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【レビュー】EPOCH MAN「我ら宇宙の塵」

次の作品について、
皆さんに一つ聞きたいことがあるんです


2022年4月。新宿で行われたトークイベントで小沢さんが言った。

「次回作の登場人物なんですけど、一人芝居をやるか、今までやったことがない3人以上の作品にするか迷っていて。どちらををみたいですか?」
後者が多かった。だから今回の情報が発表されたときに、あの場所にいた人はこの出来事を思い出したんじゃないだろうか。(伏線回収!)


場所は初めて訪れる新宿シアタートップス。行ったことのない場所へ連れて行ってくれるのが演劇の魅力の一つだと思う。いつもだったら絶対に行かない場所。見ない景色。演劇を見るという目的があるからこそ、周りの景色に出会う。




※ここから、ストーリーや演出について
ネタバレあり

宣伝美術:藤尾勘太郎





本番まで明かされない謎。

今回一番の謎になっていたのは登場人物だった。パペットの名前、星太郎以外の配役は公開されていなかったので想像もほとんどできなかった。
あらすじから推測できたのは、母がいておそらく父は亡くなっていること。
何かを失った人たちの話だということ。(父が何らかの形で出てくる可能性もあった)
インタビューでぎたろーさんはおばあちゃん役だと知っていたが、おそらく星太郎の家族ではない。

今まで役が想像つく少人数でやってきたからこそ、役名がわからない新鮮さに胸を躍らせていた。




パペットの意味。

今回、あえて当日渡されるパンフレットに書いてある役名は見なかった。
誰が誰を演じるのか自分の目で0から発見したかった。
そして小沢さんをみた瞬間、星太郎だと分かった。見た目もそうだけど、あどけなさと危うさを纏っていた。
始まる前、ポツンと置かれているパペットは「モノ」だった。これが果たして生きている子どもに見えてくるのだろうか。不思議でたまらなかった。

母は「何を考えているかわからない、普通でいてほしい」と度々繰り返す。表情を変えないパペットに向けられた言葉でもあったと思う。動かす小沢さんにも「何を考えているんだろう?」と思ってしまう。
でも、街ゆく人と出会って死んだ人はどこにいくのか、人によって違う考えを聞くたびに星太郎の心の中で変化が起きる。その変化がだんだん仕草や表情に出てくる流れがとても繊細だった。近くの席だから見えた景色だったかもしれない。

パペットといえばNTLive 「The Book Of Dust」(ライラの冒険の前日譚)。小沢さんも観に行ったようで、間違いなく影響を受けていると感じた。小沢さんの靴の上に星太郎を乗せて動かしていくので、星太郎を上から見下ろす形になる。
(ビジュアルと同じ)


しかし、後半で星太郎を椅子に座らせて前に出てくる瞬間があった。
心なしか、小沢さんの表情が前半に比べて緩んでいた気がした。それは、星太郎の心がほぐれてお母さんと和解できたことだったり、人との出会いによって何かが変わっていくわずかな心境の変化を少しずつ表現した結果だと思う。


声で表す効果音。

風だろうか、呼吸と息を使って表現された音は今まさに私が観たい景色だった。体を使って作り出す音。
やっとみんなが自分の答えを出して、星太郎はやっと自分を認めてもらえたと安心する。
母も、自分が抱えたエゴに気づく。

深く、勢いよく吸った後に消える照明。ちゃんと息を吸った証拠に、吐く音が闇に響く。呼吸は数だけではなく、吐くまでだと気づく。

余韻が漂う。

すっかり物語の中に引き込まれて呼吸が浅くなっていたことに気づき、深呼吸をした。



現代×アナログの融合


①舞台を囲む小宇宙。


LEDライトを使った3.5mの壁が今回、注目の一つでもあった。
メイキング動画でキャストが驚いたように私も同じ反応だった。無意識に体がのけぞった。予想を超える光に周りの客さんの息をのむ気配を感じた。
星太郎が何かを書くたび、子どもが描いたような線が壁に映し出されていく。そのあどけなさが好きだった。




②あらがえない死

鷲見(渡邊りょう)が過去を語る場面。白い紐が上手(かみて)から真っすぐに舞台を横切る。鷲見は、じっと見ている。
LEDの壁に映し出される心電図。波形の波がだんだん、平坦になっていく。


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まっすぐになる。  静寂に響く、機械的な音。


鷲見は手を伸ばす。まるで、崖から落ちる瞬間に命綱を掴むように。

紐が地面に落ち、地下へ吸い込まれていく。



・・・届かない。


その場に崩れ落ちる鷲見。肺が締め付けられる。自分の呼吸が止まるのを感じた。
顔を上げることができなかった。
過去へ飲みこまれそうだった。



それぞれが導く答え。


全員がたどり着いたところは何だったのか、細かくは思い出せないけれど、一瞬でも覚えている景色があるだけで観に行った価値がある。


亡くなった人は星になる、といったお母さんの答えは
間違ってないと思う。



星太郎がつぶやいた言葉に作品のすべてが詰まっていた気がする。
人と出会い、母の想いを知り、本を読んで思考を整理してたどり着いた答え。



人が出会わなければ気づかなかった。失ったものも、育ってきた場所も違うけれど、いつかは訪れる死。一つ間違えれば苦しさだけを抱えるテーマだが、丁寧に優しく掬う作風は安心して観ることができる。

誰にでもある触れてはいけない、のぞいていいのかわからない内側。
キャラクター全員が、心の内側にある苦しさを曝け出した。



こんな物語が好きなんだ、と気づく。見てはいけないもの、普段隠して強がっている人の柔らかな部分。



こんな自分でもいい、無理やり変わろうとしなくていい。
私一人だけじゃない。



小沢さんの作品を観るたび、励まされて劇場を出ていける。俳優と話はしないけれど、心の奥深くになぜか、登場人物たちと会話をしたような感覚が確かにある。お客さんとつながるって、こういうことかもしれない。



次はどんな作品に出会えるだろう。私は何をしているだろう。




舞台写真は小岩井ハナさん。さらに舞台写真を見たい方はこちら!


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