クダン様①
「母ちゃ~ん……!ねえちゃ~ん……!だれかぁ~……
どないしよ……どこ行っても木ィばっかしや……
帰り道、わからんなってもうた……
いたっ…!はぁ?なんやねんこのでっかい毛むくじゃら!?」
「困ってるのか?」
「へ?うそ、やろ?……!!
毛むくじゃらが喋っとるぅぅぅ!!??」(ぴゅー)
「おい、そっちは崖だぞ」
「んなあああああ!!!」(ズガサアア!!)
ーーーーーーーーーーーー
「引き上げてくれてありがとうな、毛むくじゃらのオッサン……」
「オッサンではない。件様だ。」
「クダンサマ?えらいけったいな名前やなぁ。
手ぇも蹄やし、人間ちゃうやろ?」
「気にするな。オマエ、迷子なんだろう?」
「気にするやろ!?てか迷子ゆうな!はずいからっ!
知らんとこまで来てもうただけや!
それにオレかて、アキヒトっちゅう名前があんねん!」
「アキヒトはこんな森の奥深くで何をしていてるんだ?」
「え?…カラスを追っかけてたら、知らん間にこんなとこまで来てもうた」
「カラスを追っかけて、か」
「キレイな緑の石拾ったから、
持ってる石と一緒に庭に並べて遊んどったら、
カラスが飛んできて、持ってってしもうたんや。
せやからめっちゃ追っかけて……」
「それで道に迷って、帰れなくなったのか。幼稚な理由だな」
「幼稚ちゃうわ!キレイな石とか、なっがいネジとか、
でっかい鳥の羽根とかはな、色んなもんと交換できんねん!
友達の弁当のおかずとか、宿題やってもらったりとかな!
ばあちゃんなんかカネと交換してくれんねん!
地道に集めた商売道具やぞ!?」
「なるほど。そんなものが稼ぎになるのか。盗られてしまって残念だな」
「ほんまやで。あのカラス、見っけたらゼッタイいてこましたんねん……!
……と思ったけどやっぱええわ。もっとオモロイもん見っけたからな!」
「オモロイもん?」
「オマエや!!毛むくじゃらのオッサン!クダンサマゆうたか。
ウチの庭に来てぇや!クダンサマを見に来た人全員から見物料取ったる!
絶対カネになるで!!」
「商売するには交渉からだろう。それで私に得はあるのか?」
「悪いようにはせんって!クダンサマ毎ぃ日こんなジメジメした森ン中で、
1人でキノコばーっかり食うとるんやろ?そんな淋しい毎日よりな、
ウチで一緒に暮らした方が楽しいで?母ちゃんと姉ちゃんも喜ぶわ!
でっかい犬とか好きやしな!あ、別にクダンサマはなんもせんでええで?
のーんびり昼寝したり、テキトーにお喋りしたり、黙っててもええわ。
カネが入ったら好きなモンなんっでも用意したる!
松坂牛のステーキとか食いたいわなぁ?
このまま森におったらゼッタイ手に入らへん幸せが、手に入んねん!
な?悪くないやろ?」
「よく喋るな。後半はアキヒトの欲望だろう。」
「どや?ウチに来んか?」
「生憎だが私は、好きで此処にいるのだ。
余計な人間と関わるつもりはないし、ステーキは食べない。」
「なんやねん…オレに話しかけたクセに」
「森の中で騒がしくしているからだ」
「せっかくトモダチになれたと思ったのに、
一緒に帰られへんのかいな……。
ほんならせめて、出逢いの記念にお土産ちょーだいや」
「お土産か」
「ツノ…」
「ツノがなんだ?」
「その金ピカのツノ分けてくれ!
オレが集めたどのオタカラよりもキレイや!それが欲しい!」
「渡せるはずないだろう」
「とぅりゃ!」
「ばかもの!離さんか!」
「うぎぎぎ……先っちょくらい削って寄こさんかい!」
「くっ、こら、齧るなッ!」(ブンッ)
「ぐへ…っ」(ドサ)
「まったく…知っていても対処しかねるな」
「え?知ってる?」
「こちらの話だ。それより、アキヒトに渡すものがある」
「あ!これ!?カラスにパクられた石やんか!!
ありがとう!クダンサ、マ…っ?」(ヒョイ)
「取引」
「チっ…」
「条件は2つ。私のことは誰にも話さないこと。
そして、二度と森の奥へ来ないことだ。
代わりに、帰り道を案内し、この石も返す。……どうだ?」
「う~ん……分かった」
「よし、ではついてこい」
ーーーーーーーーーーーー
「ここを真っ直ぐ進めば、すぐに知ってる場所に出られるだろう」
「おおきにー……」
「さっきから静かだな。
アキヒト、……オマエ、石を受け取らないつもりだろう」
「うぎっ…?!あははー……なにゆってんのぉ~?」
「誤魔化しても無駄だ」
「でい!!(ダッシュ!)
道は教えてもろたから、クダンサマのことは誰にもゆわん!
せやけど、石は受け取ってへんからな!また来るで~~!!」
「どこまでも勝手な子どもだな……」
【メモ】
●件様は予知したことを断定して口に出すと死んじゃう
●災害などの大きな予知は瞑想時に視れる
●自分が直接かかわる未来は、瞑想しなくてもある程度視える(2~3日分?)
●出来事を知れるだけで細かな言動までは予知できない(瞑想すればいける)
●基本的に未来を変えようとしない方針
●カラスを追って子どもが迷い込むことは分かっていたが、どういう人間か
何しに来たのか、心の中や人となりまでは分かっていなかった
(でも予知したことを、心を読んだように問い質す、小狡いことはできる)