ふんわり、ふわふわ!
カリッとしたフリッターの衣に包まれた白身魚の身は、ふんわりやわらか。
塩とビネガー、レモンの香りも添えよう。
このフィッシュ&チップスは、パンガシウスの淡白な風味と歯ざわりのやさしい食感を楽しむメニューだ。
文・撮影/長尾謙一
料理/横田渉
パンガシウスフィレ
(素材のちから第45号より)
「パンガシウスフィレ」は、タイやベトナムなど東南アジアで淡水養殖された白身魚。その淡白な風味とやさしいやわらかな身質は世界中でよく使われ、日本でも需要が急速に高まっている注目の食材だ。
コストパフォーマンスのよさが際立つ白身魚。
世界だけでなく日本でも急速に広がる需要
コロナが落ち着き、ようやくお客様が外食店に戻ろうとしているが、このところ続く食材の値上げに外食店は再び、より厳しい経営環境に置かれた。世界のサプライチェーンも断たれ、安価を競い合った食材も以前のようには手に入らない。
そこで今回、 パンガシウスを使いやすくフィレ加工した「パンガシウスフィレ」をご紹介したい。
パンガシウスはタイやベトナムなど東南アジアに生息する淡水魚で、東南アジア、アメリカ、ヨーロッパなどではよく知られた白身魚だ。イギリスやオーストラリアなどで親しまれる国民食〝フィッシュ&チップス〟や、カンボジアでは〝アモック〟と呼ばれるフィッシュカレーに使われる。
調べてみると、日本では財務省の貿易統計に初めてのったのが2012年で、輸入量は500トンほどしかなかったが、2017年には4500トンにまで増えているとあった。それからもう5年も経つから輸入量はもっと伸びているだろう。
大手のスーパーの魚売り場に並んでいるのをよく見るが、低価格で調理しやすい白身魚として人気もある。
外食店では比較的に安価な白身魚として、フリットやフィッシュバーガー、白身魚のフライやムニエルなど身近なメニューにも使われてきたが、今のように食材の値上がりが続く中では、外食店の経営を助けてくれるコストパフォーマンスの高い貴重な白身魚といえる。
火を入れると、ふんわり、ふわふわ!
それでは「パンガシウスフィレ」を調理してみよう。薄力粉、卵、ビールを混ぜ合わせてフリッターの生地をつくり「パンガシウスフィレ」につけて揚げ、〝フィッシュ&チップス〟をつくってみた。
パンガシウスの身は白身魚にしては弾力があり、鶏むね肉やささみをもっとしっとりさせたような感じだ。火を入れると身はふんわりとする。タラや太刀魚も身がふんわりとやわらかいが、パンガシウスはさらにふんわりしている。
このやさしいふんわり感は、タルタルソースと合わせれば間違いなくおいしいはずだ。フィッシュバーガーによく使われるのも大いに納得できる。
周りのコストアップに備えるために
メニューの試作を続けよう。今度は「パンガシウスフィレ」を天ぷらにしてみる。
サクッと揚がった衣の中からあらわれる身は、これもふんわりとやわらかで口の中で溶けるようだ。キスよりもやわらかで、価格もぐっと安い希少な白身の天だねとして使えるだろう。
次は、〝パンガシウスのスパイシーフライ〟だ。「パンガシウスフィレ」に塩をして、薄力粉、カレー粉、クミンシード、水でつくった衣をつけ、パン粉をまぶして揚げ、レモン、パクチーを添えた。
これをヨーグルト、レモン、ニンニク、ディル、塩、胡椒でつくったヨーグルトソースで食べる。淡白な身にカレー風味とクミンのアクセント、ご想像通りにおいしい。エスニックメニューもいける。
「パンガシウスフィレ」を中華のメニューにどうだろうか。片栗粉をつけてさっと揚げた「パンガシウスフィレ」に甘酸っぱい黒酢あんをかけて仕上げた。パプリカや揚げなすとの相性もよく、身は口の中でまるでとろけるようだ。淡白な白身魚はどんな料理にも合う。
パンガシウスを揚げるメニューを続けて試作したが、衣に包まれて火が入ることでやわらかさが引き立ち、淡白な身は油によって口溶けのよさを増す。パンガシウスは油ととても相性がいい。
最後に、〝パンガシウスの蒲焼重〟をつくった。パンガシウスは、うなぎに似た食感を持つことでも知られる魚だ。淡白な身のパンガシウスは和風の甘辛ダレともよく合い蒲焼にするととてもおいしい。
小骨がほとんどないため食べやすく、蒲焼には向いている。食べてみると確かにふんわりとした身の食感が似ている。うなぎに比べるとかなり低コストのため手頃な価格で蒲焼が楽しめるメニューができる。
このようにパンガシウスの淡白な白身は、料理への応用性は高い。まだまだ秋冬に向かって食材コストは上がっていくだろうし、光熱費も上がる。その対策として「パンガシウスフィレ」を使った白身魚のメニューを考えてみてはいかがだろうか。
(2022年6月30日発行「素材のちから」第45号掲載記事)