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《ペルー情報》 セビチェ
世界を魅了したペルーの国民食
世界が注目するグルメ大国ペルーを代表する料理がセビチェ。ペルー人だけでなく、世界を魅了した料理です。
文・撮影/市川路美
セビチェとペルーの関係
ペルーの首都、リマは海岸地帯に属します。
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この地域に住んでいる人達は魚介類を中心に食べていて、一人当たりの年間魚介類消費量が世界上位の日本と同じ位の数値となっています。好んで食べられているのはタコ、イカ、エビ、白身魚。それらを贅沢に使ったセビチェ(Cebiche)と呼ばれる料理が、ペルーを代表する国民食です。
セビチェはライムやレモンに短時間漬けた魚貝類に、スライスした紫玉ねぎを加え、唐辛子やパクチーなどの香辛料で味付けした料理。
色々な魚介類が使用されますが、一番ポピュラーなのが白身魚で作るセビチェです。シーバス、コルビーナと呼ばれるニベ科の魚、メルルーサ、アンコウ、ヨーロッパヘダイ、ヒラメ、オヒョウ、スズキを使います。白身魚だけでなく、エビなどの甲殻類、タコ、イカ、貝類、そしてあまり一般的ではありませんがウニなども使用して作ります。
ペルーを代表する料理ではありますが、それほど古い食べ物ではありません。柑橘系の果物がヨーロッパからペルーに伝わった後で生まれたレシピだからです。19世紀の末頃には、首都リマを中心に食べられていたとされていますが、当初はスペイン人が持ち込んだオレンジを使って、野菜などを加えずに魚だけのセビチェを食べていたのだそう。
ペルー人にとってセビチェは本当に特別な料理。国の文化遺産に指定されているほどです。街の至る所でセビチェ祭が催される6月28日のセビチェの日にリマを訪れれば、どれだけペルーの人達から愛されている料理かが分かるかと思います。
セビチェには色々な種類があります。魚の切り身だけを使ったセビチェがセビチェ・ぺスカード、貝類がセビチェ・マリスコ、海老を使ったものはセビチェ・デ・カマロン。
ペルーの子供達が椅子取りゲームをする時、日本ならフルーツの名前を使いますが、ペルーではセビチェの名前を使います。全員が席をチェンジしなくてはならない時は「フルーツバスケット」の指示を出す代わりに「セビチェのミックス」と叫びます。初めて見た時は微笑ましく、同時にカルチャーショックも受けました。セビチェがペルー人にとってどれだけ特別な料理であるかの証になると思います。
世界中で作られるセビチェ
セビチェは作る人によって味が異なります。材料を切って和えるだけの料理なので家庭でも簡単に作る事が出来ますが、ペルーの人達はレストランで食べる事を好みます。セビチェリアと呼ばれるセビチェ専門レストランが沢山あり、何処の店のセビチェが一番美味しいのかは、リマの人達が一番盛り上がる話のネタです。誰もが絶対に譲らないお気に入りのセビチェリアを持っているので、本当に美味しいセビチェを食べたいのなら、地元の人に聞いてみるのが一番確実です。誇らしげに自分のお気に入りの店を2~3件教えてくれるでしょう。
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セビチェは海岸地域のペルーだけに留まらず、メキシコやエクアドルなどの太平洋沿いの国々にも受け入れられました。世界で一番美味しい郷土料理を決める投票で常に上位にランキングされる事から、遂には世界中の人達をも魅了しました。今では日本の寿司と同じように、世界中の国々で食べられているインターナショナルな料理となりました。
世界各地で作られるようになったセビチェには、それぞれの土地に適したアレンジが加えられるので、各国で微妙に異なるセビチェが生まれます。日本のレストランで食べたセビチェは、麺つゆを加えて日本人好みにアレンジしていました。本場ペルーの味も勿論美味しいのですが、その土地の風土気候に合わせたセビチェも捨てがたし。甲乙つけがたい美味しさのセビチェでした。
今回はペルーの一般的なセビチェのレシピを紹介しますが、是非、皆さん好みにアレンジして楽しんで下さい。
●本場ペルーのセビチェのレシピ
《材料》
魚介類のお刺身 350g
ライムまたはレモンの搾り汁 半カップ
紫玉ねぎ 半個
パクチー たっぷり
唐辛子 1〜2個
魚貝類のお刺身を用意し、一口サイズにぶつ切りにしてボウルに入れます。ペルーでは白身魚を使う事が多いのですが、日本で作るのならマグロやメバチ、ホタテの貝柱などでも美味しいかと思います。
冷水に塩を少々混ぜ、ボウルに入れたお刺身を覆うように浸します。
紫玉ねぎを薄くスライスし、冷水に5分ほどさらしてから水気を切ります。
ボウルの魚を冷水で洗い、余計な塩分を取り除きます。
ガラスの器に魚を入れ、紫玉ねぎ、パクチー、刻んだ唐辛子、レモン汁を加えて混ぜます。
蓋をして冷蔵庫で5〜15分ほど寝かせます。魚が白く変色したら出来上がりのサインです。
すでに魚貝類と混ぜてありますが、各自お好みで紫玉ねぎ、パクチー、唐辛子を増量出来るよう小さな器に盛って一緒に出します。
ペルーのセビチェの特徴
セビチェのレシピは作る人の数だけあります。レモン汁に擦ったニンニクを入れたり、魚の出汁を加えたりする事も多いです。ペルーでは茹でたサツマイモ、キャッサバ、ジャイアントコーンなどをセビチェの下にしいて汁と一緒に食べるので、濃い味レシピの方が好まれるようです。
汁なしの状態でサーブされる事もあり、その場合はセビチェを作った後の汁はグラスに入れられアペリティフとして飲みます。魚介の旨味がたっぷり詰まった白濁したセビチェの汁は、レーチェ・デ・ティグレ(虎の乳)と呼ばれ、これだけを注文する人もいるほどの人気メニュー。夏バテを防ぎ、食欲を増進させる働きがあります。ペルーのバイアグラなんて呼ぶ人もいるので、女性は恥ずかしがってあまり飲まないのだそう。
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本場の味はパクチーで作りますが、苦手な人も多いかと思います。ペルーな感じは削がれますが、バジルやシソの葉などで代用しても美味しいです。レモン汁に漬ける時間はお好みですが、漬け過ぎないよう注意して下さい。食べる直前に作るようにして、とにかくささっと短時間が本場ペルーの味です。外側は白っぽく変色しても中は生の状態が一番美味しいとの事でした。
ただこれは日系移民が多いペルーのセビチェの大きな特徴で、刺身文化が浸透しているからだと思います。
メキシコやエクアドルで食べたセビチェは、魚を細かく切って長時間レモン汁に漬け、かなりしっかりと締めてありました。ペルーでは魚もかなり大きめのサイズにカットしてあり、生魚の食感を楽しみます。
セビチェの注意点
とても美味しいセビチェですが、生の魚であるだけにアニサキスには注意して下さい。アニサキスはマイナス20℃以下、24時間以上の冷凍で死滅します。先進国では冷凍が法律で義務付けられていますが、ペルーでは若干不安が残ります。アニサキスは激しい腹痛や嘔吐だけでなく、下手するとアレルギーが出て一生魚が食べられなくなります。
不安のある国で生魚を食べる時は、新鮮な魚を食べる事が一番大切。地元の人達の評判の高い、安心感のある店で食べるようにしましょう。
ペルーの人達はセビチェを夜に食べないので、セビチェ専門のレストランはランチ営業を終えたら閉店します。獲れたての新鮮な魚を朝のうちに調理して、昼までに食べ終えてしまう。冷蔵庫が無かった時代の名残です。冷凍技術も衛生観念も進化した現代においても、ペルーで夜にセビチェを食べるのは外国人観光客だけです。
(2021年6月30日発行「素材のちから」第41号掲載記事)