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リビングの床には赤い髪の毛と3本の瓶

彼女のマンション(岡村靖幸風に言うならばメンション)の床には、いつ行ってもバーボンのボトルとキンミヤのボトル、そして赤ワインのボトルがきれいに並んでいた。

キッチンの片隅、ダイニングの棚なんかに並べることが多いであろう酒瓶を、彼女はソファのすぐ横、床の上にじかに置いていた。なんならソファに座ったままでも、手をのばせば届く位置。少しずつ高さが違う酒瓶は、ケータイのアンテナ表示のようだった。

以前こんな話を聞いた。

「うちのお父ちゃんって毎晩晩酌してたんだけど、いつも手の届く場所に焼酎を置いてたの。それで畳の上にね、まーるい跡があったの。一升瓶の跡」

彼女のお父さんはたしか飲み過ぎだかアル中だかで肝臓が大変なことになってしまい、今は一滴も飲めないという話だったが(そして今でも肝臓以外は絶好調で元気に暮らしているようだが)その畳のまーるい跡、わずかに凹んでいる陰影を想像して、めっっちゃ九州っぽいエピソード!と感動した。そして焼酎の大瓶をみたり掴んだりする度に、その見たことのない "畳丸" を想像する。

「いつかこのソファの横にも、まーるい跡ができるかもね」

今日も瓶の位置を少しずらしてワイパーで床を拭く。ソファの下は特に入念に拭くのが清潔のマイルール。たまった埃と彼女の赤い髪が床拭きシートに絡め取られたのを見るのが好きだ。

瓶から1滴2滴こぼれたお酒が、この埃と髪の毛にもちょっとはしみ込んでいるのかもな、なんて思いながら、仕事を終えたシートをゴミ箱に放り投げた。

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