見出し画像

【宇宙開発とビジネス】宇宙ベンチャーCTOが語る宇宙エンジニアの仕事

Space BDが宇宙業界のトレンドやキーワードを解説していく連載・オープンファクトブック「宇宙開発とビジネス」。第2回は宇宙エンジニアの実態に迫ります。CTOの本多に仕事内容やどんなメンバーがいるかなど、詳しくお聞きしていきたいと思います。

宇宙エンジニアは「特殊な職業」ではない

ー まずは自己紹介をお願いします。

はい、宇宙に関わって30年以上になります。ファーストキャリアでは株式会社IHIに入社し、国際宇宙ステーションの日本実験棟である「きぼう」の船外プラットフォーム開発に約20年携わってきました。協力会社も含めてトータルでエンジニア約100人規模のプロジェクトで、システム全体の取り纏めを担当していました。

2016年にIHIを退職後5年間JAXAに在籍し中型実験装置アダプタ(i-SEEP)を初めとする船外の実験装置開発を取り纏め、2021年4月にSpace BDに入社しました。現在は入社して約4年近くになり、CTOに就任してから1年以上経ったところです。

ー 宇宙エンジニア一筋のキャリアですが、最初に宇宙に興味を持ったきっかけは?

NASAのアポロ計画をテレビで見たことです。1969年、幼いながらアポロ11号が月面着陸に成功したのをテレビで見てすっかり宇宙に魅了されまして。宇宙に携わろうと考えたときに、将来仕事にするうえでの現実的な選択肢として大学で工学部を専攻し、エンジニアリングなどの知識を身に着けていきました。

ー そもそも宇宙エンジニアとはどのような職業なのでしょうか?

ニッチで特殊なイメージを持たれることが多いですが……工学部を出てメーカーに入って物を作る仕事をするエンジニアという職種の延長線上にあると思います。

もちろん大学でも宇宙に特化した専門の学部や講座はありますが、基本的には普通のエンジニアと同等に基本的な要素である4力学(材料力学、流体力学、熱力学、機械力学)から勉強し、最終的に仕事として「宇宙」という環境を選ぶ、という感じでしょうか。

仕事内容としては宇宙に持っていくハード/ソフトウェアなどを対象としたエンジニアリングです。機械工学、電気、ソフトなどの周辺知識を用いて宇宙で使用できるようお手伝いをしています。

ー ベースは一般的なエンジニアと変わらない一方で、宇宙ならではの仕様で設計していくところがユニークさということですね。

そうですね。宇宙に持っていくハードウェアを扱うため、空気がない、温度環境が厳しい、ロケットの振動に耐える、放射線を浴びるといった宇宙ならではの条件を考慮したものづくりやソフトウェアの設計が求められます

ー 一口に宇宙エンジニアといえど様々な業務内容がありそうですが、Space BDのエンジニアと他の宇宙関連企業のエンジニアの違いは?

Space BDは事業内容上、基本的に物を作るメーカーではありません。エンジニアリングサービスを提供しているので、仕事としてはユーザーインテグレーション、システムインテグレーションがほとんどです。工場内で製品を効率的に作るための生産技術をやるエンジニアは基本的におらず、お客様の人工衛星、実験装置などを宇宙に持っていくためにインターフェースやインテグレーションの調整・支援をおこないます。

例えば扇風機を設計するとしましょう。羽は何枚で、このくらいの出力のものを作ってほしいという要求通りにつくるエンジニアに対し、我々は「だったら羽は不要ですね」など全体を踏まえて要求そのものを定義してシステム全体をまとめるエンジニアを目指しています。要は機能も考えた全体の仕事もするということです。

そうなると、お客様との密なコミュニケーションが求められるのもそうですし、先方の要望を伺って各種の関連会社との調整を行うことも少なくありません。プロジェクトマネジメントが肝要になってくるので、一つのことを掘り下げるというよりは、いろんなところに気が効くエンジニアが活躍しています

ー Space BDのエンジニア組織はいま現在どのような構成ですか。

現在、Space BDのエンジニアは社員の1/3ほどにあたる約20数名で、事業領域に合わせて4グループに分けて仕事をしています。大学で航空宇宙を学んだ人が王道ではありますが、全く宇宙に携わっていなかったことがない電気・機械系、理学部出身の人もいます。

男女比は女性はまだまだ少なく2名ですが、年齢層はけっこう幅広く、シニア層は5名、40歳代は数名、30代前半が10名弱、20代が6名という構成です。

事業開発メンバーとの密な連携がプロジェクトの命運を分ける

ー Space BDのエンジニアの具体的な仕事内容を教えてください。

ユーザーインテグレーション系のエンジニアリングの範囲で留まる場合と、開発までおこなう場合とあり、プロジェクトによって業務内容は変わります。

ユーザーインテグレーション系の業務では、たとえば小型衛星を打ち上げたいというお客様に対して、どのタイミングでどのロケットでどう打ち上げたいかをアレンジメントします。衛星自体は先方が作り、Space BDはインタフェースの支援を行い、ロケット会社にお渡しします。単純に持っていけば搭載できるようなものではないので、安全面に最大限配慮しながら振動などの条件を満たせるよう調整し、必要あれば追加の試験の提案などもしています。

小型衛星のユーザー支援業務は、先方のハードウェアにもよりますが、ひとつの衛星に対して平均して1年半~2年ほど関わります。複数の衛星がある場合は同時並行して管理する必要があり前述のとおりプロジェクトマネジメントが重要です。また、衛星の特徴はあれど標準化できる業務もあるので効率化も図っています。衛星ひとつのハンドリングであればエンジニア2名で対応できますが、4-5人で5つ以上の衛星を担当することもありますね。

ー 開発まで入り込むプロジェクトにはどのようなものがありますか。

いま進行中のものだと月を周回する小型衛星を開発し水資源マップを作る「TSUKIMI」という総務省のプロジェクトがあり、Space BDではこの衛星の基幹機能をもつバス部の開発を担当しています。センサーの部分は他の研究機関や大学の先生方がつくっていますがバスシステムとして全体をまとめるのは弊社のメンバーが担っています。

ー ユーザーインテグレーションとはまた違った動き方が求められそうです。

はい。ひとつの衛星として成立させつつバス部をつくる必要があるので、全体の構成を理解しつつハードウェアが作れる状態まで文書作成や開発を進める必要があります。お客様がつくった衛星とロケットのマッチングに留まらずに開発自体を主導する必要がある点は大きな違いですね。これは5年がかりの大規模プロジェクトなのもあり、開発を主導しているメンバーは8人ですが、必要に応じ他のエンジニアも支援しています。

ー Space BDのエンジニアが使用する技術やツールはどのようなものがありますか?

たとえば人工衛星の作図にはCADを使用し、熱流体解析ツールや構造解析ソフトウェアなども活用しています。一部特殊なものもあるかもしれませんが、一般的なメーカーのエンジニアの方がよく使うツール・技術とそんなに違いはないかと思います。コミュニケーションツールはSlackです。

ー Space BDはお客様ありきのプロジェクトになるので、お客様やエンジニア同士はもちろん、それ以外のチームとの連携も欠かせないと思いますが、実際のところはいかがでしょう。

弊社のエンジニアは事業開発メンバーとかなり近い距離で仕事をしていますね。事業開発メンバーが持ってきた案件について一緒に話を聞きに行ったり、この案件とあの案件は繋がりそうだと共有したりと密に連携しています。縦割りの会社だとセールスはセールスで、エンジニアはエンジニアで……となりがちですが、そのあたりはスタートアップならではのフットワークの軽さを活かせているかなと思います。

週1でのエンジニアと事業開発メンバーでの定例ミーティングや、ツールを介したスケジュール等の情報連携などは欠かせません。自分から事業開発メンバーに情報をどんどん流してもらうくらいアンテナを高く張ってもらっています

気が効く、気を回せるエンジニアであってほしい

ー 改めて、宇宙エンジニアの魅力について教えてください。

魅力はなんといっても「宇宙」という特別な環境に持っていくチャレンジングさです。簡単には修理できないものを対象にしているので、実際に入社したメンバーからも「思っていた以上に難しい」という声があがります。でも、だからこそ面白がってもらえるんです。若手だけで悩む必要は全くなく、シニアメンバーがサポートしながら挑戦できる環境がSpace BDには整っていますし。

ー 環境面以外で難しさや課題だと感じるところはありますか?

やはりスケジュールをいかにきっちり管理できるか、でしょうか。ロケットに引き渡す時期は変えられないため、それに合わせてプロジェクトを進める必要があります。

みなさん当たり前のようにハードウェアができて打上げられると思われていますが、地上での試験などを実施すると不具合を起こしたり要求された性能が出なかったこともあるんですよね。そういう想定外を加味したりキャッチアップしたりしながらスケジュール通りに進めるのが非常に難しいんです。それができてこその仕事なんですけどね(笑)

ー Space BDのエンジニア組織について、今後の展望を教えてください。

直近は採用ですね。ひとりがひとつの仕事に責任をもってじっくり向き合える健全な体制を作り、エンジニアとして専門性やマネジメントなど多様なキャリアを歩める組織にできたらいいなと。

加えて、新しいことを発想する時間を増やせる環境を整えるつもりです。とにかくチャレンジすることが大切なので、失敗を恐れずにいろんな方向に目を向け気を回せるような仕事をしてほしいです。すでに月1でエンジニア内で全体会を開き、担当以外のプロジェクトの進捗等や、出張・講習内容の共有する場は設けています。

ー 最後に、これから宇宙業界を目指すエンジニアの方々へメッセージをお願いします。

宇宙エンジニアって別に特殊な職業ではないんです。みなさんがやっている仕事も宇宙につながっていると前向きに、いい意味で気楽に考えてもらえたら嬉しいです。Space BDでは若手エンジニアも増えていますし、なにより宇宙業界自体がいま高い注目を集めているのでこれ以上にないチャンスに溢れているのが今です。少しでも興味があれば、ぜひ足を踏み入れてみてください。

We're Hiring🚀

Space BDではエンジニアメンバーを募集しています。インタビューの通り宇宙関連の知見や業界経験は必ずしも問いませんので、お気軽にエントリーください!

いいなと思ったら応援しよう!