あのきのこがすごいとかなんとか

ある日、その森はきのこの話題でもちきりだった。
「それは今まで誰が見たきのこより一番美しい形をしているらしい」
「それは今まで誰も見たことのない形のきのこらしいよ」
「昼間と夜では別物のように見えるらしい」
「目の前にあるのに、ある人には見え、ある人には見えないらしい」
動物たちはにわかに信じ難いような話を次々に口にした。
本当かどうかなんてどうでもよいのだ
どれだけ相手がびっくりするような話ができるか、それが大切なのだ
「そのきのこを持つと空を飛べるらしい!」
「そのきのこを食べると死なないらしい!」
びっくりきのこ自慢話大会はどんどんエスカレートしていく。

そんな中、一匹のきつねだけは難しい顔をしていた。
時に首を傾げたり、下を向いて考え込んだり

「そのきのこはね、黄色なのに青くて、青なのに黄色なんだ」

キツネは誰かがどこかでぼそっとつぶやいたのを聞き逃さなかった。
「今なんて言った?」

「そのきのこはね、黄色なのに青くて、青なのに黄色なんだったんだよ」

その声はもう一度そうつぶやくと、
「ルールーラタタラタタ、ルーラルーララン」
と小さな声で機嫌よく歌い始めた。
どこから聞こえる?
キツネがきょろきょろ声のする方向を見つめる。
大きな楠木の上から満月が顔をのぞかせている。
楠木の枝にイタチがいる。イタチ?・・・・ではない、もっとその後ろの方。
リス?・・・ではない、もっともっと下の方。
「ルールーラタタラタタルーラルーララン・・・ルールーラタタラタタ・・・・」
キツネが目線をぐっと下におろすと
そこには地面からひょっこり顔を出したモグラがいた。
モグラは、歌うのをやめると自分からは到底届かない高い場所にある月に向って
すぐそこにあるものに触るかのようにすっと手を伸ばし、そのままうっとりと見つめていた。
「ねぇきみ!」
キツネが声をかけると同時に、モグラは幸せそうに微笑みながら
土の中にもぐってしまった。

#交換小説
#yumi

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