部分がありました。
あとは僕がそのレストランを7月いっぱいで離れるっていうことが決まったので、それまでの間であれば寝る間も惜しんで頑張れる。そこでより多くの人に届けられるほうがいいんじゃないかなっていうので、気合を入れてやったという感じですね。基本、気合ですね。根性論みたいな感じなので。笑
中村:SNSの利用は昔からされてたんですか?
田村:僕がSNSをちゃんと始めたのは、Twitterは2017年の年末から。それこそチーズケーキ始めるまでは、フォロワーも300とかしかいなかったので、ただただ、よく分からないことをツイートしてるアカウントでしたね。
長谷部:じゃあ、こんなふうになるとは、最初は思っていなかったっていうところですかね?
田村:全然思ってないですし、それこそ真面目にTwitterを運用してみようかなというので始めて、2018年4月には1,200~1,300人ぐらいまで増えたんですよね。
それで5月にヨーグルトにドライマンゴーを付けて1晩置くとおいしくなるよというツイートをしたんですよ。それが当時、16万ファボぐらい付いて。
井上:うわ、すごいですね!
田村:僕、それで2日で1万人ぐらいフォロワーが増えたんですよ。
中村:すごい!!
田村:それが多分1,000万インプレッションぐらいあったんですけど、同時にチーズケーキも拡散されて広がったタイミングがあったんですね。だからそれがなかったら多分、今のチーズケーキもないですし、僕のフォロワーが多くなるというのもなかったと思いますね。
井上:すごいですね。
田村:だから完全にラッキーパンチですね。再現性はゼロだと思います・・・笑
たまたまレストランで「水切りヨーグルト」を料理に使っていて、その作り方をスタッフに聞かれたんですよ。「こういうふうに作るんだよ」というのを説明した後に、「でもヨーグルトにドライマンゴー挿すと、マンゴーが水分吸ってヨーグルトの水分が抜けて両方おいしくなるから、ただ食べるだけだったらそういうやり方もあるよ」っていうのを言って、これツイートしようと思ってツイートしただけなんですよ。
だから、すごい偶然というか。
井上:でも、そういうのって最近すごい増えてるなって思うんですけど、業界にいると当たり前のことってあるじゃないですか。それを全然皆さん知らないみたいな。出してみたら、「え、そうなの!?」みたいな話になることって、すごいたくさんあると思ってて。結構、飲食に限らず業界あるあるだなと思いますね。
田村:そうですね。まだ2年前当時は、シェフでTwitterをちゃんとやってる人がいなかったんですよね、全然。あとそのヨーグルトマンゴーに関しては一般的に知ってる人も多いんですけど、「シェフが言ってるってことは、私の感覚合ってた!」みたいに共感してくれる人も多くて。
それで初めて知った人と共感する人のバイラルが生まれて拡散されたという感じだと思うんですけど。すごい、不思議な体験でしたね。
Mr. CHEESECAKEを始めた動機。
中村:ちなみにMr. CHEESECAKEの最初の始まり方って、どんな感じだったんですか。
田村:始まり方は、僕が『Gault & Millau』っていうミシュランみたいな、レストランのガイドブックがあるんですけど、それで2018年期待の若手シェフ賞というのをいただいたんですね。そのときに賞をいただいたこと自体はすごいうれしかったんですけど、食べに来るお客さまが、いわゆる同業だったりとか、いわゆるフーディーって呼ばれるような食べ歩きをすごいしてる人が増えて、それ自体も最初うれしかったんですけど、ダイニングの雰囲気がちょっと壊れるんですよ。
僕は賞を取るとか、ミシュランの星を取るみたいなことを目標にしてやってきてたので、一瞬うれしかったんですけど、変な言い方ですが、あら探しされながら食事されるために料理作ったんじゃないという感覚がちょっとあって。
それよりも誰が食べてもおいしくて喜んでくれるものを、誰よりもおいしく作るほうが価値があるんじゃないかなって思ったときに、自分の好きなものが、たまたまチーズケーキだった。僕、小さな頃から誕生日ケーキがチーズケーキだったんですよ。母がよく作ってくれていて。
外で食べてもそんなにおいしいと思うものなかった。であれば自分なりにシェフとしていろんな技術も知識も学んできたので、自分が好きなチーズケーキっていうものに対して、それを全部、真剣に注いでみておいしいものを作ろうって思い作り始めたのが2018年の1月ぐらいからなんですよね。
3月ぐらいにある程度完成形が見えて、4月に自分のInstagramのストーリーに載せたんですよ。
本当においしいチーズケーキができました、みたいな感じで載せたら、当時フォロー頂いていたレストランのお客さまから食べたいっていう声が生まれて、ちょっと販売しますみたいな感じで5~6本、最初に販売したんですよ。
それを食べたうちの1人が、いわゆるインフルエンサーみたいな方でブログに載せてくれたら、いきなり若い女の子のアカウントが200人ぐらい、僕のアカウントをフォローしてくれて、DMで食べたいですみたいな連絡が来て、そこからは値段とサイズと伝えて住所をDMで聞いて、振込先伝えてみたいな、すごいアナログなスタートでした。
売れるとは思ってなかったので、Mr. CHEESECAKEという名前も決まってはいたんですけど、ロゴもないしパッケージもないので、銀色の保冷バックにMr. CHEESECAKEって自分の手書きで油性ペンでサインして。それをガムテープで留めてヤマトで送るっていうようなところからスタートしてるんですよ。
井上:すごい。笑