家も名字も同じってコトは夫婦だよね?

※登場人物※
『お兄ちゃん』

想定を軽々と超えてくる行動をする妹娘ねこをいなし続けるお兄ちゃん
『桃萌(もも・娘ねこ)』
お兄ちゃんと結婚出来るコトを全く疑わず
今や結婚よりも夫婦になった時の夫婦生活をシミュレーション中

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「ただいま」

家の玄関を開け家の中に入ると
スパイシーな感よい香りが鼻をくすぐる。
夕飯はカレーなのかな……などと考えていると、
パタパタとスリッパの音が近寄ってくる。
そして

「おかえりなさい、お兄ちゃん!」

「うん。 ただいま、桃萌」

玄関まで迎えに来てくれたのは、双子の妹(という設定)の娘ねこ、桃萌。

「お兄ちゃんにも連絡が行ったと思うけど、
 お父さんもお母さんも明日まで帰って来ないんだって」

フリルやレースが使われた水着なのか下着なのか……そんな姿をしている。

「そうらしいね。
 飯は外で食おうかとおもったけど、
 この香りがするってコトは、桃萌がつくったのかい?」

「うん! お兄ちゃんの好きなグリーンカレーだよ」

「おお! それは楽しみだ!」

「えへへ……喜んでくれて嬉しいな!」

「じゃあ部屋に荷物を置いてくるよ」

とりあえず桃萌の姿に関してはスルーという事で――

「ところでお兄ちゃん?」

素通りしようとしたところ、腰に手を当てて近づいてくる桃萌に
呼び止められた、ダメだったか……。

「ん? どうした?」

「桃萌のこの姿になにゆうことはないのかな?」

「……」

「…………」

「エアコンが壊れて、暑いから水着になっている……とか」

「エアコンはちゃんとお仕事してくれているよ」

「洗濯物をしすぎて、水着しかない……とか?」

「そんなコトはありません」

「……うーん。
 海に行きたいアピール、とか?」

「にゃぅ! それは行きたい!
 お兄ちゃん海に遊びにいこう! 絶対いこう!」

「正解と言うことで……荷物置いて、部屋着に着替えてきて良い?」

「ダメ、着替えはリビングに用意してあるよ」

案外至れり尽くせりだな。

「お兄ちゃん?」

「ん?」

「お父さんもお母さんも居ないってコトは、
 この家にいるお兄ちゃんと桃萌はほぼ夫婦ってことなんだよ」

「ちがうよ?」

「だから、お兄ちゃんが帰ってきた時の対応に、妻として不満があります

「妻じゃないけど、そうなのか……
 でも、あんまりそれが長くなるならケーキを冷蔵庫に入れたいんだけど

手に持っている紙袋を桃萌に見せる。

「にゃぁぁ! 『ちゃりおっと』のケーキ!」

「帰りがけに店長さんから試作品が出来たからって連絡をもらってね。
 桃が大好きな桃萌に感想を聞かせて欲しいんだってさ」

「にゃにゃっ! 見せて見せて!」

露出の高い服でぴったりとくっついてくると、当たる肌面積が広くて困る。

「ふわぁぁぁ~♪ 桃のレアチーズケーキ!」

「うん、お店に出す前に感想を聞きたいんだって。
 後で食べて、明日にでもお店に行ってきなさい。
 れあちゃんも楽しみに待っているそうだから」

「あ、お兄ちゃん……れあちゃんに会ったんだ……」

「お店に出ていたよ。
 しっかりした娘になってきな……かわいいし」

「にゃにゃっ!
 お兄ちゃんは『ちゃりおっと』にひとりで行くの禁止!」

「なんでだよ……」

「にゃぅ……なんか変な感じになっちゃったから、
 ケーキを冷蔵庫に入れたら、夫を迎える妻をちゃんとやり直すからね

「今迎えてくれたんだからやり直す必要は無いと思うんだけど」

「ただいま、ってまた入ってきてね、お兄ちゃん♪」

  ◆◆◆Take2◆◆◆

「ただいま」

「お兄ちゃん、おかえりなさい♪
 今日はお父さんもお母さんも帰って来ないから、桃萌が夕食を作ったよ」

妻設定でやり直しても、そこはお兄ちゃんなんだ。
こういう所は桃萌らしくて微笑ましい。

「そっか、ありがとう。
 じゃあ荷物置いたらご飯にしよ……ん?」

覗き込むように視線を送ってくる。

「お・兄・ち・ゃ・ん?」

「あ、あーっと……桃萌、それは水着?なのかな?
 何かあったのかい?」

「えへへ、お兄ちゃんに見せたくて着て待ってたの」

「……」

「見せたくて待ってたの~」

「……」

「ま・っ・て・た・の?」

「よく似合ってるよ、桃萌。 凄く可愛い」

どこからこういうのを探して来るのか。
……ただ似合っているからなんとも困る。

「えへへ、ありがと。
 思わず襲いかかりたくなっちゃう?」

嬉しそうにくるりと一回転して見せてくれる。
そして、向き直すと頬をうっすら赤く染めて
胸の前で手をわせて、小首をかしげながら――

「えっと……お兄ちゃん?
 ご飯の前に桃萌にする? ご飯の後に桃萌にする?
 それとも、すぐ桃萌にする?」

三択に見せかけて三択になってないコトを言い出す。

「普通だとさ、ご飯にする? お風呂にする? それとも、わたし?
 みたいな感じじゃない? 桃萌の選択肢だと逃げ道がないんだけど」

「うん。
 お兄ちゃんに逃げ道はないんだよ。
 だから桃萌と子供つくろ?」

バンバン飛ぶ話に少し目眩がする。
が、この流れに負けるわけにはいかない。

「色々すっ飛ばしてないかな? あと、ちゃんとお兄ちゃんと会話しよう

こんなコト言っても止まらないとわかりつつも、
言わずにはいられなかった。

「桃萌ね……思ったんだよ。
 お兄ちゃんと桃萌は一緒に住んでいるでしょ?
 それにもうずっと同じ名字だし……
 これってもう結婚しているってコトなんだなって」

「兄妹だから家も名字も同じだよね」

「だから、結婚っていうコトにはもう拘らなくてもいいのかなって……
 桃萌とお兄ちゃんに必要なのは、
 書類や法律じゃなくて……既成事実だと思うんだよ……にゃっ♪」

「……」

顔を赤くして照れながらとんでもないコトを妹が言いだした―

「でも……」

まるで恋する乙女のように赤くなた頬に手をあてて――

「お父さんもお母さんも認めてくれているから
 既成事実もいらないんだけどね……」

両親を巻き込んだトンデモ発言を言った――

「でもね、お兄ちゃん……こう桃萌は思うんだ。
 お兄ちゃんはちゃんと責任をとってくれる人だから、
 しちゃうだけしちゃえば、あとはどうにでもなると――」


その後――
水着を着たままの妹とキッチンで夕食を食べ、
リビングのソファでケーキを食べるはめになった。

【おしまい】

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