税効果会計とPillar2

2024年4月1日以後開始事業年度において、Pillar2におけるIIRルールが導入され、各対象会計年度の国際最低課税額に対する法人税の規定が適用されることとなりました。
国際最低課税額の計算方法やSHによる適用免除基準などの基本的な事項は割愛し、ここではPillar2における税効果会計を取り上げてみます。
が、あまりにも規定が難解で分量も異常に多いので、基本的な部分のみに限定します。それでも長いので眠れない時におすすめです。よく眠れます。


繰延税金費用について

国際最低課税額の計算上、税効果会計の知識が不可欠です。具体的には、国際最低課税額の計算上、ETR計算の分子である調整後対象租税額を算出する際に、法人税等の額に「繰延税金費用」を加算して計算することとされています。

ここでいう繰延税金費用とは、日本の会計基準でいうところの法人税等調整額を指していますが、本法法令においては繰延税金費用という税法独自の用語として規定されています。国際最低課税額の計算上、繰延税金費用は特定財務諸表の作成の基礎となる個別財務諸表、つまり最終親会社の連結財務諸表を作成する際に用いられた個社の財務諸表に計上されていた法人税等調整額を用いて計算を行うこととされています。ただし、法人税等調整額の金額をそのまま繰延税金費用として使用することはできず、一定の調整が必要とされています。

一定の調整の具体例として基準税率への引き直し計算が挙げられます。
国際最低課税額の計算上、繰延税金費用として使用される金額は、法人税等調整額を基準税率(15%)で引き直したものが使用されます。つまり、税効果で用いられる実効税率が25%だろうと5%だろうと、15%で再計算を行う必要があります。このことをモデルルールではRecapture(リキャプチャ)と呼んでいます。なので、基準税率で引き直したものを「リキャプチャされた繰延税金費用」と呼ぶと分かってる感じがでるのでお勧めです。

その他にも個別計算所得で除外された項目が一時差異に含まれる場合など一定の調整が必要となりますが、長くなるのでここでは割愛します。

評価性引当額の取り扱い

会計上の評価性引当額とは、将来減算一時差異等に係る税金の額から、将来の会計期間において回収が見込まれない税金の額をいい、通常、評価性引当額が控除された金額が、会計上の繰延税金資産としてBSに計上されることとなります。しかし、国際最低課税額の計算上は当該評価性引当金の計上は無かったものとして取り扱われます。

本法法令上、評価性引当額という単語は使われていません。その当期純損益金額に係る繰延税金資産の算定に当たり繰延税金資産から控除された金額がある場合には、その金額はないものとされており、太字部分がいわゆる評価性引当額を指しています。

評価性引当額を除外する趣旨については、欠損金が生じた年度において評価性引当額により処理することで欠損金に係る繰延税金資産が計上されないことがありますが、その計上時期の差異を是正するためと言われています。

つまり、欠損金が生じた年に、会計上は欠損金に相当する税効果の全額を評価性引当額として取り扱った場合であっても、国際最低課税額の計算上は、当該評価性引当額の全額を繰延税金資産として取り扱います。これにより、将来その構成会社等で所得が生じた場合に、欠損金の利用により法人税等が0であった場合であっても、繰延税金資産の取り崩しにより繰延税金費用を認識することでETRが不当に減少することを避けることができます。

国際最低課税額を計算する上では、評価性引当額を考慮する前の一時差異ベースでの繰延税金費用を把握することが重要になります。しかしながら、海外子会社の個社の一時差異の内容を正確に把握している親会社は少ないと思われるため、いかにして正確な情報を収集するかが大きな課題となってきます。

取戻繰延税金負債の取り扱い

もうそろそろ誰も読んでいないと思いますが、構わずに続けます。

取戻繰延税金負債とは、過去対象会計年度に計上された繰延税金負債のうち、過去対象会計年度の5対象会計年度後の対象会計年度の終了の日までに取り崩されなかった部分を言います。当該取戻繰延税金負債については、当初計上時の繰延税金負債の計上が過大であったとして、過去対象会計年度について再計算国際最低課税額の計算による調整が必要となります。

国際最低課税額の計算においては、過去対象会計年度において計算された調整対象租税額が増加した場合には当期の対象租税額として取り扱い、減少した場合には、その過去対象会計年度の国別国際最低課税額を再計算するというルールになっています。ただし、再計算といっても更正の請求を行う訳では無く、再計算国際最低課税額を当期の国際最低課税額に加算することとされています。

また、特例として繰延税金負債のうち、その対象会計年度の5対象会計年度後の終了の時までに支払われることが見込まれない部分に係る金額がある場合には、当該金額を前もって繰延税金費用から減算することも選択できます。これにより、将来再計算を行う必要が無くなると考えられます。

いずれにせよ、将来加算一時差異についてのスケジューリングについての情報が必要ということには変わりがありません。

みなし繰延税金資産相当額の取り扱い

海外子会社によっては会計上の重要性の観点等から、個社で税効果会計を適用していないケースが多々あると考えられます。
税効果を適用していなければ、これまでの話は関係ないと思われるかもしれませんがそうではありません。残念でした。

みなし繰延税金資産相当額とは、税効果の適用が無い、もしくはその国で繰越欠損金が認められていない場合であっても、繰延税金費用の代わりに、国又は地域の国別グループ純損失の金額に基準税率(15%)を乗じて計算した金額をいい、当該金額を調整後対象租税の額に含めることができるとされています。

国際最低課税額の計算上、外国子会社合算税制のように個社の繰越欠損金を個別計算所得金額の計算上使用することはできません。そのため、繰越欠損金に相当するみなし繰延税金資産相当額をETRの分子に算入することで、ETRが不当に減少することを避ける効果があります。

趣旨としては、構成会社等が法人所得税が無い又は繰越欠損金を認めていない国又は地域に所在する場合に、繰延税金資産が計上されれないことへの対応とされています。ただし、当該特例は無税国や繰越欠損金を認めていない国又は地域に限定されておらず、また、税効果会計を適用している場合であっても、それに代えて適用することが可能とされています。

ただし、本特例は移行対象会計年度においてのみ適用開始が認められる特例なので、その国又は地域において国際最低課税額の対象となる最初の会計年度において選択する必要があります。また、一度取りやめた場合には再度本特例を使用することはできないこととされています。

おわりに

ここまで、Pillar2における税効果会計ということで、繰延税金費用に関する取扱いについて取り上げました。

ここまでの説明でご理解いただけましたでしょうか?私は完全に理解していません。

上記の取り扱いは一部であり実際にはもっと難解で複雑怪奇な規定となっており、誰が正しく計算できるのだろうかという疑問しかありません。

残念ながら私はただの税理士であり、税効果会計に明るくないので、会計のプロフェッショナルである公認会計士の先生にPillar2に関する申告業務の権限付与を行った方が良いのではないかとすら考えています。

とりあえず興味がある人は今すぐBig4へ行ってPillar2がやりたいですと言ってみてください。多分歓迎されます。知らんけど。


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