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#04 痛くて眠れない夜、それは恋も宇宙も同じ
Introduction
我々医療者が行う医療行為には保険診療と自費診療というものがあります。
保険診療とは、国民が加入している健康保険の適用範囲内で行われる、国がやり方も値段も定めた治療のことで、自費診療とは患者さん側が健康保険とは別に医療者側にお金を支払って受ける治療です。
保険診療は診療代金が決まっており、その費用の1~3割を医療を受ける側が払って、残りは国が負担します。
自費診療は医療費を受ける側が100%代金を支払い、その値段も医療者側が設定することができます。
歯科は医科に比べて圧倒的に自費診療のオプションが多いです。
具体例としては、歯の矯正、銀歯の代わりの白い詰め物、インプラント(一部をのぞく)、金属の床の入れ歯などは自費診療となります。
医科では美容整形くらいでしょうか。
むし歯になって詰め物や被せものをするとき保険診療ではほとんど銀歯になります。
(前歯や一部の歯をのぞく)
それがいやな人は白い被せものを自費診療で選ぶことができます。
一般的には、女性や口の中に気を使う人は自費診療で白い被せものを選ぶ人が多い傾向にあります。
歯科医院によってもカラーがあり、保険診療内で行うことをモットーとしているところもあれば、自費診療のメニューが豊富にあり、ガンガン自費診療を勧めてくる医院もあります。
どうすればよいのか迷ってしまいますよね。
いろいろメリットを並べられて自費診療を勧められるけどなんかうさんくさいなぁ。。。
歯科医院によって値段が結構違うけど、どうすればいいの?
同じ場所被せるにしてもいろんな選択肢があって、値段もピンキリ。。。
もちろん人によってぴったりな選択肢が違う場合もあります。
性別や経済状況、職業などでかわることもあるでしょう。
では宇宙へ行こうと思ってる人はどのような治療が最適なのでしょうか。
続・トラウマ
前回気圧変化による身体への影響の話をしました。
今回は特に歯科領域へfocusしてお話していきたいと思います。
以下のような状態の歯がある場合は気圧変化で症状が出てしまう可能性があります。
むし歯(う蝕)
深い歯周ポケット
歯の神経の炎症が起きている(歯髄炎)
歯の神経が死んでしまっている状態(歯髄壊死)
歯の根っこの先の感染(根尖性歯周炎)
イマイチな治され方をしている歯(不完全、不適当な歯の修復)
粘液貯留嚢胞(唾液腺の出口が唾液が詰まって腫れてしまっている状態)
仕組みとしては全身に起こる気圧外傷のメカニズムと基本は同じです。
空間や、欠損しているところがあると空気が圧力変化により膨張し、痛みがでやすいのです。
とはいえ、宇宙へ行く人は厳しいメディカルチェックを受けているでしょうから、大きいむし歯やひどい歯周病をそのままに宇宙へ旅立つ人はいないはずです。
しかし、治療済みの歯はどうでしょうか。
例えば、歯の神経(歯髄)を取り除く、いわゆる歯の根っこの治療をした歯を例にしてみます。
残念ながら、どの治療にも完ぺきというのは難しいですが、特に歯の根っこの治療というのは成功率があまり高くない治療法です。
根っこの治療をした歯になんか違和感がある。。。
噛むと痛む。。。
周りの歯茎におできのようなものができてきた。。。
これらはすべて治療済みの歯に黄色信号(or赤信号)がともっています。
地上にいても歯の根っこの治療がやり直しになった、というのはあるあるです。
宇宙に行くとなれば、ここに気圧の問題が絡みます。
痛くなる可能性は地上にいるよりさらに高まると言えます。
つまり、一度治療しているから安心して宇宙へ行ける、と限らないということです。
闇への入り口
歯の根っこの治療、すなわち歯の神経(歯髄)の治療が必要になってしまった歯の治療の流れはおおまかにこのような流れで進みます。
1. 歯のむし歯をすべて取り除く
2. 神経の入っている部屋(歯髄腔)に穴をあける
3. 歯の神経をそこからすべて取り除く
4. 歯髄腔を広げる
5. 広げた歯髄腔をきれいに洗浄して、中に薬を詰めていく
6. 歯の中にコアと呼ばれる芯となる構造を建てる
7. かぶせものを被せる
歯の根っこの治療における失敗は、歯の神経を取り除いて根っこの中をきれいにして、しっかり詰めたのにもう一度歯の中が感染してしまい痛んだり、歯の根っこの先(根尖)に病気ができてしまうことです。
痛みを感じる感覚受容器は、根尖にありますが、歯の治療の際に使った薬剤が漏れ出たり、根尖に病気ができてしまうと、感覚受容器を刺激してしまいます。
そうなると、噛むと痛い、違和感がある、気圧変化によって痛むということが起きうるわけです。
ラバーダム
歯の根っこの治療の成功率は、治療の際にできる限り歯の中の細菌数を減らすということにかかっています。
現在の医療技術では、細菌数をゼロにすることはほぼ不可能です。
なので、歯科医師は、歯の根っこの治療を行う際は可能な限り細菌数を減らす、ということを念頭において治療にあたることになります。
まず、準備として治療する歯を雑菌だらけの口の中から完全に分離させる準備から入ります。
口の中にゴムの膜を張って、治療する歯だけが外に出ているような状態にします。
これをラバーダム防湿法といいます。
この治療の究極の目標は「歯の中の細菌数をいかに減らせるか」、ですからラバーダム防湿という操作は必須となります。
(山口歯科さん HPより
https://www.yamaguchi-dental-clinic.com/2019/12/21/481/)
マイクロエンド
神経を取り除いたら、根管(歯の根っこの中)内のおそうじをします。
神経が感染していない場合は、根管を広げて、のちのち薬をつめやすくします。
この際、複雑な形態でかつ暗い根っこの中を肉眼で治療することはほぼ不可能です。
なので我々は歯科用の顕微鏡(マイクロスコープ)を用いて中をしっかり確認しながら行います。
この方法はマイクロエンドと言って根っこの治療には必須です。
これをやらないのは山道の夜道をライトを照らさずに車に乗っているのと同じです。
(目白マリア歯科さん HPより
https://www.mejiro-mariadc.com/menu/micro_rootcanal/)
綺麗になった根っこの中を、空気、液体が入り込む隙間がないように薬で確実に塞ぎます。
この薬というのは、通常はガッタパーチャポイントと言って、ゴムと造影剤と金属を少々まぜたものが一般的には使われます。
指先程度の長さの細い楊枝のような形状をしているガッタパーチャポイントを、シーラーと呼ばれる接着剤のようなものをつけて一本一本歯の中へ挿入していき、細い器具で隙間のないように詰めていきます。
ガッタパーチャポイントはゴムですから、ゴム同士を詰めるためどうしてもわずかな隙間ができてしまうことがあります。
この細かな隙間に残った空気がなんらかの気圧変化で膨らめば、歯は割れる方向に力がかかり、周りの組織を圧迫し、当然痛みの原因となってしまいます。
MTAセメント
しかし最近MTAセメントという新しい材料が登場し、常識が変わろうとしています。
このMTAセメントは生体になじみやすく、カルシウムを放出するため歯の再生にも役立ち、殺菌性、封鎖性もあるため歯科では様々な用途で使われ始めています。
(フォルディ株式会社さんHP より
http://fordy.jp/products/detail.php?sid=1794&no=145)
基本的には、歯髄へ到達してしまいそうなむし歯に対し歯髄を残すために使われますが、しっかりと硬化するため今回のように根管充填や、歯の根っこに穴が開いてしまった場合のリカバリーにも使えます。
MTAセメントはガッタパーチャポイントと違い注入することができる性状でかつ、固まるときにやや膨らむので、歯の根っこを詰めるのに使った場合は空気の侵入をかなり減らすことにもつながります。
MTAセメントは革命的に良好な成果をあげていますが、大事なのは感染物を完全に除去するという作業です。
具体的には、マイクロスコープなどの拡大機器で根管内に見える汚れを徹底的にキレイにすることです。
根管内がキレイになれば、感染源がなくなる訳ですから治療としては成功にぐっと近づきます。
肉眼やルーペの治療では、感染源が残っているかどうかは、見えないので分かりません。
悪い部分が見えれば、当然治せる可能性はかなり高くなります。
つまり治療の成功率が上げることができます。
医療の進歩はすごいですね、新しい技術や薬品で歯の根の治療にも革命が起きようとしています。
しかしそこには大きな落とし穴があったのです。
(次回へ続く)
References
1 Achint Garg, Annu Saini ,Effect of Microgravity on Oral Cavity IOSR Journal of Dental and Medical Sciences (IOSR-JDMS) e-ISSN: 2279-0853, p-ISSN: 2279-0861.Volume 15, Issue 1 Ver. III (Jan. 2016)
2NEX MTA CEMENT http://www.gcdental.co.jp/nex/mtacement.html