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《トルコ情報》 ロクム

新食感で世界にもてはやされたトルコの伝統菓子 
日本人には慣れ親しみのある食感が世界中の人々を魅了した 

文・撮影/市川路美 

新しく生まれ変わったトルコの伝統菓子ロクム

映画「ナルニア国物語」の中で、白い魔女が主役の一人である4人兄妹の次男エドマンドを誘惑するために使ったお菓子をご存知ですか? 映画の中でエドマンドがあまりにも美味しそうに、しかも兄妹を裏切ってまで欲していたお菓子なので、何時か絶対に食べてみたいとずっと思っていました。

白い粉がついた四角いお菓子の正体は、ロクム(Lokum)と呼ばれるトルコの伝統菓子。日本の求肥のように時間が経っても硬くならない、もちもちした食感が特徴のお菓子です。その独特の食感は、砂糖を溶かしたお湯にデンプン粉を加えて練って作ります。ロクムは食感だけでなく、ナッツや香料を使って様々な風味を出すバラエティの豊かさも魅力の一つで、トルコを代表するお菓子となっています。

トルコの伝統菓子ロクム

ロクムはオスマン帝国以前から存在していた歴史の古いお菓子です。17世紀にオスマン帝国の領土が拡大されると共に、バルカン半島や東欧などを中心に、広い範囲の国々へと広まりました。当時は水と蜂蜜を小麦粉で固めて作っていたので、現在のロクムよりかなり固めの仕上がりでした。

ロクムが今ある弾力のある柔らかさを持つようになったのは、18世紀にドイツの科学者によって発見されたデンプン粉のお陰です。18世紀後半にイスタンブールで砂糖菓子店を営んでいた菓子職人が、小麦粉の代わりにデンプン粉を使用してロクムを作り始めました。今までにない不思議な食感のお菓子となったので、瞬く間に大流行しました。新しく生まれ変わったロクムの名声は、オスマン帝国の宮殿内にも届くようになり、ついには皇帝の心をも魅了します。

イスタンブールの菓子職人は、オスマン帝国の第一等勲章を授かると同時に、飴作り職人の長となりました。デンプン粉で作る新ロクムは、王室御用達のお菓子となっただけではありません。オスマン帝国は各国の国際見本市に、新生ロクムをトルコの伝統菓子として出品しました。ロクムは1878年のウィーン万博で銀賞、1888年のケルン国際展示会で銀賞、1897年のブリュッセル万博で金賞、1906年のパリ国際見本市で金賞を受賞します。

世界を驚かせた食感

各国の見本市で大きな成功を収めた事で、ロクムの名声は世界中に広まりました。同時進行でイギリス人旅行家がロクムをイギリスへ持ち帰り、ターキッシュ・デライト(トルコの悦び)と名付けてイギリス国内で販売を始めます。

ベーシック系のロクム

ロクムの食感は本当に独特です。柔らかく、もちもちした弾力があり、硬めのわらび餅、もしくは柔らかめのゆべしみたいな感じでしょうか。日本の和菓子にはありそうな食感なので、日本人には親しみを感じます。ヨーロッパの人達にとっては、全く初めての食感でした。

イギリスで大流行すると直ぐにヨーロッパ全土、そして世界中に広まりました。ロクム独特の食感が、世界中で新感覚スイーツとしてもてはやされたのには納得がいきます。だからこそ日本の餅系の和菓子や寒天も、影響力のある人が海外に持ち出してくれていたら、トルコのロクムのように世界中を虜に出来たかもしれません。日本では本家であるトルコの「ロクム」ではなく、イギリスの「ターキッシュ・デライト」の名の方で定着しています。

トルコの伝統菓子ロクムの作り方は、意外と簡単です。鍋に水と砂糖を入れて火にかけ、コーンスターチを加えます。トロトロしてきたら香料やナッツ類を混ぜて更にヘラでしっかり練ります。しっかり練る事で、ロクム独特の弾力のある柔らかさが生まれます。出来上がった生地をデンプンをまぶした型に入れて冷まし、固めてから小さく正方形にカットして、最後にデンプンと粉砂糖をまぶしたら出来上がりです。時間が経っても柔らかいままなのですが、若干固くなります。風味も失われるので、手作りしたら出来るだけ早く食べた方が美味しいです。

バリエーション豊富なロクム

トルコでは特別な日の食卓に必ずロクムが登場します。誰かの家にお呼ばれした時は、手土産として持参するお菓子の定番です。トルコ人が結婚の申し込みに行く時は、伝統的にロクムを手土産にするのがしきたりにもなっています。ロクムは最長で6か月位の賞味期間があるので、プレゼントやお土産に最適なのです。

ロクムの作り方は意外と簡単で、トルコの人達は何でも自分で手作りする傾向があるのですが、ロクムだけは専門店で購入します。ロクム独特の食感を出すには、職人や機械の細やかで確かな技術が必要で、手作りでは難しいとされているからです。

そして何よりも、ロクムは色々な種類を味わいたいので、お店で購入した方が楽しいのです。トルコでバザールと呼ばれる市場を訪れれば、ロクム専門店を沢山見つける事が出来ます。

トルコの市場
ロクム専門店が並ぶ

本当に沢山の種類があるので悩んでしまいますが、市場でなら味見をさせてもらえるので、自分好みのロクムを見つける事が出来ます。お店の人におまかせで色々な種類のロクムを箱に詰めてもらって、自分では選ばない系の味を試してみるのも楽しいです。

箱詰めのロクム

ロクム専門店には、小さくカットされたロクムの他に、棒状のロクムも売られています。色々な種類のロクムを少しづつ楽しむのなら、カットされたロクムが最適です。でも棒状のロクムの方が、一般的に具が豪華です。食べる直前に少しずつカットして食べます。

棒状のロクム

ロクムは日本人的にはそれほど不思議な食感ではないので、バリエーションの豊かさの方に魅力を感じるのではないでしょうか。クルミ、ピスタチオ、アーモンド、ヘーゼルナッツ等のあらゆる種類のナッツ類、チョコ、ココナッツ、ドライフルーツなどを練り込み、ハーブや香料などを組み合わせて味を付けます。

チョコチップやナッツ入りロクム
最近人気のチョコクリーム入りロクム

棒状のものだと、ロクムの周りを更に色々な物でトッピングするので、口の中に色々な食材と食感が溢れて本当に楽しいです。日本の和菓子のような食感から親近感がありますが、日本ではあまり馴染みのないナッツ類や、ミントやローズウォーターなど香料を練り込んで香りや味を作るので、食感以外はかなり異国風です。

ローズの花入りロクム

ロクムの楽しみ方

イギリスに渡ったロクムは、独自の形にも進化しました。通常ロクムはデンプン粉を使って作られますが、イギリスではゼラチンを使って作るバージョンも生まれました。ゼラチンは豚の皮膚や骨などの主成分であるコラーゲンに熱を加えて抽出するので、トルコをはじめ豚を禁じているイスラム教徒の国々では使用する事が出来ません。

ゼラチンで作るロクムは、デンプン粉のロクムより固い仕上がりとなります。そのロクムをチョコレートでコーティングしたものも、ターキッシュ・デライトとして世界中で販売されています。

ロクム、またはターキッシュ・デライト、かなり甘いので、濃いブラックコーヒーと合わせて食べると丁度良いかと思います。トルコ人もロクムを食べる時はコーヒーを飲みますが、そのコーヒーにも大量の砂糖を入れます。ロクムは苦味との相性が抜群なので、日本の抹茶ともよく合うのではないでしょうか。

長年食べたいと思い続けていたお菓子にやっと出会う事が出来ました。ロクムを食べながらロクムの歴史を聞いていたら、ロクムを世界へ送り出したイギリス人のように、世界の美味しい物を素材のちからを通して皆さんに紹介して、日本へ広める役割を担いたいとも思いました。 


(2022年3月31日発行「素材のちから」第44号掲載記事)

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