short story series『知らない』 person 27
作・木庭美生
占部颯太。15歳。男。
事実は小説よりも奇なり。誰か知らない誰かの言葉。いつ誰が言ったのか全然知らない。
でもとりあえず、この言葉を最初に言った人はもっと現実を見るべきだと思う。
だってどう考えても現実よりも小説の方が不思議なことが起きる。
現実なんてつまらない。
親はすぐに怒るし、友達との人間関係だってめんどくさい。
小説だったらすぐに殺人事件が起きたり、魔法が使えたり、超能力があったり。
小説の方がずっと不思議でおもしろい。
こんなつまらない現実なら小説の中にいたいよ。
僕が小説の中に入るなら今より頭が良くて、女の子にモテる、超能力が使える男になりたい。
どっかにありそうな設定だけど小説の中なら別にいいだろ。
なんて、バカみたいだ。ただの現実逃避だ。
毎日が退屈で、何か面白いことが無いか探してる。どこかで事件でも起きないかな。
最初に言ったの誰なんだよ。ほんと現実見るべきだと思うけどな。
最初に言った人の周りはすごい面白いことばっかり起きてたのかな。うらやましい。
すごくモテるやつだったのかもしれない。うらやましい。
現実逃避。いつまでしてるんだろ。事実は小説よりも奇なり、か。
僕の現実。内田さん。退屈な毎日の中の僕の天使。
せっかく放課後の教室に呼び出したのに。来てくれないな。
ああ、僕の現実も小説みたいになればいいのに。
2018年11月28日