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バイバイ、サンキュー


この日は、半年前くらいから一番の楽しみにしていた日であり、でも一番来てほしくない日でもあった。
「失うこと」をむやみやたらに恐れている私は、楽しみなことは、待っているときが1番楽しくて幸せな気がどうしてもしてしまうから。

BUMP OF CHICKENの
アルバムリリースツアー、aurora ark。
7月に始まったこのツアーも、
11/4東京ドーム公演でついに最終日。

早く早く、早く会いたい、大好きでたまらないBUMP OF CHICKENの曲を聴きたい感じたい。

でも、でも終わってほしくない。


このツアーでのLIVEの始まり方はとても素敵。
新アルバム「aurora arc」の一曲目インスト曲のaurora arcが流れると共に、全てがゆるりと動き出す。

喜びと緊張で、呼吸がうまく出来なくなるような感覚。

冬の早朝の澄んだ空気のような、ふと空を見上げたときに目に入るまばらな星空のような、少し切ないメロディーのaurora arc。
それに合わせて薄暗い照明の舞台に上がっていくメンバーたち。
その様子を、ただ静かに見守る。

aurora arcの、最後の音が鳴ると同時に、大画面いっぱいに映る『aurora ark』の文字。

そして、ゆっくりとギターを掲げる藤くん。

そのゆったりとした動作は、
まるでなにかの誓いみたいだ。

この光景が、もう、あまりにも綺麗すぎて、
曲が始まってもいないのに目の前が滲んでしまう。

この圧倒的な雰囲気にのまれてしまった私たちを目覚めさせるように、照明がぱっと明るくなり、すぐに始まる一曲目。aurora。

この日の、藤くんの歌声を聴いた瞬間、
今日の彼の尋常じゃない想いの丈というか、
力の入れようというか、
今までのライブとは違う、
とても強い気持ちを感じて、
それが歌声や画面に映る表情に明らかに
出ていて、ああ今日は、
本当に最後の日なんだなと、
改めて思い知らされてしまう。

曲の合間に藤くんが叫ぶ。

「全部置いていくからな、全部受け止めろよ」

そんなの、そんなの当たり前だ。
彼らが発信してくれるものを全部受け止めるために、今日私はここに立っている。

藤くんは歌いながら、何度も涙を堪えるような表情をしていて。

前回までと明らかに違ったこと、藤くんはいつも目を瞑って歌うことが多いのだけど、今回は目を開いて歌っている場面が多かったこと。
観客の声援を、気持ちを、表情を、全部を受け止めるように、こちらにまっすぐ視線を向けて歌う。
長い前髪から覗くその真っ直ぐな瞳は、陳腐な表現になってしまうけど、とても美しいとしか言いようがない。

5曲目くらいかな、車輪の唄を歌ってくれたとき、本当にたまらない気持ちになった。

「約束だよ 必ず いつの日かまた会おう」

別れ、そして前へ進んでいく曲。
明らかにそれを意識して、丁寧に、力を込めて歌う藤くんの表情がもう、涙が溢れないように力を込めているんだけど、多分泣いてたんじゃないかな。
そんな表情を見てしまったら、
こっちが泣いてしまう。

曲の合間に、メンバー四人で何度も
「ああ、もう半分終わっちゃった」
「このイントロ弾いたら始まっちゃうな…」

なんて、4人で噛みしめるように
ぼそぼそと話していて。

ステージの上の彼らのこういう様子を見て。
このツアーが、このライブが終わってしまうのを嫌だな、寂しいなと思っているのは、他でもない藤くんであり、BUMP OF CHICKENのメンバーなんだってことが、その想いはきっと私たちの比じゃないんだということが、分かってしまって。


「記念撮影」では公開されたばかりの新しいPVを流してくれたこと、「リボン」では『強くなれた 弱くなれた』の部分を『強くなれた 強くなれた』と歌詞替え、話がしたいよでは『夏の終わる匂い』を『君の好きな匂い』と替えてくれたこと、他にもたくさん歌詞を変えて歌ってくれたこと、その多くが『愛しい』『離れたくない』というような意味の言葉だったこと、「GO」のイントロで突然メロディーフラッグを歌いだしたこと、大画面での演出が多分、他の公演とは少しづつ違っていたこと、「ray」で『生きるのは最高だ』という歌詞を大画面いっぱいに映してくれたこと、藤原基央が「生きるのは最高だ」という歌詞を書き、私たちに伝えようとする意味、「流れ星の正体」が始まる瞬間に会場が暗くなって、流れ星がひとつ、音も無く、すっと流れたのがあまりにも儚く、綺麗で驚いたこと。

会場の雰囲気、細やかな演出、歌声、自分が感じたことをなるべく覚えていようと思って、でもライブが終わった瞬間からどんどんこぼれ落ちてしまう、そのことが本当に歯痒い。

夢のような時間は、驚くくらいあっという間に過ぎていく。
アンコールを終え、舞台に1人残った藤くんが、やっぱりいつものように堰を切ったように語り出す。

「俺の音楽は君のそばにいる、そのことに君は気づかないかもしれないね、でも、そばにいるんだ、そのために、俺は音楽を作ったのかもしれない、それには根拠がある、世の中に数え切れないほどある音楽の中から、君は俺たちの音楽を見つけてくれた、何万分の1に、君が俺たちをしてくれたんだ、だから今度は、俺たちの音楽の方が、君に会いに行くんだ。」

「俺らのバンド、かっこいいだろ?」

「ああ、魔法みたいな時間だった。
でもこれは魔法じゃない。
俺と君の間に、音楽があって、待ち合わせが上手くいったってことだけなんだ、これは特別なことじゃない、
今日だって、特別な日なんかじゃない。
明日は今日の続きなんだ、そのことを忘れないで」

「ああ、ツアー終わっちゃったな、寂しい
宇宙のどこにいたって抱きしめるぜ
アイラブユーだよ
また、お前らに会いに来る口実を
作りに来るから」

「じゃあね。おやすみ。」

この言葉も、歌詞も、藤くんが私たちにくれる言葉には、どんなに大切だったことも時間の流れとともに忘れてしまう瞬間があったり、大切な人とずっと一緒には居られないんだろうな、というような、しんみりしてしまう言葉がたくさんある。
でも不思議と、そういうことを「でも大丈夫なんだよ」と、必ず肯定的なところに持っていってくれる、そういう温かさと優しさがたまらなく好きなんです。


この日の出来事は、魔法なんかじゃないし夢でもない、特別なことでもない。
昨日は今日の続き、今日は明日の続きで、これからもそうやって時間は等しく過ぎていくし、感じたことは忘れちゃうし、全てのことはそんなこともあったなあなんて思い出になってしまうんだろう。

でも、それでいいんだ。

少しでもまた思い出せるように、私はこうして文章にして残すし、「また会いに行くよ」と言ってくれるバンプのライブにこれから何度だって足を運ぶんだ。

これはもう、信仰なのかもしれない。

何度だって言う。

BUMP OF CHICKENは、私の救いです。



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