short story series『知らない』 person 37
作・木庭美生
竹田忠臣。42歳。会社員。
ドアに挟まるんじゃないか。
いや挟まらない。
ちょっと指を伸ばしたらドアに挟まる。
満員電車を楽しむ方法を探す。
今日もまた満員電車だった。
いつもと同じ電車だしわかってるけどいつもやっぱりちょっと今日は少ないんじゃないかと期待してしまう。まあ期待虚しくいつも人は多い。
満員電車は嫌いだ。どこから満員電車と言うのかわからないがぎゅうぎゅう詰めだしたぶんこれは満員電車と呼んでいいだろう。満員電車はきつい。朝はやる気が周りに吸収されていく気がするし会社帰りの少ない体力も持っていく。それに臭い時もあるしマナーのなってない人がいる時もつらい。満員電車いいことないな。好きなやついるのか。
何も楽しくないし面白くない。だから楽しむ方法を探す。ときどき冷静な自分が40過ぎたおじさんがアホかと思ってるのを感じるけれど、おじさんが楽しもうとしたっていいじゃないかと冷静な自分を止める。おじさんだって楽しいことはしたいもんな。うん。
せっかくドアのそばにいるのだしなにかやれないかな、外に向かって変顔か、隣の人にバレたら恥ずかしいからやめよう。やっぱりドアに指を挟んでみようか、普通に怒られそうだな。
満員電車の中で小さく踊ってみようか、身動き取れないな。うう、何をしようか意外と思いつかないな。難しい。
最寄り駅まで別にそこまで遠くもないし、面白いことをする勇気もなく最寄り駅についたので普通にそのまま降りて帰る。あとは明日の自分に期待しよう。
2018年12月12日