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BOOKOFFで買った官能小説2冊とサンボマスターのCDをリュックに入れて

向かったのはオガタ先輩の病室。他の先輩なら花や焼き菓子、あとは心が軽くなるようなエッセイ本なんかをお見舞いの品にするが、以前俺が入院した時に山田まりやとほしのあきの写真集、それに爆風スランプのCDを持ってきてくれたオガタさんだから、変化球を投げなければいけない気がした。

「お前さー、令和5年にCDって、どうやって再生すんだよ」

そう言いながらサンボの歌詞カードをめくるオガタさんは、想像以上に激痩せしていた。

俺とオガタさんは昔バンドを組んでいた。レコード会社の目にとまってデビューできるかも、という時にドラムのヤマグチとボーカルのオガタさんが大喧嘩をした。テンポが一定じゃない。あんただってピッチが悪すぎる。まるで高校生のような喧嘩だった。

「MIDI音源じゃないんだから、テンポだってピッチだってゆらぎがあったほうがロックじゃね?」と言ったら、二人ともきょとんとしていた。MIDI音源が通じなかった。しかし二人ともロックという言葉には弱かった。

その日以降、「これロックじゃね?」「それロックじゃなくね?」は俺らの合言葉であり判断基準になった。山田まりやはロック、細川ふみえはロックじゃない、青木裕子は超ロックだった。

「官能小説はロックだと思うんだけどさ、よりによってナースものを買ってくるお前はクラシックだわ」

そんな話の最中に看護師さんが入ってきそうだったので、2冊の文庫本は枕の下に隠された。

「先輩、きっといい夢見られますよ」

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