
「”暑苦しい”ほどの人間性」こそが会社の根源。宇宙ベンチャーのSpace BDがカルチャーブックを公開
昨年経営理念やビジョンを策定したSpace BDで、このたび会社およびメンバーのあり方を言語化したカルチャーブックが完成しました。
作成をリードしたデザイナーの杉本より、その特徴や製作背景をお話します。

デザイナー 杉本 大介
日本大学芸術学部卒業後、同大学の助手としてプロダクトデザインについて研究。 その後川崎重工業株式会社(現:カワサキモータース株式会社)にてモーターサイクルのデザイナーとしてフラッグシップモデルやレーシンググラフィックのデザインを数多く担当。他にアパレルブランドの起業、運営や建築空間デザイン等幅広く手掛けてきた経験を生かし、Space BDでは組織デザイナーを掲げ、カルチャー醸成や浸透、ブランディング、クリエイティブ制作を手掛ける。
社内に数ある「言葉たち」を太陽系に置き換えた
ー Space BDのカルチャーブックが2/7に完成し、社内配布されましたね。
はい。「道」というタイトルをつけています。ただ、あえて呼び方を定めていません。「道しるべ」の意味もあれば「武道・Space BD道」といった意味も込めていまして。いろんな解釈を楽しんでもらおうと考えました。

ちなみに、この「道」のカリグラフィーは僕がオリジナルでデザインしています。Space BDは日本発の会社なので、最初は日本らしさを象徴するため習字風の字体にしていたんでが、印象が重たく古風な日本書物のようにも見えたので、もっと若い層まで受け入れられるようストリートカルチャーのグラフィティ要素も足しました。左から右へのラインを統一するなど、バイクなどの乗り物デザインにも用いられるまとめ方で全体を調整しています。「しんにょう」の部分もバイクの顔っぽくなり、自分のバックグラウンドを活かしながらデザインできたと思います。
ー さすがデザイナー、面白いですね。そもそもこのカルチャーブックはどんなものですか?
Space BDがどんな組織であるべきかーー独自の価値観や行動規範として、これまでの歴史や伝統、従業員や経営者の思考を言語化したものを60ページほどの冊子にしました。法律やルールとまではいかないにしろ、従業員が行動するにあたって判断基準となるものでもあり、もはやSpace BDの「大前提」と言っていいかもしれません。
ー 構成は?
ピラミッドのような構成で、読み進めるにつれてだんだん具体的な内容になっていきます。ざっくり言うと3つのテーマがあり、はじめに「会社・Space BDとは」といういちばん抽象的かつ大きな話をし、次に事業指針・我々の向かう先や目標を定義しました。ここでは会社のロゴの意味も解説しています。最後に社員一人ひとりが大切にしていくことをまとめています。
代表自身もかなりコミットして作り、はじめのSpace BDの存在意義を綴った4ページは永崎がひとりで書き上げています。また、「大切にしていること」は全部で3つあるのですがそれぞれに対する5つの考え方と実際の事例を交えて丁寧に解説しました。読みながら会社の歴史も感じてもらえると思います。
ー カルチャーブックの特徴を教えてください。
Space BDは特殊な会社だと僕は思っているんです。宇宙というクールで未知な領域で事業をしているけど、昨年できた経営理念など覗いてみると結構”暑苦しそう”な一面もある。そ んな”暑苦しさ”をあえて全面的に押し出したところは特徴のひとつでしょうか。

『言葉の相関図』というページを見てみましょうか。「仲間」「人」「熱く」「青春」……こんな単語が目に入りますよね。「今どき珍しいな」とか「え、青春?どういうこと?」とか思って次のページ以降を読むと、しっかりとした考え方が数ページずつにわたって補足されているわけです。そうやって興味を惹きつけながら「ちゃんと読めばわかる」作りにしました。
そしてこのページがなぜ相関図なのかというと、例えば「存在意義」は他社さんでいう経営理念ですが、実は僕らの場合は100%イコールではありません。同じページ内にある「根源」「大切にしていること」など会社として掲げている言葉が複数あり、それらすべてをひっくるめて完全体の経営理念なんです。それぞれ必要なタイミングで生まれたものですが、複数あるとどれがどういう役割なのかが分かりづらいのも確かです。そこで、カルチャーブックを作るというのをいい機会に関係性を可視化してみました。
存在意義では「一生青春」のあとに「Space BDは自らを高め、豊かに生きるための舞台」という言葉が続いています。他の言葉は従業員の目指す方向について書いているのですが、存在意義だけは人に向けた言葉に加えて「環境」や「空間」を指しているんですよね。そうやってひとつひとつに込めた思いを棚卸し、最終的に太陽系の配置をオマージュした相関ができあがりました。
ー 見た目もかなりこだわっていますよね。太陽系を模した相関はアイデアとしても面白いです。
そうですね。でも、僕はもともと「氷山」を使ってデザインしていたんです。氷山って、目に見えている部分のみならずその下にもっと大きい氷の塊があるわけで……と考えていたのですが、永崎から「太陽を人に見立てて中心にしたらいいんじゃない?」とフィードバックをもらい一緒に作り上げた結果です。
太陽を人と見立てると、人のコアが「根源」で、 太陽から出る熱が「大切にしていること」になって。太陽系がどんどん大きくなると産業ができあがり、そんな宇宙空間をつくっているのがSpace BDなんだと。宇宙関連の事業会社らしいものになりました。
ー 宇宙感やかっこよさのあるデザインでユニークさもありますね。
言葉でいうと、暑苦しさだけでなく「大切にしていること」にある「連鎖」「無限」「未来」といった永遠・果てしなさを感じる言葉も同時に散りばめているのもこだわりです。ストイックな人材が集まってるので、そんなみんなをリスペクトして言語化し盛り込みました。事業領域である宇宙っぽさも言葉からも感じられるのではないでしょうか。
ー ワーディングセンスが光っていますが、ひとつひとつの言葉はすぐにできあがったのでしょうか?
いや、結構苦戦しましたね。ただ「信頼の連鎖」「当事者意識」など部分的に以前から永崎がよく使っていた言葉も多いんです。なので、この言葉たちはSpaceBDのメンバーの特徴を言語化しただけにすぎません。実はすでにカルチャーとして醸成されていたものを紡いだという感じですね。
とはいえ「大切にしていること」の3つ目にある「未来を作る脚本家」はある意味これまでのSpace BDだと出てこなかったニュアンスではありますね。人間性そのものを指す他の言葉たちとはちょっと毛色が違うので。これは人だけでなく事業に向き合う姿勢も入れようとなり、リーダーシップチームから出てきた言葉です。Business Developmentこそが強みであるSpace BDには欠かせない要素でした。

2年がかりで完成へ
ー いつ頃からどういうきっかけでカルチャーブックを作ろうとなったのですか?
実は一昨年ぐらいから作り始めているんですよね。 いわゆる「50人の壁」がやってきて、永崎が社員全員を見ることが難しくなってきた頃でした。人材がうまく定着せず、永崎自身も権限移譲に向けて考え方を改めるタイミングでもあったんです。
そんなときに彼が出会った言葉が「CI(Corporate Identity) is BOSS」です。社長をボスとして全員が従うのじゃなく、CIをコアとして全員が同じ方向を見ようと。いい言葉ですよね。
大まかな方向性が見えてきたその年の冬に「リーダーシップチーム」と呼ばれる社長を含めた取締役やマネージャー陣と、新設された「カルチャー推進室」という挙手制で会社のカルチャーを考えていくチームのメンバー合わせて10人ぐらいで海が見えるところへ合宿に行きました。内容は、ただひたすら話すっていう。この場だからと過去のいろんな出来事を挙げてこれから会社はどうあるべきか、とにかく議論し続けていましたね。そのときに結論として出てきたものがカルチャーブックの土台となっています。
その後ワードを決めたり細かな言い回しを詰めたり……を繰り返す中で、想定外の出来事が起こって単純にスタックしてしまったり、新しい要素をつくろうとしたりしているうちに1年が過ぎていきました。さまざまな問題がやっと整理され落ち着いた昨年末に「根源」の必要性に気づいたのは大きかったかもしれません。人として大切な基礎もきちんと定義しようと。
ー カルチャーブックを作りながらも常にカルチャーを問い続けたんですね。
そうですね。なので結果的に完成までに2年弱かかりました。超大作ですね(笑)
ー どのような体制で作られたのですか?
最初のうちは僕ではなく広報・人事の飯塚が主体で動いていました。飯塚と永崎の1on1の場で永崎の言葉・考え方をインプットし、社員向けに翻訳するという作業を担当してくれました。
基盤ができた頃に、コミュニケーションをどうデザインするかという観点で僕が主体となり動きはじめ、ブランドアドバイザーの堀も交えて進めるようになり、制作は僕と外注のデザイナーさんで動いていました。言葉のひとつひとつは前述の通りいろんなメンバーが意見や案を出していますが、体制としてはこんな感じです。
ー 二転三転したこともあったと思いますが、製作中ずっと意識していたことはありますか?
「デザイナー」って、単なるかっこいいを追求してる人、絵が上手い人と思われがちですが、そうではなくて、物事を正しく捉えて、それを正しくみんなに伝えるのが仕事としてのデザインです。なので、正しく使ってもらえる言葉選びや定義になっているか。ミスリードする可能性はないかはずっと意識していました。
ちょうどデザインの対象を媒体やモノからコトにシフトさせていこう、組織をデザインしようと思っていたタイミングだったので、いい経験になりましたね。
ー 自身もチャレンジだったんですね。そんな中どうやって手応えを掴んでいかれたのでしょう?
とにかく齟齬があってはいけないので、僕自身が少しでも気になったことはわかるまで永崎に質問し続けました。「『豊か』は金銭的な意味ですか?」とか「家族もハッピーということですか?」とか。100回くらいは質問したんじゃないかな。永崎もとことん聞けという感じだったので、思いっきり甘えました。
ー 2年にわたる期間で最も印象深いエピソードを教えてください。
実は、カルチャーブックの特徴でも触れた「根源」である「仲間を大切に高め合い、正々堂々真心込めて」という言葉自体は僕が考えたものです。永崎やリーダー層が考えた言葉ばかり並ぶ中で、これだけ自分が作ったということで、Space BDの歴史に自分が刻み込まれた感覚があります。
ー そうだったんですか。「根源」はなぜ作ろうと?
「大切にしていること」の3つはすでに定義されていた中で、想定外の出来事がいくつか起こりまして、「この3つじゃ足りないのでは?」という話があがるようになりました。人間性を補えるような4つめを作るか、別個建ての言葉を考えるか。3ヶ月くらい永崎が考えあぐねていたのを横目で見続けていたので、思い切って提案したら採用されました。

ブランドもカルチャーもデザインし続けたい
ー ようやく完成したカルチャーブック、メンバーからはどんな反響がありましたか?
数名に聞いたところ、このような感想をもらいました。
創業以来の歩みが丁寧に肉付けされ、単なる理念ではなく、実践の積み重ねによって磨かれた価値観として綴られている深みと温かさに、胸が熱くなった
視覚的にも分かりやすく、家族に会社を紹介する際にも使いやすかった。妻に『なんか熱い会社だね(笑)』と言ってもらえた
今まで社内で大切にされていた考えが『言葉の相関図』としてレイヤー毎に整理されたことで、自分の行動に移す際の指標として捉えやすくなった
3つの『大切にしていること』の解説、その中でもとりわけとりわけ『未来を創る脚本家』の解説が好き。思想やスタンスを言語化するのは根本的に難しいが、各自が対峙している状況を浮かべながら指針にできる解説がされている
こういったポジティブなフィードバックとともに「社内浸透や採用でどれだけ活用していくかが勝負だよね」といった声も多数寄せられ、全社一丸で取り組んでいくべきだと各自が認識しているとわかったのも嬉しかったです。
ー これからカルチャーブックはどう活用していく予定ですか?
やはり社内のみんなには腹落ちしてほしいので何回も読んでほしいですね。無垢な気持ちで見ないと言葉が頭に入ってこないはずなので、1個いっこ、突っ込んでたらもうキリがないじゃん、というくらいの思いで読んでほしいです。
カルチャーブックは完成がゴールではないので、事あるごとにみんなで読む機会を作ったり社内で発表したりして浸透させていく予定です。
さらには社内だけでなく社外の方にもSpace BDやSpace BDのカルチャーを知ってもらうチャンスになるので、外部発信も積極的にやります。僕個人で「Space BDカルチャー研究室」なるnoteを立ち上げて僕なりの視点で言葉の解説や製作秘話、さらにはユニークな社風などカルチャーに関するさまざまなことを書き続けてみようと思います。
ー 最後に、Space BDのデザイナーとしての今後の目標を教えてください。
僕は「デザイナー」という肩書は捨てるつもりは一切ありません。ブランディングという仕事を通じて、Space BDそのもののブランドとSpace BDのカルチャーのふたつをデザインしていくつもりです。
もちろん、見た目の格好良さも追求し続けます。展示ブースやチラシ、どんなに小さなものでもしっかりデザインして他社からも引けを取らないクリエイティブを生み出し続けたいです。その上でカルチャー・組織のデザインを通じてどんどん会社を大きくして、大きな会社の大きな基盤を作れる人でありたいと思います。

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