インドいきたい
実は、インドに行ったことはありません。課題の供養。
成田を発って三日目。教科書のなかの、知らない国。
すべてが新鮮で、耳も目も、食傷気味だ。
サリーをまとった集団とすれ違う。
髪が濡れている。身を清めてきたのだろうか。
手元の洗濯物は、水気が多いらしい。
東京は、もう夜か。今日の夕焼けは何色だったかな。
ひとり、二本足でこの地面にたつ足元を見た。
俯いたまま、郷愁にふけっていると、カレーと人間の香りに交じって、
突然、水の匂いがした。やがて、喧噪がしだいに大きくなる。
あたり一面のオレンジ色に、足がとまる。
遥かむこうで鏡合わせになった西日が、
水面に散っては集まって、宝石のようだ。
いつも見上げていたあの空と、同じ色だ。
河に浸かり、何度も頭から水を被っては、祈る老人。
シナモン色の肌に滴る雫の向こう、ベレナスの真っ赤な影絵がゆらいで、
ぽたり、母なる大河になった。
はるか昔からこの国では、一生を終えると、この流れに還るらしい。
ガンジス河。
いま私は、その揺籃に抱かれようとしている。
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