#05 宇宙で爆発する歯
被せる!
前回の内容をうっすらと覚えて頂いているでしょうか。
むし歯をとって根っこの治療を終えるところまで話しました。
今度はそこにコアと呼ばれる構造を建てます。
家で言うと柱のようなものです。
コアを建て形を整えたらいよいよかぶせものを被せます。
かぶせものの種類は銀歯、歯の形に近い白いかぶせものなどいろいろ種類があります。
今回注目してみたいのはかぶせものを被せるときの接着剤です。
かぶせものが取れた時や歯が折れた時にボンドやアロンアルファのような手持ちの接着剤で自分でつけちゃう強者がたまにいますがやめましょう。笑
歯科用の接着剤にはいろいろな種類があります。
粉と液を練って混ぜるもの
2種類のペーストを混ぜるもの、
ペースト状なんだけど医療用の光をあてると固まるもの
とさまざまです。
ここでも空洞の話が問題になります。
気圧が低い宇宙空間をシュミレーションして調べた研究のなかで、
かぶせものを装着するときに使用した接着剤の中の気泡や、わずかな空気の侵入部分が圧力変化によりかぶせものの中で爆発し、かぶせものとの接着力が弱くなりとれてしまう、またはかぶせものが壊れてしまうという報告がありました。
かぶせものの種類によっては歯自体が割れてしまうを招くとも警告されています。
これは最悪です。
歯本体が割れてしまうと、それこそ最悪抜歯になります。
さらにこの研究では、気泡のできやすい粉と液を混ぜるタイプのセメントの場合、気圧が低い状態ではかぶせものの保持力が明らかに減少したとの報告もなされています。
ゆえにこの研究では、宇宙飛行士やダイバーなど、圧力変化にさらされる人のかぶせものを装着するときは、気泡のできやすい粉と液を混ぜるタイプのセメントではなく、ペーストタイプのセメントを推奨しています。
粉と液を混ぜるタイプのセメントより、もともと製品としてペーストになっているものの方が気泡は少なそう、というのはなんとなくイメージできますよね。
そもそも歯髄の入っている歯髄腔へアプローチする治療自体が空洞を作ってしまうとのことで、歯髄への治療が必要な場合であっても、あえてむし歯を一部残し、再石灰化を促す方法をとるべきだとの報告もあります。
実はこの方法はIPC(暫間的間接覆髄法)と言って、歯髄の生活力の高い若年者にはよく行われている治療法です。
しかしこの方法自体も成功率はそこまで高いわけではなく、通常通りしっかり神経の治療をした方がベストな場合ももちろんあります。
もしIPCをしなくてはならなくなった時でもMTAセメントがあれば、神経に限りなく近いところまでむし歯を取り、仮に神経が露出してしまってもMTAセメントを用いて神経を保護してあげれば、助かる可能性があります。
MTAセメント、すごい!
まさかの、、、
前回から含め、歯の治療法について少ししゃべりすぎてしまいました。
歯の治療にそこまで詳しくない方でも、
ラバーダム防湿
MTAセメント
顕微鏡を用いた治療(マイクロエンド)
この3つのオプションはすごいことがわかってもらえたんじゃないかと思います。
なんならこの3つがないとだめじゃね??
くらいにまで思ってくれているんじゃないかと思います。
ところがこの3つの治療法は、、、
すべて自費診療でしかできないことなのです。
えっ!?
ってなりますよね。
つまり、これらの治療は歯科医師側からオートマチックに提供される医療行為ではないということです。
歯科医師側から提案され、もしくは自分でこの治療を希望しなくてはこれらの治療法は受けられないのです。
投資 for teeth
言うまでもありませんが、患者さんのためを思うと、僕は費用はかかってしまいますが自費診療を受けるべきだと考えています。
それは地上にいようが宇宙にいようが同じです。
以前はむし歯があると宇宙にいけない!
と言われていました。
今はしっかりと治療を受け治療が完了していれば問題はないはずです。
しかし、宇宙滞在時間が長くなればなるほど、
以前受けた治療のクオリティはどうだったのか?
その治療は宇宙空間での環境や宇宙空間で起きうるトラブルや変化を想定して治療がなされているか?
ということが重要になってきます。
なので今後宇宙へ旅立つ皆さんは、費用はかかりますが確実な治療法を行い、気圧変化を念頭においた治療を歯科医師から受ける方がベストだと考えます。
当然歯科医師もこのような宇宙環境での口腔内の変化をよく理解し、最適な治療を提供する環境を整えるべきです。
闇
なんでいい治療を保険診療にしてくれないんだよーという皆さんの気持ち、わかります。
それは僕らも同じ考えです。
保険診療と自費診療の深いギャップは歯科医療界の闇であり、課題でもあるのです。
そーゆー系の歯科の怖い話は夏にでもしましょうか。笑
結論はいつも同じ、
宇宙に歯科医療は確実に必要。
ロングミッションともなればなおさら。
ということです。
References
1 Achint Garg, Annu Saini ,Effect of Microgravity on Oral Cavity IOSR Journal of Dental and Medical Sciences (IOSR-JDMS) e-ISSN: 2279-0853, p-ISSN: 2279-0861.Volume 15, Issue 1 Ver. III (Jan. 2016)
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?